2018-01-28
日本図書館研究会第335回研究例会「雑誌の図書館 大宅壮一文庫の成り立ちとこれから」に行ってきた。
こういうのに行ってきた。
大宅壮一文庫*1は2015年に一度訪れて圧倒されてきた場所*2だが、改めて中の人の話が聴けるとなればそれはそれで興味深い。参加者は20名程度、老若男女。
という訳で、以下はxiao-2の聞きとれた/理解できた/メモできた/覚えていた範囲でのメモ。
- はじめに
- 大宅壮一文庫は、今年度で活動46年目。
- しかし近年認知度があまり高くなく、また財政的にも厳しい。そこでクラウドファンディングを実施して、幸い割と成功した。
- 大宅壮一文庫を知っている方は?(会場の大半挙手)
- 今日は以下の3部構成で話す。
- 大宅壮一と大宅文庫の紹介
- クラウドファンディング
- 大宅壮一文庫雑誌記事索引の紹介
- 大宅壮一について
- 大宅壮一は1900-1970。大阪高槻市の生まれ。
- 造語の名人。「一億総白痴化」「恐妻」等の言葉を残した。大阪人の活躍ぶりを華僑になぞらえた「阪僑」という言葉も。
- 写真もやっていた。ライカで、メモを「撮る」ということを始めた。ハーフサイズカメラを手にした写真が残っている。フィルムカメラが36コマまで撮れる、その中に仕切りを入れることで倍の72コマまで撮れるようにしたものがハーフサイズカメラ。これを2台持ち歩き、144コマまで撮れると自慢していた。
- 大宅壮一ノンフィクション賞を創設、若手の登竜門となった。またフリーの作家や評論家のクラブを作る等、マスコミ人脈を多く育てた。そのひとつの成果が大宅壮一文庫。
- ただ、大宅壮一の著作は現在入手可能なものが少ない。参考になりそうな図書としては下記3点。
- 作者: 大宅壮一,大宅映子
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2017/03/02
- メディア: 単行本
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日本ノンフィクション史 - ルポルタージュからアカデミック・ジャーナリズムまで (中公新書)
- 作者: 武田徹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2017/03/21
- メディア: 新書
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- 作者: 高橋呉郎
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2017/05/10
- メディア: 文庫
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- 大宅壮一文庫について
- 大宅は取材や執筆のため全国を飛び回っていたが、行く先々で古本屋を回っていた。チッキ*4で大きな箱がいくつも届くが、子どもたちがお土産かと喜んで開けてみると本ばかりでがっかりしたというエピソードがある。
- 収集目的は著書『実録・天皇記*5』や『炎は流れる*6』等の本を作るため。明治大正の本を大量に集めた。
- 亡くなった時の蔵書は20万冊。うち17万冊が雑誌であったことから、雑誌専門図書館として大宅壮一文庫がスタート。
- 溜める一方で、整理・分類にも力を入れていた。整理のための助手を自費で雇っている。
- 昭和30年頃の書庫の写真。母屋の横にブロック建ての書庫。これは現在も残っている。
- 1970年11月に大宅壮一が没し、翌年5月に文庫が開館。ずいぶん早い。スタッフや書庫等、生前から公開可能な状態だった。
- 現在の所蔵雑誌数は約1万タイトル、約78万冊。一番古いのは明治8年のもの。
- 雑誌コレクション*7
- 日本初の雑誌は『西洋雑誌』。タイトルに雑誌という語が使われた初めてのもの。慶応3年の相関。
- 明治から平成まで、雑誌は150年の歴史がある。これを通読していくと、研究者とは異なる視点が得られる。
- 大宅壮一文庫開館当初は、一日の閲覧が2~3人という感じで細々とやっていた。
- 書庫は8ブロック。スタッフが場所を覚えるのに1ヶ月ほどかかる。
- 雑誌は合冊製本しないで、背表紙も出た状態で保存している。
- 昔の『婦人公論』は、実は発行者にも所蔵がなかったりした。
- 書庫の写真。電動式書架もある。
