〒 みなさま
こんにちは、円野まどです(*´∨`*)
個人の普通の日記です。
今日は全体的に地を這うような話で、ヘイトパワーがすごいので「わはは!バカだなあ」みたいな容量に余裕があるときに読んでいただければ 幸いです。
「冗談だよ、何怒ってるの?」について考えた話
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登場人物
Yちゃん:大学生の時バイト先で知り合ったお姉さん 最近昇進した
私:筆者円野まど 引きこもりの甘ったれ メイクはほとんどしない。
アイちゃん:仲良しのお姉さん、取捨選択がしっかりできるタイプ。
Yちゃんの昇進
「夜、例のそばでも食べに行こうよ。」
Yちゃんからそんなメッセージが届いた。「いいよ」と短く返す。
何を着ていこうか考えながら、外はどれくらい寒いのだろうと思って窓を開ける。
吹き込まれる風は室内とは段違いの冷たさで、「さむ」と小さな声が漏れた。
気温に似つかわしくないよく晴れた空をぽかんと見上げていると、またスマホが光る。
「昇進の内示でた。18時に新宿で。」
私の目が見開いていくのを自覚しながら「えっ、ほんとに。」と携帯に声をかけた。
そしてもう一度覗き込んだ画面にある朗報に、私は窓を全開にしたままニヤニヤと笑った。嬉しい。
Yちゃんは、あまり感情を表に出さない人だ。
喜ぶときもフッと、目と口元をわずかに緩ませるだけ。
口数は少ないのにどこか面倒見がよく、話を聞くのが上手だった。
ファッションもかわいい系ではなく、無駄のないスタイリッシュな服装を好んでいる。
170cm前半と背が高い所や前髪のないストレートボブも、彼女のクールなイメージを助長した。職場の後輩や年下の友人など多くの人に慕われていてよく「かっこいい」とか「アネゴ」と呼ばれている。実際、尊敬できるひとだと私も思っている。
けれど、それがまた別な作用をもつこともあった。
「女性で管理職ってだけで、とげとげしく見える事もあるから後輩の女の子に接するときは、特に柔らかくね。」とか「Yさんはただでさえ恐そうに見えるんだから、気をつけてね。」と上司に言われるようになったのだ。
その延長で新入社員と会話するときに、必ずYちゃんをオチに使うような上司も現れた。「Yさんみたいになっちゃうよ」とか「Yさんは婚期逃がす覚悟だけど、君たちはそこまで頑張らなくていいから!」と言われた時はさすがに、戸惑っていた。
「今は人手不足で私たち先輩が、新人辞めなくていい環境を作る事って大事だもんね」と前置きした上で「30を越えると、社会にはおばさんじゃなくておじさんとして扱われるようになるのかな」と冗談ぽく、でも力なく呟いた。
彼女にあるとても素敵な所の一つが、ここで腐らないところだ。
それから、愚痴らしい愚痴もいわず努力を続けて彼女が得たポストは、歴代最年少抜擢かつ女性初のものだった。
仕事だから、実力の評価ではあるのだろうけれど、どこか彼女のひたむきさへのご褒美に感じてなんだかむしょうに嬉しかった。
いつもは結構適当な格好で出掛けるのに、とびきりすてきな服が着たいような気持ちになる。靴は何を履いていこうかな。
Yちゃんのことが大好きな後輩の女の子の笑顔が浮かぶ。あの子も喜ぶだろうな。
彼女のもう一つの顔
私は待ち合わせより少し早く新宿に向かった。
ささやかな昇進祝いを選ぶため、色々お店を廻りたかったのだ。
二軒目に入ったお店で、前にYちゃんが欲しがっていたルームフレグランスを見つけてそれに決める。思ったより早く買い物が終わった。
時間にはまだまだ余裕があるからあちこち見てまわろうかなときょろきょろしていると、斜め前のコスメショップによく知った人がいる事に気付いた。
Yちゃんだ。
(Yちゃんも早く着いてたんだ!)
