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年収1000万円稼げば、幸せは訪れるのか

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「年収〇〇〇万円を超えると、幸福度は上昇しなくなる」こんな記事を1度や2度目にしたことがあるのではないでしょうか。

例えば

こんな感じの記事です。

これら「年収(お金)と幸福度の関係性」に関する記事を見るたびに、個人的には 「この記事は一体何を訴えたいんだろう」と消化不良を起こしてしまうのですが、こうした記事の多くはきっと『お金を沢山稼げば幸せになれると思っているかもしれないけれど、その考えは間違っているかもよ』とか『幸せになるためにはお金だけあってもダメなんだよ』ということを訴えたいのだと思います。

こうした「自分にとって幸せとは何か」を考えることは、人生の指針を持つことにつながる大切な考えだとは思うのですが、安易に上記のニュース記事を読み、そこで書かれている結果を鵜呑みして「お金を稼いでも幸せにはなれないんだ」と結論付けることには違和感を覚えます。

そこで、ここでは上記のようなニュース記事だけでは読み取れない「お金と幸せの関係性」について、もう少し踏み込んで考えてみることにします。

お金と幸福度の関係性を紐解く研究の歴史 

そもそも年収と幸福度に相関関係があるのかどうかという研究は、経済学者のリチャード・イースタリン氏によって1974年に発表された論文が端を発しているようです。

彼の学説は「イースタリンの逆説(Easterlin Paradox)」と呼ばれ、wikipediaによると以下のように定義されています。 

貧しい人は、お金により幸福感が増す。しかし、中流に達すると、それ以上お金が増えても、幸福感はあまり変わらない。ある研究によれば、年収が7万5千ドルを超えると、お金が増えても幸福感はほとんど増えない。

さらに、イースタリンは1995年に「イースタリンの逆説」をより多くのデータから所得と幸福度との間に関係がないことをその後も論文として発表し続け、彼の主張は「幸福のパラドックス」と呼ばれ、彼の名とともに世界中に知られるものとなっていきます。

最新の幸福度に関する研究

2018年1月8日、収入と幸福度の関係を調べたアメリカの研究結果が発表されました。

この研究結果の発表を受け、再び上で紹介したような所得と幸福度に関するニュース記事が世間を賑わせているわけです。

研究の結論に関して言えば、ヤフーニュースにも記載されているように、ある年収を超えると幸福度が減衰することが主な提言であり、論文内の次のグラフがその本質を捉えています。

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研究結果の主張は、上のグラフに凝縮される訳ですが、細かなグラフの分析も含め、ここでは研究の中身を確認すべく、当該論文「Happiness, income satiation and turning points around the world Andrew T. Jebb, Louis Tay, Ed Diener & Shigehiro Oishi Nature Human Behaviour 2, 33-38 (2018) 」を全文読んでみました。

研究の対象は世界171万人

Data came from 164 countries in the Gallup World Poll. These countries are listed in Supplementary Table3. The sample consisted of 1,709,734 observations collected during the years 2005–2016. The mean age of the sample was 40.87(s.d.=17.40) and 47% of the sample was male.  

論文「Happiness, income satiation and turning points around the world」は、ギャラップ社が行った世界164カ国からのデータを分析して発表されています。データサンプルは2005年から2016年の間に収集され、サンプル数は約171万件にも上ります。サンプルの平均年齢は40.87歳で、47%が男性となっています。

論文内で用いられた「幸せ」の測定方法

年収と幸福度の相関性を調べるため、幸福度の評価をSelf-Anchoring Striving Scaleという測定法を利用しています。

この測定法は、被験者に次のようなアンケートを行い、幸福度を測定しています。

This measure instructs participants to imagine a ladder with steps labelled 0–10, where 0 represents the‘worst possible life’ and 10 is the‘best possible life’.

アンケートは日本語に訳すと、次のようになっています。

目の前に階段があり、そこには0~10の数字が書かれています。0は「最悪の人生」であり、10は「最高の人生」です。今のあなたはどの階段に立っていますか。

この質問を受け、自分自身が感じている幸福度を数値化し、年収との関係をグラフ化したものが先に紹介したグラフになります。

最新の研究が主張する2つの結果

論文「Happiness, income satiation and turning points around the world」では、主に2つのことを主張しています。

ひとつ目はニュース記事でも取り上げられているように、どの地域のグラフも年収が高くなるにつれて幸福度は上がっていくが、ある年収時点で幸福度は頭打ちになり、さらにそれ以降年収が上昇しても幸福度が減少するポイントがある(これを論文内では‘turning points’ 『転換点』と呼んでいます)ことです。

この転換点は、日本を含めた東アジア(EA)で言えば、11,000ドル(およそ1200万円)、世界の平均では、95,000ドル(およそ1000万円)と分析されています。