- 立花隆が「田中角栄研究」を書くために利用したことで、大宅文庫の名前が売れた。
- 利用者の9割はマスコミの人。
- ネットの普及により利用が減り、財政的に苦しくなった。
- 3・11の時も無事。むしろガタついていた扉が揺れで直ったりした(笑)。
- クラウドファンディングについて
- 背景
- 大宅文庫は親組織や、運営のための基金等が無い。利用料だけが収入源。では利用が増えればいいか、というと、それはそれでコストも増えたりする。
- 公益財団法人なので税制上の優遇等がある一方、制度上色々と厳しい点もある。寄付を集めなければならない。
- 寄付の仕組みは従来もあるにはあった。賛助会員という制度。しかしだんだんと脱退や減額が増えてきた。
- 突破口として考えたのが、松竹大谷図書館*8のクラウドファンディング。Readyforを利用した成功例。
- Readyforの人に話を聴いたりして、2016年の5-6月にクラウドファンディングを開始*9。これはAll or Nothingの仕組みで、目標額を達成できなければ何ももらえない。
- 始めた理由
- 運営資金が苦しいという理由の他に、もう一つ理由があった。
- これまでの文庫利用者はマスコミが9割。しかしマスコミでも下請け会社が制作を行うケースが多くなり、わざわざ足を運べないことなどから利用が減っていた。従来の利用者を広げることができない。一方これまでの利用者と異なる層に訴えようにも、方法が無かった。
- 文庫は50年近く活動をしてきた。自分は30年働いてきたが、最近「大宅文庫」「大宅壮一」と言っても知らない人が多くなってきた。名前だけで活動が分かってもらえない現状。「こういう所である」と呼びかけをしたい。
- 利用不振の原因の一つにネットの普及がある。
- 財政難は数年前からニュースになっていたが、ネットでの反響は「既に使命を終えたからだ」「デジタル化していないので使えない」といった冷ややかなものだった。
- そういう場所に出していって受け入れられるのか。金額達成までは非常に不安だった。
- 達成までの経緯
- 2017年5月18日(木)に募集を開始した。開始にあたってマスコミに色々声もかけたが、昼間取材に来たのは新聞社3社のみ。
- 初日は20時くらいまで職場で反応を見て、寄付金額が20万円程度になったところで帰った。Readyforの人からはスタートダッシュが重要と聞いていたが、これでいいのか?どうなのか?という感じ。
- 帰ってみたら上司から留守番電話が入っている。その晩に突然300万円くらいに跳ね上がった。
- 一番の理由は、昼間取材に来てくれた朝日新聞のデジタル版の記事が夕方に掲載されたこと、あわせて著名人がSNSで拡散してくれたこと。野木亜紀子さんや津田大介さんなど、一般的に知名度の高い方*10。
- 19日にNHKから電話があり、夕方のニュースのために取材の申し込み。
- クラウドファンディングを始めた時に、依頼されることはなるべく全部受けようと決めていた。それで効果が上がる。
- 結局、その週末までに500万を達成してしまった。土日は仕事が休みなので、金額達成のお礼の原稿を土曜に家で書いていた。
- Readyforでは、寄付者はコメントを書くことができる。コメントは一日以内に返信するのが基本。週末は自宅からずっとコメントの返信をしていたが、追い付かなかった。
- 自分の感覚としては、クラウドファンディング達成のための努力というより、一番頑張ったのはコメント返信や取材対応。達成後クラウドファンディングについて講演依頼されるケースが増えたが、本当に苦労した部分を話せてているのかどうか自分でも心もとない。
- その他の反響
- NHK以外にも各メディアで取り上げられた。文藝春秋、朝日新聞の天声人語。テレビ番組「探検バクモン」ではデヴィ夫人が来た。なおこの人は生前の大宅壮一に会ったことがある人。
- テレビの影響というのは、自分の届かないような範囲に及ぶものだと思っていた。しかしテレビに取り上げられたことで、地元の地区広報誌に初めて取り上げられた。
- また別の反響。500万円の目標額に対し800万円を超えたということで、Readyforの年間表彰*11の候補になるというおまけがついてきた。
- 実資料しかない図書館がネットに訴えて助けてもらったという話が、聴く人の琴線に触れたよう。
- 表彰の他の候補は、1千万円くらいの案件。大宅文庫では、支援人数が760人と少ない。一人1万円くらい寄付していただいた勘定。