嬉しくなっていそいで近づくと、すこしどきりとした。
久しぶりに見た彼女はとても青白い横顔をしている。
「Yちゃん!」
「あっ。」
Yちゃんは幾つかのリップグロスの色を確かめているところだった。
すすすと横に並んで、私も近くの商品を見た。かわいいリップスティックがあったので、デザインを見ようと手にとる。
「こんにちは~。」
その時、真横にきれいなお姉さんが立った。ネームプレートをつけているので、お店の人だとすぐに分かった。
「そちらは化学的な成分を使用せず、お肌本来のもつ自然治癒力を高めることをコンセプトに作られた商品なんですよお」
その人はとても自然に、雑談でもするようなトーンで説明を続ける。「とってもピュアな成分で」というワードが多発する。一通りお話をした後、仕上げのように私の手にある商品を見つめてニッコリと笑った。
「なので、香りだけでも確かめて見ませんか?」
言えない。表面に描かれた絵がスカンクに見えて「ほほん、めずらしいなあ。」みたいな気持ちで確かめようとしただけとは。その上、好奇心を胸におさめきれず、「これはスカンクですか?」と聞きたい気持ちすらこぼれそうだった。(※リスでした)
自分に流れるひょうきんものの血を恨みつつも対人スキルが低いため、「そっそうですね。」と快諾する形で話を進行させてしまい更にデスロード突き進む。さまざまな緊張と恥ずかしさで顔が熱くなってまごまごしていると、トークが隣のYちゃんにも向かった。
「今お手にとっていただいている商品、新色にピーチの香りのやさしいピンクのグロスがありまして、宜しければ試してみませんか?」
疑問系で終わってはいたが、既にテスターを開封し始めている。
Yちゃんが「えっ」と言ってるうちに、お姉さんが席と鏡を用意して、あっという間に塗ることとなった。お姉さんは猛者。グロスが映えるように、わずかにメイクも手直ししていく。
「わっ!かわいい。」
思わず大きめの声が出てしまった。
ピンクのリップを塗ったYちゃんはいつものかっこいい雰囲気とは違って見えた。
ふんわりしてて、やわらかそうで、うまく言えないけれど「女性」じゃなくて「女の子」という感じだ。私はあまりお化粧をしないので何と言い表せばいいのかわからないけど、それは何年も知っている彼女の初めて見る顔だった。唇の色が違うだけでこんなに印象が違うことをその時初めて知って、そして新鮮に感動した。
「私にピンクは似合わないよー!」
あわてたようにYちゃんが言う、手には同じシリーズのベージュを持っていた。
「えー似合うよ!」
なんだか私が嬉しくなって薦めていると、更に嬉々とした声が横から響いた。
「わー!Yちゃん先輩だー!」
Yちゃんのことが大好きな会社の後輩の子が通りかかったのだ。
その子は新宿で部署の人何人かと飲み会があって、今は時間を潰しているのだと説明しながらYちゃんを覗き込む。それからものすごく顔を輝かせた。
「かわいい!こういうのも一本くらい買いましょうよ!まーた恥ずかしがっちゃって!彼氏の前でだけつければいいんですよー!」
思わぬ加勢が来た。これは買う運命というやつなのではないだろうか。
それから五分もしないうちに、Yちゃんは私たちの盛り上がりに折れた。そのピンクのグロスを購入したし、テストでつけたぶんも落とさなかった。
彼女が笑うたび、ほっぺたがすこし赤く見える。
口の色が明るくなって顔色がよく見えるのか、Yちゃんのやわらかさが引き出されているのか、どっちかわからない。
けど、なんだか今日はいい日だなって思いながら眺める。
ほんのちょっと口元の雰囲気が違うだけで、人のもつ空気みたいなものがこんなに変わるなんてすごく不思議だな。お会計をするYちゃんの髪が、お店の照明にあたってきらきら光って透ける。口元がすこし笑顔になった彼女はそれはとてもとてもかわいかった。
「冗談だよ」
お店のあったファッションビルを出て、近くのスタバでコーヒーを買う。
店内は混みあっていたので、駅前でお話をして、ショートサイズのドリンクを飲み終わったら解散しようと話していた。多分15分、20分くらいのことだ。
「そっちに混ざりたいですー!」
そんなことを言いながら、Yちゃんの後輩の女の子が彼女の腕をとって名残惜しそうにしている。それから私が全然メイクがわからないという話になったり、Yちゃんの会社であった面白い話をして、すっかり気が抜けたとき。
「あれ!Yさん!」
「ほんとだ!」
「一緒だったのー!」
皆さん40代後半くらいだろうか、スーツを着た男性2人と栄養状態の良い女性1人の三人組が話しかけてきた。その人達は、これから今話していた後輩の女の子が飲みに行く「同じ部署の人たち」だと後から知ることになる。
「Yさん今日かわいくないですか、さっきピンクのリップ買ったんですよ。」
後輩の子が、今来た女性に話しかける。その人から強い香水の匂いがする。そう思った時、Yちゃんの顔から笑顔がしゅっと消えた。えっ、と思うと同時にはじけるような3人の笑い声が耳に届く。
「ついに女にめざめた?」
1人はそう言って、悪気のない笑みを浮かべた。3人の掛けあいが続く。
「やっぱりねえ、前から思ってたんだよ、女の子はなんだかんだ言って愛嬌があるもん勝ちなんだから。今年こそ実家のお母さん安心させてやれ。」
「Yさんも婚活はじめるの?なんとかっていうお笑い芸人もパーティに参加してるとか、言ってるもんなあ。やれセクハラだ、時代が違うって言ったって、人間結婚して、子供生んでないとやっぱり周囲より欠落してるってぇもんだよなあ。」