ふたつ目は、幸福感が最大限に高まる「所得飽和」が世界の地域間でどのように違うのかについても言及しています。

論文内ではラテンアメリカ圏の所得飽和が最も低いポイントで発生しており、年収35,000ドル(およそ385万円)で幸福度評価は7.57にも達していることに着目しています。

一方、私たち日本人を含む東アジア圏では、所得飽和は110,000ドル(およそ1200万円)と高い年収で飽和していることに加え、幸福度評価も7.04と低い状態にあり、高い年収にならないと幸福度はピークを迎えず、そのピークも他の地域と比べ、低い状態にあります。

論文内では所得が低くても幸福度のピークを迎えるラテンアメリカ圏のようなグループは、幸福度評価的には魅力的な暮らしであるとしつつ、東アジア圏のような高い所得で幸福度ピークを迎えるグループは高い所得レベルを達成する機会が提供されていると双方の利点を論じています。

この主張はニュース等ではあまり取り上げられていませんが、個人的には興味深い分析だと感じました。

最新の研究から分かったこと

論文「Happiness, income satiation and turning points around the world」から特に私たち日本人に関係する部分をまとめてみます。

  1. 所得が増え続けてたとしても幸福度が頭打ちになる「転換点」が存在する
  2. 日本を含む東アジア圏は、高い年収(およそ1200万円)で幸福度ピークを迎えるが、その時点においての幸福度評価は他の地域よりも低い

リチャード・イースタリン氏の研究に端を発して様々な研究機関が「お金と所得の関係」について調査・分析を行うようになりました。

ここで紹介した最新の研究は調査期間・規模ともに多大な労力をかけ、サンプルを集めたことが見て取れます。そうした意味では、信頼度の高い分析であるといえると言えます。

以上が、最新の「お金と幸福度の関係性」に関する世界的研究結果になります。

いかがだったでしょうか。

元ネタの論文をしっかり読んでみると、ヤフーニュースだけでは読み取れない真実も若干見えてきたように思いませんか。

続いて、「お金と幸福度の関係性」に関して、日本国内ではどのような研究・調査が行われているのかに調べてみました。

上記の研究はあくまで世界的視点に立った分析でしたので、以下では日本独自の調査から日本人の幸福度の本質を探ってみたいと思います。

日本における年収と幸福度の研究

日本に目を向けてみると、お金と幸福度の関係性について、なんと内閣府が調査・分析を行っています。

正確には内閣府経済社会総合研究所なる機関になるのですが、主観的幸福度など国民の生活の質の評価や感情、及びそれを支える要因等を継続的に調査し、明らかにすることを目的に生活の質に関する調査を実施しており、大変興味深い分析が行われています。

引用元:幸福度研究について|内閣府 経済社会総合研究所

内閣府が「幸せ」について研究する意義

当該研究所によると、幸福度分析を行う意義は次の2点であることを訴えています。

  1. 日本における幸福度の原因・要因を探り、国、社会、地域が人々の幸福度を支えるにあたり良い点、悪い点、改善した点、悪化した点は何かを明らかにすること
  2. 自分の幸せだけでなく、社会全体の幸せを深めていくためには、国、社会、地域が何処を目指そうとしているか、実際に目指していくのかを議論し、考えを深めることが不可欠であり、その手がかりを提供すること

つまり、「日本人が幸せを感じる要因が分かれば、その要因をみんなで深めていけば、よりより国になるよね」ということです。

こうした目標に向け、内閣府は「生活の質に関する調査」という調査を行っています。

引用元:社会指標に関する調査研究|内閣府 経済社会総合研究所

以下では、この調査報告書の中から特に「お金と幸福度の関係性」に関する調査結果を抜き出してみることにします。

日本人の「幸せ」につながる要因

まず、日本人が幸福度を判断する際に重視した項目を複数選択形式で調査した結果が以下の表になります。

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「健康であること」・「お金があること」・「家族がいること」の3点が日本人が幸せを感じる三大要素と言えることが分かります。

やはり、というか当然、幸せとお金は強い結びつきがあることが確認できます。

さらに、同調査はどれほどの所得があれば、どれほどの幸福感になるのかについて個人の視点と家族の視点に分け、結果を提示しています。

個人所得と幸福度の関係性

まず個人の稼ぎと幸福度についての調査を紹介します。

回答者自身の年間収入(税・社会保険料込み)別に、現在の幸福感の平均値を計算したところ、以下のような結果となった。

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調査は直近一週間に少しでも仕事をしていた回答者だけに限って行われています。

