時はまさに就職氷河期。
警官をクビになりフリーターになった私が、
就活を始めた20歳そこそこの頃。
床屋で何気なく手に取った漫画・・・
それが行政書士が活躍する
『カバチタレ』という漫画でした。
(コレだ!コレをやろう!)
なぜか唐突にそう思った私は、
すぐにハローワークに駆け込みました。
そして法律事務所の求人に
申し込みをしました。
即面接が決まったので・・・
数日後、私はスーツを着て面接に伺いました。
まず志望動機を聞かれたので
私は大きな声で答えました。
「行政書士になりたいです!」
「・・ははぁ~」と
微妙な反応が返ってきます。
面接は優しそうな代表が自ら行ってくれました。
代表はうーんと少し言葉を選びながら・・・
「行政書士の資格を持っている社員はいるけど、
仕事はほとんど無いんだよ・・・」
とそう言いました。
「えっ!?」
漫画の中ではあんなに活躍してるのに?
ん???仕事が無い???
「行政書士を目指すのは止めた方が良い」
と優しくこんこんと諭され帰らされました。
・・・・事務所を出た私は思いました。
(もしかして採用してくれるかもしれない!)
もちろん後日、不採用通知が届いた。
バカである。
生粋のバカである。
私は地元で1、2を争うほどの
頭の悪い高校卒で特に資格も無い。
おまけに警察を半年で辞めたオマケ付き。
さすがに採用する理由は無い。
1社2社3社4社と
随分落ち続けました・・・・
しかし落ち続けるにも関わらず・・
なぜか面接が終わると。
(おっコレ受かったんじゃない!?)
・・・そんな風に毎回思っていました。
もちろん結果は不採用。
ある日は求人広告を見ていると・・・
『会社を生まれ変わらせる!』
『社長の右腕になる幹部候補募集』
みたいな求人がありました。
(幹部候補・・?)
(メッチャカッコイイ?!)
私は即面接を申し込みました。
面接に向かうと小さな事務所に、
ソファに座る30代前半の若社長。
まず私は持参した作文を提出しました。
「君のやる気を作文に書いてきてほしい」
そういう要望があったのです。
無言で作文を見つめる若社長。
作文を読みながら社長は言います。
「僕は2代目でね~求人にもあった通り
自分の右腕となる幹部を探してるんだ!」
会社の展望を熱く語る社長に感激しました。
すごい・・・全然話の内容がわからないけど、
なんかこの会社なら頑張れる気がする!!!
しかし気になる事が一つありました。
社長の斜め後ろに立つ初老の男性。
フーフーッと異様に呼吸が荒い。
プルプルと小刻みに震えている。
気分が悪いのか?機嫌が悪いのか?
目を閉じてこちらを見ようとしない。
(一体誰なんだ!?)
熱い若社長と、
熱意だけはある私の会話は弾みました。
「一生懸命に頑張ります!」
何もない私はやる気アピールを続けました。
人とこんなに話が弾んだのは初めてだ!
私は採用を確信しました!!!
そうこうしていると・・・
私と社長の目の前に
太い腕がズズッと伸びてきました・・・・
!?
この腕は・・・・
斜め後ろにいた初老の男性です。
男性は私の履歴書を机の上から
パッと取り上げると・・・
カッと目を見開いて読み始めました。
顔は真っ赤、汗がダラダラと流れている・・
どうも普通の人じゃない。
怒ってるようにも見える・・が?
(どういうことだ??誰なんだ??)
チラリと若社長に
「誰なんですか?」
と言う目線を送りましたが・・
社長は何も言ってくれません。
私と社長は無言で見つめあい・・・
そして数分後・・・・
初老の男性が大声を出しました。
「一度始めた仕事はな!
絶対辞めちゃダメなんだ!」
私が警察官を辞めた事を言ってるのか?
しかし新卒の募集とは聞いていない。
そして大声は出しているが、
なぜか目線は出入口の方を向いている。
とにかく何か怒らせてしまったようだ。
それだけを言うと初老の男性は
事務所の奥に消えていきました。
ここで若社長が声を出しました。
「うーん・・・」
この時点で私はわかりました。
この「うーん」は、
「うーん不採用かなぁ?」
の「うーん」です。
初老の男性は恐らく先代社長か?
どうにか
この場を挽回しようと、
私も何か言おうとしましたが・・・
ショックで言葉が出てきません。
こうして面接は終了。
後日、不採用の電話がありました。
しかし私は就活を諦めません!
今度も幹部候補募集!という
建築関係の営業の募集を見つけました。
面接に向かうと随分大きな会社でした。
(ここなら安心だ!)
面接官はメガネをかけた小奇麗な紳士。
(うーん良い人そうだ!)
しかし紳士は言いました。
「もうすぐ社長が参りますので・・・」
(ん?ここも社長が直に面接してくれるのか)
そして現れた社長は
半袖短パンに便所サンダル。
酒の匂いもした。
しかしそんな事はどうでも良い。
よくある話だ。
問題はチャックだ。
チャックが全開だったのです。
これまで私は何度も何度も、
面接で落とされており・・・
変な疑心暗鬼になっていました。
そう・・・これは・・・・
(試されているのではないか?)
そんな風に思えてきたのです。
ここで社長の全開チャックを指摘出来れば・・
「うーん!!!!素晴らしい!
君のような人材を探していたんだ!」
「採用!!!!」
そんな展開になるかもしれない。
応接室に鳴り響く拍手。
おめでとう・・・・おめでとう・・・
みんなが祝福してくれる。
おめでとう・・・・おめでとう・・
しかし臆病者の私は・・・
チャックの事をなかなか指摘できません。
こうして面接が始まります。
私はやる気と経験をアピール。
「15の頃から現場に出ています!」
そう言うと社長も紳士も
「おお!そりゃエライなぁ~」
と良い反応をしてくれました。
(おっ・・案外いける!?)
やはり現場経験は評価される!?
希望が見えてきました。
現場の話で話もそれなりに弾む。
これはもう100%いける。
いけるぞ・・・いける。
しかし・・・
ある一つの質問で空気が変わりました。
「そうかそうか・・・
で酒は飲めるのか?」
「いえ・・・お酒は飲みません」
社長と紳士がピタリと黙った。
「あっ・・じゃ・・あと任せるわ・・」
そう言うと社長はタバコを吸い始めた。
そして紳士はゆっくり、
なぜ不採用か?
の説明を始めました。
話をまとめると。
つまりこの建築会社の営業は、
仕事終わりに夜の店で行われる。
つまり営業にお酒は必須。
ダメかぁ・・・・絶望だ。
面接に落ちるたびに、
自分が無価値な人間だと思い知らされる。
「お前はうちに必要ない」
そう言われるのはツライに決まってる。
そして帰り際・・・
私は最後の希望にかけて、
声を振り絞って言いました。
「チャック・・・あいてますよ・・?」
「あぁ・・」
しかし社長はチャックを見ようともしません。
なんだ・・そのチャックは
好きで開けてるのか・・・・・?
・・・・・・・・
・・・・・就活の思い出は多い。
しかし良い思い出は少ない。
そして10数年後の今・・・
就職氷河期世代の私はまた
いま就職活動を頑張っている。
いや・・・頑張っていた・・・
ああ・・昔と何も変わっちゃいません。
ボコボコのボロボロ。
人は過ちを繰り返す。
おわり