それは、発見した猟師の名前にちなみサーシャと呼ばれている。
ロシアの科学者たちによると、サーシャが生きていたのは1万年ほど前のことだ。オスなのかメスなのかも定かではないが、サーシャは男性にも女性にも使われる名前だという。
サーシャは、氷河期のケブカサイ(Coelodonta antiquitatis)だ。全身がほぼそのまま保存されており、この時代を研究する者にとって驚くべき発見だった。(参考記事:「ケブカサイ、絶滅種再生の可能性」)
同じ時代に生息していたケナガマンモスとは違い、ケブカサイが見つかるのは珍しい。進化の歴史もよくわからず、何を食べ、どのくらいの寿命だったのかなど、その生活は謎のベールに包まれている。(参考記事:「シベリアで氷河期の絶滅ライオン見つかる」)
2017年12月、ロシア科学アカデミー古生物学研究所と、ロシア北東部にあるサハ科学アカデミーの科学者チームが、この小柄なケブカサイをよみがえらせた。(参考記事:「復活する絶滅種」)
最初に見つかったときは灰色だったが、復元が進むにつれて、赤みがかった明るい金色だったことがわかり、科学者たちを驚かせることになった。また、歯を分析したところ、死んだときに生後約7カ月だったことも明らかになった。
ロシアのシベリアン・タイムズ英字紙によると、科学者たちにはこの年齢も意外だったようだ。サーシャの体長は約1.5メートル、体高は約75センチ。現在アフリカに生息しているサイがそのくらいの大きさになるには、通常18カ月ほどかかる。(参考記事:「血に染まるサイの角」)
オルガ・ポタポワ氏は、米サウスダコタ州ホットスプリングスにある研究施設マンモスサイトに所属する科学者で、絶滅した氷河時代の大型哺乳類を専門にしている。現在、ポタポワ氏はサーシャを研究しているが、まだ詳しいことは話せないという。
現段階で話せるのは、この時代の研究にとって、サーシャの発見がいかに重要であるかということだ。歯など、一部が見つかることはあるものの、欠けたところのない赤ちゃんケブカサイの遺骸はサーシャだけだ。
「今回の発見のおかげで、ケブカサイの生態や形態の異なる側面に光をあてられます」とポタポワ氏。つまり、どのように成長したのか、何を食べていたのか、そして現代のサイとどう違うのかといった点を調べられる。
しかし、サーシャはなぜ死んだのか、なぜここまで保存状態がよかったのかについては、いまだ謎のままだ。
「私たち(古生物学者や地質学者)は、最後の氷河期や当時生息していた動物についてよくわかっていると思っています。しかし実際は、過去の世界にほんの少し足を踏み入れただけなのです」