VSイラスト亡者。痛い底辺作家がイラストを強請った結果。 作:橋本 美咲
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VSイラスト亡者。痛い底辺作家がイラストを強請った結果。「あヒャ♂ぴゃか☆ぼっひゃっひゃーっ!」
ジャングルの霊長類か猛禽を思わせるような奇声が降ってきた。場所は熱帯雨林気候から程遠い氷点下の都心部。
三十何年ぶりの積雪で交通機関が凍結するばかりか、怪我人まで出ている。そんな環境に適応できる生物とは何か。
「(゚∀゚)アヒャーっひゃっひゃー」
「お姉ちゃん。みっともないから顔文字で笑うのやめて」
雪に半ば埋もれた民家から若い女性の笑い声が聞こえてくる。霜のついたガラス窓の向こうで制服姿の姉妹が絡み合っている。
スカートの中が丸見えになるのも気にせずパソコンの前で笑い転げる女子高生。それを中学校の制服を着た少女が諫めている。
「だって、これヲチネタにうってつけだもの」
姉は涙をこらえながら机に座った。画面にはブラウザが立ち上がっており、投稿サイト「小説家でござーい」のトップページが映っている。
「お姉ちゃん、いいかげんそういうのやめたら?」
妹が懸念するのも無理はない。姉はまだまだ若いのに小姑のように性悪だ。暇さえあれば巨大掲示板に齧りついて、ござーい作家を論っている。
自身は特に小説を書いたり読んだりすることもなく、ただただ「ござーい」作家の揚げ足取りをウォッチングすることに心血を注いでいる。
まことダメ人間の鏡というか。何がここまで彼女を歪ませてしまったのだろうか。その原因は大雪にある。センター試験当日に交通機関の乱れまくり、人生の大勝負に参加できなかった。その憤りを巨大掲示板にぶつけているのであろう。
「だって、こいつ。ヌルートポンの分際でイラストを募集してやがるのよ。あーっひゃっひゃ」
姉が目をつけたのは、とある底辺作家の近況報告だ。「ござーい」には任意の画像を挿入する機能が備わっており、手書きの自キャラを載せたり、まれにアニメの著作権侵害画像を転載してBANの憂き目にあう者がいる。
「おねえちゃん、ヌルートポンさんに親でも殺されたの?」
もちろん、姉妹の両親は健在だ。齢五十をこえてピンピンしていて、今日も築地で寿司を握っている。
「別に。でも、こいつの態度が気に入らないのよ」
姉が言うには、ヌルートポンなる人物の作品は「お気に入り数」が二けたに満たない。閲覧数も半年で百以下で読まれていないに等しい。
それでも、彼本人にとっては相当な自信作であるらしく、たまに書き込まれる誤字脱字や文法の指摘を高圧的な態度で切り捨てている。
「ヌルートポンさんに血迷うコアファンがいないとも限らないじゃない。スレ立てするおねーちゃんみたいに世界は変人で満ちているのよ」
妹は一家で唯一の良識派らしく、攻撃対象を擁護した。
「あんた、これを見てもまだそんなことが言えんの?」
姉はブラウザーをスクロールアップして、ヌルートポン氏の問題発言を示した。
『俺様の最高傑作にイラストを寄贈する栄誉を賦与してあげようというのですよ? まだ、応募が一人もないってどういうことですか。絵師の自己顕示欲ってその程度ですか。ちっぽけな承認欲求ですねぇ。御子柴 に絵なんかアップしなきゃいいのに』
なんという錯者っぷり。
「うーわ、何様?」
あまりの俺様っぷりに妹は眩暈すら感じた。自惚れもここまで来れば芸術である。
「こういう『痛い』輩を晒し上げて嗤うのがあたいらの性分なのよ」
姉はウキウキしながらヌルートポンの暴言をスレにコピペした。
「待って!」
投稿ボタンをクリックしようとした矢先、妹が制止した。
「何でよ? こいつの踊りっぷりをみんなでヲチしようと思ったのに」