「でもちょっと、ピーチはかわいすぎるんじゃないの。色気!そう!色気路線の方が可能性ありそうよ?背が高いのは縮められないから辛いわよね~。」
ここに書けないようなことも、何度か飛びかった。私は胸のあたりが痺れるような気持ちで、それを見ている。お皿の上にあった、きれいなきれいなケーキが突然誰かに手づかみで握り潰されたみたいな、そんな、失望と喪失感が染みていく。
数分のことだった。後輩の子がなんとか会話を強制終了させて3人の背を押して私たちから離れていく。何度もこちらに頭を下げながら。
そして少し離れた所で、3人のうち1人のおじさんが「なんだ、あんなの冗談じゃねーか、あんなことでアイツ拗ねてんのか?」と、ひょうきんな声をあげたあと、振り返りながらげらげらと歩いていった。
私のもやもや
後日、出社したYちゃんと会った彼らのうち1人は、もう一度「あんなん冗談だから、マジにならないで。」と屈託なく微笑んだと聞いた。
駅でのやりとりの後も、その話をした時もYちゃんは同じように振舞った。
「あれくらいのいじり、私は全然大丈夫だよ!そんな顔しないで。」
なだめるような声だった。怒るとも、悲しいとも違う気持ちになる。私はどんな表情をしていたんだろう。
「無神経な男性や年長者VSそれに傷つけられる女性」みたいに思ってるわけじゃない。男性でも女性でも、どんな人にも意図せず「冗談だよ」を免罪符に使う人や瞬間があるのだと思う。それに、顔を見てたからYちゃんをいじめようと思っていたわけじゃないことも何となく分かっている。
本当に分かる。すごく分かる。
ただちょっと笑ったり、楽しくしていただけで悪気なんて全然なかっただろう。それなのに相手が傷ついたことにきっと驚いたよね。そんな意図がなかったっていうこともよく、分かってる。分かってるから、相手の立場になって考えたい。それなのに。
Yちゃんが言われたことが、たまに無性に許せなくなる。
謝ってほしいわけじゃない。勝ちたいとか正しさを証明したいわけでもないし、そういったちょっとした砕けたコミュニケーションの全てを否定したら、かえってぎすぎすしたり、仲良くなれないことだってあるのも理解できるんだ。
けど、冗談にしちゃいけないことをしてしまったとき「冗談だよ」じゃなくて違う言葉がいいんじゃないのかな。
「じゃあその冗談にしちゃいけないことって何?」って聞かれたら、それを一体どう説明すればいいのか分からない。
どんな場面でも通用する説明やロジックを書きながら考えていたけど思いつかなかった。面白いことや楽しいこと、傷つくこと悲しいこと、人それぞれ違うから、絶対のルールなんて決められないんだよね。だから受け取る側が調節するのが早いのかもしれない。私は自分に対してはいつもそう思ってる。
でも。
あの日、すっかり冷えたコーヒーを捨てた後。いつものように笑っていつものように遊んだ。「例のお蕎麦やさん」にも行った。帰りにコンビニに寄りたいと私がいうと、Yちゃんはじゃあお店の外で待っていると言った。会計中、目が合うかなと彼女のほうをみる。彼女は私の視線に気付かない。
そして思い出したようにバッグから今日買ったリップを取り出して、一瞬だけ惜しむように眺めた後、ゴミ箱に捨てた。それから「ごめんね待たせて。」と私が声をかけたら、今何もなかったように自然な顔で冗談をいって、楽しい話を続けた。解散するまでずっと、彼女は泣かなかったし、落ち込んだ顔もしなかった。しなかったけど。
どんな人の悪気のなさも、信じたい。
ほんとに悪くたって、いいところを見つけるように生きたい。
けど、ゴミ箱に沈んだピンクのグロスを思い出すと、どうしようもなく胸が絞られるような気持ちになって、彼女を傷つけた無神経な言葉がこの世からなくなればいいのにと、思う気持ちばかり浮かんでくる。
*あとがき
長いうえ、モヤモヤする内容ですいません。
その後どうしても「うーん」と思って事の次第をアイちゃん(年上のオネエさん)にお話しました。彼女はそれを最後まで聞いたあと、手を大きく左右に振って「ないない!」と身をよじりながら
「ちょっとー!冗談で骨折させられても冗談なら許すしかないってこと?誰かァちょっとそいつの大事なもの借りてきてぇー!」
と両手をポキポキならしながら言いました。彼女は「撃っていいのは撃たれる覚悟のあるものだけだ(CV ルルーシュ/コードギアス)」の考えかたの持ち主です。なんとなく、なるほどなあと思って考えをまたあちこちにめぐらせていると、アイちゃんは更に
「自分がされてもいいことを、相手にして生きていくといいわよ。」
と話をしてくれました。きっと、アイちゃんはこういう時にちゃんと考えて「自分の答え」を見つけたんだろうなと思います。私もよく考えて、気持ちの方向を見つけたいなと思っています。
いろんな人の「冗談にするには苦しすぎるとき、どんな風に消化するか」を聞いてみたいなあと思いながら、今日は終わります。
ちなみにモヤモヤするときは大きい声で明るい歌を歌うといいですよ…。
私の場合は深刻な気持ちの時に、深刻なことを考えると大抵いいことが浮かばないので、できるだけふざけて暮らすことにしています。
長くなってすいません、読んでくださってありがとうございました!
それではまた、お便りします(*´∨`*)
円野まど
(ちなみにこのYちゃんと同一人物です)