日銀・河合氏:法定デジタル通貨は技術的に可能-検討段階にない
日高正裕、藤岡徹-
仮想通貨は未発達の技術、異常な高騰や下落で決済手段として使えず
-
日本では現金志向が強く、需要もない-安全性に課題も
日本銀行の河合祐子フィンテックセンター長は、日銀による法定デジタル通貨発行について、技術的には可能との見解を示した。ただ、安全性など検討する課題も多く、現金志向の強い日本は需要がないため「現在は考える段階にはない」としている。
河合氏は25日のインタビューで、Suica(スイカ)やクレジットカードが普及していることから、通常の電子マネー型のデジタル通貨であれば「発行体を中央銀行がするだけなので、できるだろう」と述べた。日銀はデジタル通貨の研究を20年前から始めており、「勉強は死ぬほどしている」とも話した。
一方、「アカウント数やセキュリティ対策が膨大になるなど、検討すべき課題はある」と指摘。国民が日銀に口座を持つためにはコストの問題もあるという。
日本銀行の河合祐子フィンテックセンター長
仮想通貨の普及に伴い、通貨を独占してきた各国の中央銀行も対応を迫られており、スウェーデンや中国は中銀デジタル通貨発行を検討し始めている。黒田東彦総裁は昨年10月の講演で、中銀として現時点でデジタル通貨を発行する具体的な計画はないものの、「将来的に新しい技術を自らのインフラ改善に役立てていく余地がないのか、不断の研究を重ねていくことが求められる」と述べた。
仮想通貨を巡っては、決済に使う通貨としての危険性も明らかになっている。日本の仮想通貨取引所大手のコインチェックは26日、取引している仮想通貨「NEM(ネム)」約580億円分(5億2300万ネム)が外部からの不正アクセスで消失したと発表した。同社は顧客の保有分約463億円を自己資金から日本円で返済するとしているが、補償時期は未定だ。
インタビューは問題発表前に行われたが、河合氏はビットコインなど仮想通貨で使われるブロックチェーンについては「未発達の技術」だと述べていた。現在の仮想通貨は異常な高騰や下落を繰り返しており、「決済手段としては使えない」との見方を示した。
キャッシュレス化
河合氏は「そもそもキャッシュレスが進まない国でデジタル通貨が本当に必要なのか」と疑問を投げかける。韓国のカード決済金額の対名目GDP(国内総生産)比率は4割を超すが、日本は1割。「なぜ中銀デジタル通貨を発行しなければならないのか思いつかない」とし、「私の中では不要だと思っている」と述べた。
河合氏はフィンテックセンター長に就任した1年前、自らの生活を現金を使わずにキャッシュレス化した。生活の大半はキャッシュレス化が完了したが、夜の会食だけは進んでいない。割り勘をキャッシュレスで行うスマホのアプリがいくつか出ているが、「相手は現金で不便を感じてないのでアプリを入れてくれない」という。
現金志向が強い背景について、河合氏は「低金利はあまり関係ない。消費者の選択であり、仲介する金融機関の選択としか言いようがない」と指摘する。ただ、インバウンド(訪日外国人客)が増加する中、キャッシュレス化が進まなければ「外国人の消費は落ちる。それが大きなリスクだ」としている。
河合氏は53歳。1987年に京都大学法学部を卒業し、外資系金融機関を経て、2003年に途中入行した。香港事務所長、金融市場局為替課長、高知支店長などを歴任し、17年3月に決済機構局フィンテックセンター長に就任した。