いぶかる姉に妹は対案を提示した。
「単にヲチるなんて同じ穴の狢だよ。『たたかいは同格の間でしか成立しない』のよ」
姉は反射的にカンガルーが殴り合う有名なアスキーアートを連想した。
「あんた、それ、あたしのこと遠回しに馬鹿って言ってる?」
「AAの字義通りよ。ヌルートポンにお仕置きしたいのなら、ヲチスレよりもっと打撃を与える戦法があるのよ」
「えー、せっかく新しいオモチャ見つけたのに~」
ぷうっと頬を膨らませる姉に妹は名案を耳打ちした。
「うひゃひゃひゃ。ぶわーっひゃっひゃ!!」
小一時間後、姉は嬉々として絵筆をふるっていた。お絵描きサイト御子柴 のアカウントを姉妹揃ってわざわざ新調したのである。
「こいつ、御子柴の名前をわざわざ出してるよね。つまり御子柴レベルの絵師しか認めないと。だったらご意向に沿ってやんよ」
御子柴の登録資格に審査はない。まったく絵心のない人でも、人気投票に参加するだけでも無資格で入会できる。
この姉にしても、ラクダと犬の書き分けが出来ないレベルの、ごくありふれた「わたしぃ、絵がぜんぜん下手糞でぇ」な人である。
それが何をとち狂ったか、ペイントソフトを立ち上げて何やらモリモリと描いている。
そして、ついに作品が完成した。
「ちょwww」
妹がスカートを全開するはめになった。
ヌルートポンが求めていた挿絵は二作品分。その一つが「破顔ライバー・でっけい江戸」のオリ主像だ。
ペイントソフトのテンプレート機能を乱用した、煮ても焼いても食えぬ似顔絵が出来上がった。
「ちょっと、これ」
【挿絵表示】
「アバンギャルドすぎない?」と、妹。
「ニチアサヒーローのデザインってたいがいこんなもんでしょ。デビュー当初だけ炎上して後からカッコイイカッコいいって崇められるパティーン」
「ちょwww」
姉の強引なやりかたに妹は閉口した。しかし、いくら愛読者の力作とはいえ、こんなものを送り付けられた側はたまったもんじゃないだろう。
しかし、妹の作品もどっこいどっこいである。
ヌルートポンは渾身の一作、「ギャルゲー・パンティー」のオリジナルヒロインも募集していた。
【挿絵表示】
「これはきついわ」
そして二人は御子柴絵師を名乗り、ヌルートポン大先生に挿絵を献上した。
願ってもみない「正真正銘の女の子」からの応募である。姉妹はプロフィール写真に素顔を晒していた。ネカマの自演でないことは明白だ。
男性作家にしてみればこんな美少女に愛されて夢心地だろう。性格に難がなければ。
「気に入ってくださいましたかあ?」
「早く飾ってくれるのを楽しみにしています」
姉妹は近況報告のコメント欄で畳み掛ける。
これが通常なら打てば響くように反応があるだろう。
あまりにしつこいと「ござーい」運営に粘着者として処罰されるため、ひかえめにする。
『……』
二日、三日、一週間待ってもヌルートポンの近況報告に更新はない。
本物の女性から取扱いに困るレベルのイラストを送りつけられ、対応に苦慮しているようだ。
この模様はるちゃんねるの「ござーい」ヲチスレでも生中継されていた。
「ヌルートポン大先生、息してないんじゃね?」
スレ民がヲチ対象の安否を気遣いだしたころ、衝撃の瞬間が訪れた。
「ヌルートポン大先生の霊圧が……消えた?」
あるコメントがスレを賑わせた。
「えっ、タヒぬことないじゃん?!」
すっかりスレ民と化した妹から報告を受け、姉は慌てて「ござーい」にアクセスした。
ヌルートポンのマイページが見当たらない。
【この会員は自主退会されています】
ただ、赤いエラーメッセージがむなしく記されている。
「た、倒したのか……な」
妹は何とも後味の悪い空虚感にみまわれた。
「と、とにかく絵師を馬鹿にする勘違い錯誤者はタヒんだのよ!」
