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その自動運転バスの公道走行は、「衝突事故」から始まった──「人間」が絡む課題の数々が浮き彫りに
自動運転シャトルバスの実験的走行が世界各地で拡大し、ラスヴェガスでは公道での走行が始まった。ところがスタート早々にトラックにぶつけられる“災難”に見舞われた。人間という「ミスが不可避な存在」への対策が求められるなか、自動運転シャトルバスの公共交通としての可能性について改めて考える。
TEXT BY AARIAN MARSHALL
TRANSLATION BY MAYUMI HIRAI/GALILEO
WIRED(US)
米国における自動運転シャトルバスの時代は、「衝突」から始まった。実際には軽微な衝突だと、シャトルバスの運営側はコメントしている。
2017年11月8日(米国時間)にラスヴェガスの公道で、運転手のいない小型のシャトルバスの運行が開始した。担い手は、フランス最大の公共交通輸送サーヴィスを提供し、多国籍で事業展開するケオリス(Keolis)と、フランスの自律走行車メーカーであるナヴィヤ(Navya)、そして米国自動車協会(AAA)だ。
このバスは電気自動車(EV)で、乗客を不安にさせないために係員が1人搭乗。8人の乗客を乗せてフレモントストリートの娯楽地区を約800mのループ状に走行していた。
衝突が起きたのは、運行を始めてからわずか1~2時間後のことだ。ケオリスとAAA、さらに実際にバスに乗っていた男性が「Digital Trends」に投稿した内容によると、シャトルバスは路地に入ろうとバックしていた配送トラックに遭遇して停車した。
この際、すぐ後ろに別のクルマが来ていたので、後退できなかったという(バスに乗っていた男性の報告によると、後方には6mほどの余裕があり、人間の運転手であれば後退しただろうという)。シャトルバスは、配送トラックがゆっくりとバックしながらバスに当たるまで、その場でただ待機していた。
少なくともクラクションを鳴らすことはできたはずだが、ケオリスの説明によると、自動運転システムが予期しない方法でトレーラーが動いたため鳴らさなかったのだという。AAAのジョン・モレノは、「今回のケースは、われわれが回避しようと努力を続けている人的ミスの格好の例です」と述べている。
事故のあと、シャトルバスの運行は数時間にわたって中止された。だが、実験に参加している各企業によると、9日には通常のルートに戻り、多少の不安はあるだろうが関心の高い乗客たちのために短い旅を提供し始めたという。
「短時間の楽しい体験です。テーマパークで乗るアトラクションのようなものですよ」とモレノは話す。クルマの依存度が高いファンタジーランドである悪徳の街にはぴったりかもしれない。
ただし、自動運転シャトルバスはいつの日か、単なる楽しい気晴らしではなくなるだろう。現在、安全確認用の運転者を乗せずにアリゾナ州で走行を続けているWaymoの無人走行車ほどの魅力はないかもしれないが、搭乗員数の多いシャトルバスは、地点Aから地点Bまで人々を運ぶ、実際に役に立つ乗り物になるはずだ。
ラスヴェガスのシャトルバスは、米国で初めて公道を走ったケースになるかもしれないが、ヨーロッパやアジアではすでに既知の存在だ。
ナヴィヤのシャトルバスは、2016年秋からスイスやシンガポールの各地を走っている。ロンドンのヒースロー空港では、11年から自動運転の「ポッド」で乗客を運んでいる。オーストラリアの「インテリバス」は、16年に3カ月間の試験走行を完了した。
米国では、ナヴィヤが17年秋からミシガン大学構内で自動運転シャトルバスの走行を開始した。フランスの公共交通大手トランスデヴ(TransDev)は、フロリダ州で建設中のコミュニティの路上に同社の電気ミニバスを配備する準備を進めている。
さらに、フランスのイージーマイル(EasyMile)は、17年8月にテキサス州アーリントンの公園地区の道路で、可愛い昆虫のような独自の自動運転シャトルバスを披露した。
