出版界は生き残りに必死で、あれこれ模索しているが、手っ取り早いのが不動産。小学館、集英社のみならず文藝春秋や岩波書店まで不動産に手を染めている。

 神保町界隈をちょっと歩くと至る所に岩波書店所有地や集英社のビルが。岩波が最近、その一つを売却したという情報も。某社の社内報を読んでいたら、不動産取引きで社長賞授賞と出ていたのにはちょっと驚いた。

 ドワンゴと提携するなど何事も機を見るに敏な角川書店の大型計画はこうだ。

 2020年、オリンピックまでに現在倉庫のある東所沢に本社全機能を移す。同時に印刷所、製本所も集中。少部数でも注文があれば、すぐに印刷、製本できる体制にする。

 編集者は、基本的にはパソコンを使って在宅作業で、出勤しなくてもよい。どうしても出勤が必要な社員のためには東所沢に社宅用マンションを建設するか、マンション業者と共同で賃貸マンションを借り上げる。

 こうすれば、まず編集者のためのスペースが不要になる。通勤費もいらなくなる。東所沢に住む社員は通勤苦からも逃れられる。

 現在の千代田区富士見の本社ビルは貸しビルにし、角川書店としては超高級レストランを経営――。

 こう書くといいことづくめのようだが、そういう体制でいったい出版産業の栄養源ともいうべきいい企画が生まれるのかどうか。 編集者はぼくの持論だが、編集者は人に会うのが商売。自分の持っている情報と、会って話をした人の情報が、ある時、ピピット感応し合っていいプランが生まれる。

 作業はそりゃ、在宅でもできるだろう。だが、編集部員同士が話し合ったり、編集者が人に会わないで、おもしろくて、ためになる企画が生まれるのか。

 東所沢ではわざわざ会社に来る人も少なくなるに違いない。