姉はなんとか勝利を正当化して自分を保とうとしている。
「戦いに勝ったけど、わたしたち人間として、どうだったのかな?」
妹はただ液晶画面を見つめるだけだった。
ヌルートポン先生の行方は、ようとして知れない。
ジャングルの霊長類か猛禽を思わせるような奇声が降ってきた。場所は熱帯雨林気候から程遠い氷点下の都心部。
三十何年ぶりの積雪で交通機関が凍結するばかりか、怪我人まで出ている。そんな環境に適応できる生物とは何か。
「(゚∀゚)アヒャーっひゃっひゃー」
「お姉ちゃん。みっともないから顔文字で笑うのやめて」
雪に半ば埋もれた民家から若い女性の笑い声が聞こえてくる。霜のついたガラス窓の向こうで制服姿の姉妹が絡み合っている。
スカートの中が丸見えになるのも気にせずパソコンの前で笑い転げる女子高生。それを中学校の制服を着た少女が諫めている。
「だって、これヲチネタにうってつけだもの」
姉は涙をこらえながら机に座った。画面にはブラウザが立ち上がっており、投稿サイト「小説家でござーい」のトップページが映っている。
「お姉ちゃん、いいかげんそういうのやめたら?」
妹が懸念するのも無理はない。姉はまだまだ若いのに小姑のように性悪だ。暇さえあれば巨大掲示板に齧りついて、ござーい作家を論っている。
自身は特に小説を書いたり読んだりすることもなく、ただただ「ござーい」作家の揚げ足取りをウォッチングすることに心血を注いでいる。
まことダメ人間の鏡というか。何がここまで彼女を歪ませてしまったのだろうか。その原因は大雪にある。センター試験当日に交通機関の乱れまくり、人生の大勝負に参加できなかった。その憤りを巨大掲示板にぶつけているのであろう。
「だって、こいつ。ヌルートポンの分際でイラストを募集してやがるのよ。あーっひゃっひゃ」
姉が目をつけたのは、とある底辺作家の近況報告だ。「ござーい」には任意の画像を挿入する機能が備わっており、手書きの自キャラを載せたり、まれにアニメの著作権侵害画像を転載してBANの憂き目にあう者がいる。
「おねえちゃん、ヌルートポンさんに親でも殺されたの?」
もちろん、姉妹の両親は健在だ。齢五十をこえてピンピンしていて、今日も築地で寿司を握っている。
「別に。でも、こいつの態度が気に入らないのよ」
姉が言うには、ヌルートポンなる人物の作品は「お気に入り数」が二けたに満たない。閲覧数も半年で百以下で読まれていないに等しい。
それでも、彼本人にとっては相当な自信作であるらしく、たまに書き込まれる誤字脱字や文法の指摘を高圧的な態度で切り捨てている。
「ヌルートポンさんに血迷うコアファンがいないとも限らないじゃない。スレ立てするおねーちゃんみたいに世界は変人で満ちているのよ」
妹は一家で唯一の良識派らしく、攻撃対象を擁護した。
「あんた、これを見てもまだそんなことが言えんの?」
姉はブラウザーをスクロールアップして、ヌルートポン氏の問題発言を示した。
『俺様の最高傑作にイラストを寄贈する栄誉を賦与してあげようというのですよ? まだ、応募が一人もないってどういうことですか。絵師の自己顕示欲ってその程度ですか。ちっぽけな承認欲求ですねぇ。
なんという錯者っぷり。
「うーわ、何様?」
あまりの俺様っぷりに妹は眩暈すら感じた。自惚れもここまで来れば芸術である。
「こういう『痛い』輩を晒し上げて嗤うのがあたいらの性分なのよ」
姉はウキウキしながらヌルートポンの暴言をスレにコピペした。
「待って!」
投稿ボタンをクリックしようとした矢先、妹が制止した。
「何でよ? こいつの踊りっぷりをみんなでヲチしようと思ったのに」
いぶかる姉に妹は対案を提示した。
「単にヲチるなんて同じ穴の狢だよ。『たたかいは同格の間でしか成立しない』のよ」
