Access Accepted第563回:欧米ゲーム産業に浸透しつつある「ブロックチェーン」技術
最近,暴落などのネガティブな話題でニュースに挙がることのある仮想通貨だが,その中核となっている技術が,分散型の取引システムの「ブロックチェーン」だ。そのブロックチェーン技術が畑違いの欧米ゲーム産業に浸透しつつあるようで,2018年に入っていろいろな話が聞こえてきた。今週は,そうした話題をまとめてみよう。
欧米ゲーム業界のベテランが仕掛ける
新たなゲーム配信の形
20181月16日,そのファーゴ氏が立ち上げた企業「Robot Cache」の発表が行われた。プレスリリースでは,「ブロックチェーン技術を利用した新たなディストリビューションシステムにより,PCプラットフォームにパラダイムシフトを起こす」と謳っている。
「ブロックチェーン」という言葉を聞いて,ビットコインなどの仮想通貨を連想する人は多いだろう。筆者も十分に理解しているわけではないが,ブロックチェーンとは,一定時間ごとに生成された「ブロック」と呼ばれるデータを,鎖のように連結する分散型データベース技術だ。仮想通貨に使われるときは「ブロックチェーン1.0」,また仮想通貨以外の金融に使われるときには「ブロックチェーン2.0」,そして金融以外の分野で使われるときは「ブロックチェーン3.0」と呼ばれる。
ファーゴ氏が立ち上げたRobot Cacheは,PCゲームの配信におけるデータ処理にブロックチェーン技術を使うことでデータセンターをなくし,それによって開発者と購入者の双方がメリットを得られる仕組みだ。実数が発表されていないのであくまで推測だが,現在,PCゲームの流通の70%は,Valveのオンライン配信サービス「Steam」が占めていると言われており,1億5000万人という膨大なユーザーのトランザクション処理は,Valve本社や各地にある巨大なデータセンターで行われている。
ゲーム開発者が,Steamのようなシステムを自分で運営,維持しようとしても,多くの資金が必要になり現実的ではない。この規模のデータセンターを構築できるのは,ValveやSony Interactive Entertainment,Microsoft,Electronic Artsといった大企業に限られるが,サービスを利用するデベロッパやパブリッシャは,売り上げの何パーセントかを対価として支払うことになり,それはゲームの価格に反映される。
データサーバーが不要になる
オンライン配信サービスの新たな仕組み
Robot Cacheではブロックチェーン技術を使うことによって,「ディセントラリゼーション」(一極集中の排除)を可能にするとファーゴ氏は説く。ゲームやDLCなどのアセットをアップロードするための最低限のサーバーは必要になるようだが,Steamなどでは,デベロッパは売り上げの30%ほどを支払うのに対して,Robot Cacheは最大でも5%程度になるという。
さらに仮想通貨同様,データ処理にタイムスタンプが含まれるため転売も可能で,やりとりされた金銭のうち,一定の割合がデベロッパの収入になるという仕組みも採用されるという。その収入は,売買が行われるたびに即時,パブリッシャなりデベロッパなりに送金されてくるため,ビジネス面から見て大きな変革になりそうだ。
我々ゲーマーにとってのメリットとして考えられるのは,言うまでもなくゲーム単価が下がることだろう。さらに,Robot Cacheでは,マイニングの構想もあり,貢献が特定のマイルストーンに達するたびに,Robot Cacheの仮想通貨「IRON」が払われる予定だという。
Robot Cacheだけでなく,欧米ゲーム業界の各所でブロックチェーンを利用しようという動きが始まっている。2017年末に起業されたNetwork Unitsは,ユーザーから提供されたPCリソースを,ローンチ直後に多くのプレイヤーが集まりやすいオンラインゲームのプロバイダに利用してもらうことで,ラグやサーバークラッシュを軽減させようというサービスを目指しており,協力してくれた人に仮想通貨を提供する予定だ。
また,フランスのゲーム開発会社であるB2Expandは,2017年10月にリリースしたMOBA風のストラテジー「Beyond the Void」を利用して,プレイヤーが購入したり作り出したアイテムをブロックチェーン化すると発表した。これはつまり,B2Expandが自社サーバーでアイテムを管理しないということで,すべてをプレイヤーの所持品にすることにより,自由な売買を促していくという。
個人的に仮想通貨には,博打的な投資や暴落の危険性,詐欺行為など,いささかネガティブなイメージを持っているのだが,その中核技術であるブロックチェーンは,これからの欧米ゲーム産業に大きな影響を与えていくことになるかもしれない。
2018年第2四半期にサービスを開始するというRobot Cacheが成功すれば,デジタル流通システムのあり方を変えてしまう可能性がある。Steamは15年をかけて当たり前の存在になったが,数年後は,今とまったく異なるディストリビューションシステムが完成しているかもしれない。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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