中国では、1ヘクタール未満の小規模な農地が全体の9割余りを占めている。農家1軒当たりの耕作面積は世界最低レベルだ。一方で中国は、欧米諸国が150年かけて進めた農業の近代化を過去40年ほどで進め、先進的な取り組みもしている。
つまり今の中国には、小規模農家から工業型畜産・酪農施設、環境に配慮したハイテク農場、さらには都市型の有機農業まで、さまざまな農業が存在する。
それというのも、難題に答えを出さねばならないからだ。中国は、世界全体の1割足らずの農地で、世界人口の2割近い国民を養わなければならない。しかも食の好みは変わろうとしている。30年前には都市人口は全体の約25%にすぎなかったが、2016年には人口の57%が都市で暮らすようになった。肉の消費量は1990年の3倍近くに達し、牛乳・乳製品の消費量は95年から2010年までに都市部で4倍、農村部では6倍近くに増えた。加工食品の需要も08年から16年までにおよそ1.7倍になった。
食料自給を目指す一方で、食生活の欧米化が進む中国。そのニーズは農業をどう変えるのか。
タイ資本の巨大農業団地
上海から杭州湾を挟んだ広大な埋め立て地。ここでタイの大手複合企業チャロン・ポカパン(CP)グループが環境に配慮した巨大農場の建設を進めている。慈渓市郊外の約2600ヘクタールの埋め立て地を20年契約で安く借り受け、食料を生産しようというのだ。
この事業は中国の農業の未来を示す青写真でもある。グローバル企業が巨額の資金を投じ、農場や加工場、オフィス、従業員用の住居まで備えた、農業と食品産業の農業団地を建設するという構想だ。
2017年夏には、水田の面積は約1450ヘクタールになり、うち約47ヘクタールではカニを養殖して、有機栽培米を育てた。敷地内には野菜などを栽培する農業用ハウスやブロッコリー畑もあり、農薬や化学肥料を散布するドローンを何機も備え、餃子工場も完成間近だ。100万羽の雌鶏を収容する養鶏場は将来的に規模を3倍に拡大する予定で、鶏糞から年間2万トンにのぼる有機肥料を生産する計画もある。
「垂直式農場」と呼ばれる施設も完成した。広々とした透明な箱形の建物の中に、高さ10メートルほどのタワーが6基ある。タワーには苗床を載せた棚が付いていて観覧車のように回転する仕組みだ。私が見学したときには、チンゲンサイとアマランサス、ニラが植えられていた。空調設備のある屋内で栽培しているため、施肥を最適化でき、農薬をほとんど使用せずに済む。
単位面積当たりの収穫量は一般的な畑の4倍になると、上級副社長の王慶軍は言う。農業が汚染の元凶になっている中国にとって、これは大いに有望な方法だ。2015年、中国当局は5年以内に化学肥料と農薬の使用量の増加を抑制すると宣言したが、CPグループはこの制限に適合できそうだ。
この事業の根底には、食料生産に製造業の手法を導入するという発想がある。現実主義者であると同時に夢想家の一面もうかがわせる王は、この事業が生産から販売まで一貫して運営管理する「垂直統合」方式のモデルになると考えている。
※ナショナル ジオグラフィック2月号特集「中国の胃袋を満たす」では、食の欧米化にともない変化を迫られる中国の農業に焦点を当てます。