2017年の航空自衛隊小牧基地の航空祭において、航空自衛隊の戦技教育班、通称「ブルーインパルス」の飛行が展示されました。
この際の展示飛行に対して、航空法違反の疑いがあるとして、住民団体が告発状を名古屋地検に提出しました。
告発状を提出したのは小牧基地周辺の住民など388人です。
告発状によりますと、去年3月に行われたブルーインパルスによる展示飛行は、国土交通省への申請が必要なアクロバット飛行だったにも関わらず、申請がなく航空法違反だと主張しています。
以上、yahooニュースより転記
さて、小牧航空祭でのブルーインパルスの飛行は、本当に航空法違反になるのでしょうか。
曲技飛行とは
航空法では、第91条に「曲技飛行」として定義が記載されています。
(曲技飛行等)
第九一条 航空機は、左に掲げる空域以外の空域で国土交通省令で定める高さ以上の空域において行う場合であつて、且つ、飛行視程が国土交通省令で定める距離以上ある場合でなければ、宙返り、横転その他の国土交通省令で定める曲技飛行、航空機の試験をする飛行又は国土交通省令で定める著しい高速の飛行(以下「曲技飛行等」という。)を行つてはならない。但し、国土交通大臣の許可を受けた場合は、この限りでない。
一 人又は家屋の密集している地域の上空
二 航空交通管制区
三 航空交通管制圏
ここでは、「宙返り」、「横転」、「その他の国土交通省令で定める曲技飛行」、「航空機の試験をする飛行」、「国土交通省令で定める著しい高速の飛行」とされています。
さらに、国土交通省令で定める~について見てみます。
国土交通省令とは、航空法施行規則のことになりますが、その197条3に記載されています。
(曲技飛行)
第百九十七条の三
法第九十一条第一項の国土交通省令で定める曲技飛行は、宙返り、横転、反転、背面、きりもみ、ヒップストールその他航空機の姿勢の急激な変化、航空機の異常な姿勢又は航空機の速度の異常な変化を伴う一連の飛行とする。
以上のようになっておりますが、これらをまとめると次のようになります。
- 宙返り
- 横転
- 反転
- 背面
- きりもみ
- ヒップストール
- その他航空機の姿勢の急激な変化
- 航空機の異常な姿勢又は航空機の速度の異常な変化を伴う一連の飛行
の、8項目になることがわかります。
曲技飛行の申請
ブルーインパルスの行う飛行は、「戦技研究」のための飛行ですが、一般的に見ると曲技飛行になります。
ただし、曲技飛行を行うためには、前述の航空法にあるとおり、国土交通大臣の許可を受けなければ、例え自衛隊機であっても行うことはできません。(訓練空域等を除く。)
そのため、ブルーインパルスでは、年度分の航空祭やイベントスケジュールを決定して、国土交通省に年度包括で申請、許可を得ています。
今回の小牧航空祭もスケジュール通り実施されていますが、恐らく小牧基地周辺への政治的配慮や地理的要因から、曲技飛行申請は行っていないと思われます。
曲技飛行なのか
申請を行わずに曲技飛行を行えば、航空法違反です。
しかし、Youtube等に上がっている動画等を見ると、曲技飛行は行っていないようです。
第1区分等にて代表される、宙返りや横転等は含んでいない課目で構成されており、「編隊飛行」という言い方のほうが適切に感じます。
そもそも、航空自衛隊では「曲技飛行」という名称はあまり使用しません。
その代わりと言ってはなんですが、「機動飛行」や「展示飛行」という名称を用います。でも内容的には曲技飛行に該当する部分があるため、曲技飛行と言うことが出来るかもしれません。
ブルーインパルスの場合は、「展示飛行」という名称を用い、その内容は天気状態や地理的要因、地域の政治的要因等から判断され、飛行内容が決定されていきます。
単に通過するという意味を含めて、「航過飛行」という名称を用いる場合もあります。
宙返りをしないでも・・
「高速な飛行」や「姿勢を変える飛行」をしているじゃないか!とおっしゃる方もいるかと思います。
航空機の速度の制限については、航空法82条2に記載があり、具体的な速度は航空法施行規則第179条に記載があります。
(航空交通管制圏等における速度の制限)
第百七十九条 法第八十二条の二の国土交通省令で定める速度は、次の各号に掲げる速度とする。