姉は反射的にカンガルーが殴り合う有名なアスキーアートを連想した。
「あんた、それ、あたしのこと遠回しに馬鹿って言ってる?」
「AAの字義通りよ。ヌルートポンにお仕置きしたいのなら、ヲチスレよりもっと打撃を与える戦法があるのよ」
「えー、せっかく新しいオモチャ見つけたのに~」
ぷうっと頬を膨らませる姉に妹は名案を耳打ちした。
「うひゃひゃひゃ。ぶわーっひゃっひゃ!!」
小一時間後、姉は嬉々として絵筆をふるっていた。お絵描きサイト
「こいつ、御子柴の名前をわざわざ出してるよね。つまり御子柴レベルの絵師しか認めないと。だったらご意向に沿ってやんよ」
御子柴の登録資格に審査はない。まったく絵心のない人でも、人気投票に参加するだけでも無資格で入会できる。
この姉にしても、ラクダと犬の書き分けが出来ないレベルの、ごくありふれた「わたしぃ、絵がぜんぜん下手糞でぇ」な人である。
それが何をとち狂ったか、ペイントソフトを立ち上げて何やらモリモリと描いている。
そして、ついに作品が完成した。
「ちょwww」
妹がスカートを全開するはめになった。
ヌルートポンが求めていた挿絵は二作品分。その一つが「破顔ライバー・でっけい江戸」のオリ主像だ。
ペイントソフトのテンプレート機能を乱用した、煮ても焼いても食えぬ似顔絵が出来上がった。
「ちょっと、これ」
【挿絵表示】
「アバンギャルドすぎない?」と、妹。
「ニチアサヒーローのデザインってたいがいこんなもんでしょ。デビュー当初だけ炎上して後からカッコイイカッコいいって崇められるパティーン」
「ちょwww」
姉の強引なやりかたに妹は閉口した。しかし、いくら愛読者の力作とはいえ、こんなものを送り付けられた側はたまったもんじゃないだろう。
しかし、妹の作品もどっこいどっこいである。
ヌルートポンは渾身の一作、「ギャルゲー・パンティー」のオリジナルヒロインも募集していた。
【挿絵表示】
「これはきついわ」
そして二人は御子柴絵師を名乗り、ヌルートポン大先生に挿絵を献上した。
願ってもみない「正真正銘の女の子」からの応募である。姉妹はプロフィール写真に素顔を晒していた。ネカマの自演でないことは明白だ。
男性作家にしてみればこんな美少女に愛されて夢心地だろう。性格に難がなければ。
「気に入ってくださいましたかあ?」
「早く飾ってくれるのを楽しみにしています」
姉妹は近況報告のコメント欄で畳み掛ける。
これが通常なら打てば響くように反応があるだろう。
あまりにしつこいと「ござーい」運営に粘着者として処罰されるため、ひかえめにする。
『……』
二日、三日、一週間待ってもヌルートポンの近況報告に更新はない。
本物の女性から取扱いに困るレベルのイラストを送りつけられ、対応に苦慮しているようだ。
この模様はるちゃんねるの「ござーい」ヲチスレでも生中継されていた。
「ヌルートポン大先生、息してないんじゃね?」
スレ民がヲチ対象の安否を気遣いだしたころ、衝撃の瞬間が訪れた。
「ヌルートポン大先生の霊圧が……消えた?」
あるコメントがスレを賑わせた。
「えっ、タヒぬことないじゃん?!」
すっかりスレ民と化した妹から報告を受け、姉は慌てて「ござーい」にアクセスした。
ヌルートポンのマイページが見当たらない。
【この会員は自主退会されています】
ただ、赤いエラーメッセージがむなしく記されている。
「た、倒したのか……な」
妹は何とも後味の悪い空虚感にみまわれた。
「と、とにかく絵師を馬鹿にする勘違い錯誤者はタヒんだのよ!」
姉はなんとか勝利を正当化して自分を保とうとしている。
「戦いに勝ったけど、わたしたち人間として、どうだったのかな?」
妹はただ液晶画面を見つめるだけだった。
ヌルートポン先生の行方は、ようとして知れない。