- Readyforは小口の支援をまとめて得るのに効果的な手段。わずかしか寄付できないと遠慮してやめてしまう。しかし、この人数でこの金額というのは特殊な例。
- 寄付者の内訳をみると、ほとんどは過去に利用していた人。
- 今後
- 背景
- 大宅壮一文庫雑誌記事索引の紹介
- 文庫はOPACをまだ導入していない。手書きの所蔵台帳しかない。ノートに縦線を引いて区切り、日付を書きこむもの。
- 大宅壮一の設計思想として「資料室全体でひとつの百科事典のようにする」というのがある。何を持っているか、ではなく、何が書かれているかの記録の方に重点。
- 雑誌記事索引にも大宅の考え方が反映されている。当初スタッフが、重要なテーマだけ採ることにしようと提案したら「重要かそうでないか、誰が決めるのか」と大宅に叱られたエピソードが残っている。
- たとえば「ドナルド・トランプ」で検索すると、1980年の記事で、当時不動産王だったトランプ氏が大統領になることをもくろんでいるという記事がヒットする。まさかこれが事実になるとはだれも思わなかっただろう。
- 基本的には見出しまたはキーワードから検索。見出しは、記事に直接あたって採録する。
- 人物情報とそれ以外の情報で検索可能。学術雑誌はほとんどない。
- 索引数ランキング。採録開始以降のランキングでいうと、トップ3位は松田聖子、小沢一郎、長嶋茂雄。
- 件名索引項目
- 最後に宣伝
- 質疑
- フロア
- デモの記事検索の様子を見ていると、キーワードがとても重要なもののようだ。どういう基準でつけているか。
- 鴨志田氏
- フロア
- 鴨志田氏
- フロア
- クラウドファンディングで800万円が手に入り、当面の運営はいいかもしれないが、先行きについての見通しは。
- 鴨志田氏
- フロア
- 過去の冊子体等に掲載されていたデータは、Web-OYAに全部入っているのか。
- 鴨志田氏
- フロア
- 書庫がかなり満杯に近い状態ということだが、建物は大丈夫か。
- 鴨志田氏
- フロア
- 鴨志田氏
- フロア
- マスコミ以外で活用している人はいるか。
- 鴨志田氏
- フロア
- 鴨志田氏
- フロア
- 感想
- クラウドファンディングについて、寄付を募ること自体より、取材やコメントへの対応の方が労力のメインだったというお話が印象的だった。発表者ご自身は戸惑った感じで話しておられたが、聴いていると非常に腑に落ちた。寄付といっても無償でお金が貰える訳ではなく、コミュニケーションという対価を払わなければならないのだなぁ。
- また、テレビに取り上げられたために地元に知られることになったという話も印象深い。マスメディアに露出したことによって、地域の図書館なら地元住民、大学の図書館なら学生や教員に、改めて知られることになったという話は、実際他でも聞いたことがある。物理的な距離が近くても、住民なり学生の目にする場所(たとえばテレビ番組)に無ければ、心理的な距離は縮まらない。
- 来館利用が収入となっている以上、来館増がなければ継続的な運営安定に繋がらないというのは難しい状況だ。今回の寄付でお金を払った人達は、必ずしも利用者または潜在的利用者という訳ではなく、「自分は今使わなくても社会には大宅文庫があるべきだ」と考えたのではないかと思う。その支持を資産に変える方法が、寄付以外に何かあればいいのだろうか。
- ところで、近くでWeb-OYAを使える場所を調べてみると「Web OYA-bunkoご利用機関一覧」なるものが公表されていた。興味の湧いた人は是非お近くの導入図書館へ行って検索してみるといいよ。
*3:大宅文庫ホームページ「「美しいバラの花は野茨の根の上に咲く」大阪府・高槻市に大宅壮一顕彰碑、建立
- 作者: 大宅壮一
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*7:このあたりの説明、メモがかなりいい加減。
*9:プロジェクトのページ「大宅壮一文庫を存続させたい。日本で最初に誕生した雑誌の図書館」
*10:『AERA』2017年6月5日号「雑誌の図書館「大宅文庫」の危機に反応した著名人たち」
*12:大宅壮一文庫ノンフィクションフォーラム 武田徹VS.津田大介VS.森健「フェイクニュース時代のノンフィクション」
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