各社ともこのような動きを、慎重な一般市民に自律走行車への関心をもってもらう絶好の機会だと話している。走行速度は遅く(ラスヴェガスの場合で時速約24km)、サイズの小さい乗用車よりも安全で安定して感じられる(さらに、ラスヴェガスのシャトルバスでは、乗客全員がシートベルトをする必要がある)。
地元の自治体がかかわっていることも多い。自律走行車を路上で走らせることによってメディアの関心を集め、最先端のイメージを得ようとしている。
これらの実験は大量のデータも生み出す。ケオリスによると、同社とナヴィヤは2週間ごとに車両から動画とセンサー情報をダウンロードして分析し、運転操作を改善する方法を探っている。
シャトルバスは、大量輸送を可能にするツールとして、さらに大きな潜在力をもっている。大学構内や、退職者のコミュニティで利用できるだけでなく、郊外での公共交通を補うわけだ。
ケオリス北米部門のモビリティソリューション担当副社長のモーリス・ベルは、「このサイズのものに着目すると、かなり実用性があります」と述べる。「ほとんどの交通当局が、ファーストワンマイル/ラストワンマイル問題を解決する機会を探しています」。ファーストワンマイル/ラストワンマイルとは、各地の交通ハブと人々の最終目的地との間の距離を結ぶ手段のことだ。
小型の無人走行車であれば、人口が比較的が少ない場所を縫うようにして、乗客を交通機関に直接運ぶことがさらに容易になる。標準的な乗用車やタクシーよりも多くの乗客を乗せることもできる。つまり、このようなシャトルバスは、郊外地域での大量輸送の救世主となる可能性があるのだ。
カリフォルニア大学バークレー校で移動手段の改革を研究している土木技師のスーザン・シャヒーンは、「自動運転のシャトルバスに、高度なアルゴリズムとスマートフォンアプリを組み合わせると、距離当たりのコストを下げ、人件費を削減し、柔軟性の高いオンデマンドの公共交通サーヴィスを提供することができます。運営費用を削減することができるのです」と述べる。
未来の米国では郊外に住む人々が、自家用車を捨ててオンデマンドのシャトルバスに乗り、遠くに行きたいときは高速鉄道や「ハイパーループ」、あるいはイーロン・マスクが次に思いつく新しい何かにまで直接運んでもらえるようになるかもしれない。
ただし、このようなシャトルバスの都市部における役割については疑問もある。リサーチ団体「トランジットセンター」は、公的補助を受けている小規模旅客輸送(マイクロトランジット)サーヴィスについての投稿のなかで、「利用される場所が重要だ」と述べている。「郊外地区の周辺部で公共サーヴィスを提供するというのは、補助を受けているヴァン(シャトルバス)のサーヴィスが意味をもつケースのひとつになるかもしれない」
一方で、混雑する街の中心部にこうした小型シャトルを乗り入れさせると、さらに交通量が増えてしまうと研究者たちは主張する。混雑する大通りでは、大型で昔ながらの退屈なバスたちのほうが、より多くの人々をより効率よく運ぶ。大都市では、シャトルバスの代わりにもっと大型の自動運転バスが使われるべきだろう。
もっとも、これらの楽しい技術のどれも、現実になるのはまだ先のことだ。11月8日に起きたラスヴェガスの事故で明らかになったように、自動運転シャトルバスは完璧ではない。
これまでに見てきた実験は制限付きで、大学構内のような限られた地域や非常に短いルートで行われている。研究者たちは、自律走行車が人間と連携するようなプログラミングを可能にするために、これらのクルマと人間との相互作用の理解を大急ぎで進めている。
スイスでは、科学者たちが自動運転シャトルバスの動画を調べて、歩行者が次の動きを伝えるために使う動きを特定する研究が行われている。自動運転のシャトルバスは、人間の振る舞いという、ワイルドで荒々しい世界を解き明かすという、最も重要なテストに合格しなければならないのだ。
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