一 法第八十二条の二第一号の空域であつて、高度九百メートル以下の空域を飛行する航空機にあつては、次に掲げる航空機の区分に応じ、それぞれに掲げる指示対気速度
イ ピストン発動機を装備する航空機 百六十ノット
ロ タービン発動機を装備する航空機 二百ノット
二 法第八十二条の二第一号の空域であつて、高度九百メートルを超える空域又は同条第二号の空域を飛行する航空機にあつては、指示対気速度二百五十ノット
2 前項の規定にかかわらず、自衛隊の使用する航空機であつて同項に規定する速度を超えて飛行することがやむを得ないと認めて国土交通大臣が指定した型式の航空機に係る法第八十二条の二の国土交通省令で定める速度は、国土交通大臣が定める速度とする。ただし、他の航空機の安全に支障を及ぼすおそれがあるときは、この限りでない。
3 前二項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる航空機に係る法第八十二条の二の国土交通省令で定める速度は、当該各号に掲げる速度とする。
一 法第九十六条第一項の規定により国土交通大臣から前二項に規定する速度を超える速度で飛行することを指示された航空機 当該指示に係る速度
二 航行の安全上やむを得ないと認められる事由により前二項に規定する速度を超える速度で飛行する必要のある航空機 当該航空機が安全に飛行するために必要と認められる適切な速度
簡単に言えば、管制圏(と一部の隣接する進入管制区)では、
- 900m(3000ft)以下の高度:プロペラ機160kt以下、ジェット機200kt以下
- 900mを超える高度:250kt以下
となります。
ブルーインパルスの編隊飛行を行う際の飛行速度は、通常300kt以上ですので超えている事になりますが・・・
そこは、同条第2項(青文字)にあるとおり、航空機の性能上超えることがやむを得ない。という内容になりますので、問題ないと言うことになります。
そもそも、航空法には
- その他航空機の姿勢の急激な変化
- 航空機の異常な姿勢又は航空機の速度の異常な変化を伴う一連の飛行
と記載されていますので、高速で飛行したりすること自体は問題にはならず、「急激な」や「異常な」という状態でないと、曲技飛行にも区分されないと言うことになります。
なら、編隊飛行はいいのか
編隊飛行はやってはいけません。
ただし、これは「航空運送事業の用に供する航空機」だけが対象となります。
航空法第84条には
(編隊飛行)
第八四条 航空運送事業の用に供する航空機は、国土交通大臣の許可を受けなければ、編隊で飛行してはならない。
2 航空機は、編隊で飛行する場合には、その機長は、これを行う前に、編隊の方法、航空機相互間の合図の方法その他国土交通省令で定める事項について打合せをしなければならない。
とありますので、自衛隊の航空機はこの条文そのものが適応されません。
ということは・・・
空飛ぶたぬきとしては、「今回の小牧航空祭におけるブルーインパルスの展示飛行は、航空法違反ではない。」と結論づけたいと思っています。
- 曲技飛行の申請を行っているかどうかについては、知る方法がありませんので言及は出来ません。
- しかしながら、小牧基地の政治的配慮から曲技飛行(を伴う展示飛行)を行う可能性は低く、ネット上に上げられた動画や画像を見る限り、曲技飛行とは異なります。
- つまり、「曲技飛行でないならば、申請の必要がない。」と解釈できます。
- 「姿勢の急激な変化」や「異常な姿勢」、「速度の異常な変化」については、動画や写真からは確認できませんし、編隊飛行については、航空運送事業ではないので、適応もされません。
以上の4点から、航空法違反ではないと結論づけてみました。
あとがき
今回の訴訟についての争点は
「小牧航空祭におけるブルーインパルスの飛行は曲技飛行か否か」
という一点になると考えています。
航空法では曲技飛行の定義は厳密に決まっていますので、実際に行われた飛行が該当するか否かを確認するしかないのかなと思っています。
T-4はHUD(Head Up Display)をVTRに記録できますので、これではっきりするかと思っています。
あくまで主観ではなく、機動で厳密に定義されているものですから・・・。
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