結果は回答者自身の収入が増えるほど現在の幸福感も上昇する傾向にあることが分かりますが、やはり論文「Happiness, income satiation and turning points around the world」の結果同様、「転換点」を確認することもできます。

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アメリカの最新論文によると、日本を含む東アジア圏の転換点は1200万円とのことでしたが、この内閣府調査を見る限りでは、日本の転換点は年収900~1000万円であることが分かります。

では、年収を家族の視点に移し、世帯年収として捉えると幸福度はどのように変化するのでしょうか。

世帯所得と幸福度の関係性

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こちらが世帯全体の年間収入(税・社会保険料込み)と 世帯構成員の現在の幸福感との関係を数値化したものになります。

個人所得との違いを見るために、数値を先ほどの個人所得と幸福度の関係性グラフに重ねてみます。

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重ねてみるとよく分かるのですが、個人と違い世帯年収では転換点がなく所得とともに幸福度が上昇し続けていく様子が確認できます。

では、ここまで確認してきたお金と幸福度の関係性について、アメリカの論文「Happiness, income satiation and turning points around the world」と日本独自の調査「生活の質に関する調査」から見えてきたこと、私自身が感じたことをまとめてみます。

研究を通じて見えてきた『真実』

ここで紹介してきた2つの調査結果から分かった客観的な事実、個人的に感じた疑問点などを踏まえ、「お金と幸福度の関係性」について言及してみたいと思います。

年収1000万円を超えると別の世界が広がっている? 

最新の研究論文「Happiness, income satiation and turning points around the world」では"Self-Anchoring Striving Scale"という質問手法を用いて幸福度を測っています。

この手法では幸福度を数値化するために次のような質問を行っていることを紹介しました。

目の前に階段があり、そこには0~10の数字が書かれています。

0は「最悪の人生」であり、10は「最高の人生」です。

今のあなたはどの階段に立っていますか。

もしあなたがこの質問をされたとしたらどのように答えるでしょうか。

これはあくまで個人的な感想ですが、私はこの質問に対し「もっと努力すれば今以上の生活ができるのではないか」と感じた場合、低い評価をする可能性があると感じました。

年収1000万円を超えるということは、日本では高給取りの部類に所属することになります。

年収が1000万円を超えるようなステージに上がっていくと、付き合う人間関係も大きく変わるでしょうし、投資や教育などへの関心も変化するはずです。

何が言いたいのかというと、年収1000万円を超えた人が見る世界は「もっと努力して〇〇さんのようになりたい!」といったように、それまで雲の上であり憧れで終わっていた人や生活が、「自分の努力次第で手が届くかもしれない」と感じるようになる段階なのではないか、ということです。

仮に私の感想が正しかったとしたならば、論文内で使われている言葉「転換点」は決して幸福度評価が下がるポイントではなく次のステージに突入するポイントと考えることもできるのではないでしょうか。

日本という国で年収1000万円を超えると起こる弊害

次に日本の「生活の質に関する調査」の結果に目を向けてみると、年収900~1000万円を境に幸福度が下落していることが確認できました。

この点について、ヤフーニュース記事などでは

  • 社会的責任が増す
  • 仕事にかける時間が増す
  • 自分や家族の時間が減る

ことによるストレスが原因ではないかという分析を行っています。

もちろんこういった原因も考えられなくはないのですが、個人的にはそれ以上に日本という国で年収1000万円以上稼ぐようになった人への行政サービス等の低下が気になってしまいます。

  • 所得・住民税の値上げ
  • 児童手当なし
  • 就学支援金なし
  • 奨学金の貸与
  • 保育園などの保育料

このように努力して稼いだのに報われない現実と向き合わなければならない現実が日本にはあり、この現実を目の当たりにする年収がちょうど900~1000万円といえます。

こうした要因がもとで幸福度が減少することがあってもおかしくないはずです。

年収1000万円稼げば「幸せ」になれるのか

いかがだったでしょうか。

本日の記事は、「お金と幸福度の関係性」についてニュース記事からだけでは読み取れない部分もあるのではという動機で書き上げたものになります。

初めに述べたように、私が「お金と幸福度の関係性」記事を読んだ時の感想は「何が言いたいんだろう」でした。

『お金を稼げば稼ぐほど幸福度は比例して増加しない。むしろ、減少するんだよ。』

というような結果を聞いて、「じゃあ、これ以上稼がなくていいや」と考えるのはあまりにも安易すぎると思いました。

幸せは他人の物差しで測ることができる指標ではありません。自分が幸せと感じるのであれば、年収が低かろうが、家族がいなかろうが全く問題ありません。

そうであるならば、自分自身の「転換点」がどのステージで訪れるのかを自分自身で見極める必要があるはずです。

さて、あなたの転換点は年収いくらなんでしょうか。

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