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第485話 エドワード
―――リゼア帝国・首都跡地
ふくよかな男の名はエドワードといい、また俺の名を知っているらしい。しかしながら、俺はこの男と会った記憶がない。いや、エドワードという名前はどこかで聞いた覚えがあったような……
「失礼ですが、どこかでお会いした事があったでしょうか?」
「ああ、これは申し訳ない。突然名を呼ばれては、警戒されるのも無理のない事です。私はリゼアで政務官を務めております。そういった経緯もあって、諸外国の事情に聡いものでして」
「リゼアの政務官、ですか?」
「はい。S級冒険者の外見的特徴についても、ある程度は把握しております。更には神皇国デラミスから十字大橋を渡る許可を得られる人物ともなれば、ここ最近に『死神』として名を上げられたケルヴィン・セルシウスさんしかいないと思いまして…… 合っていたでしょうか?」
リゼアの政務官エドワード、かなり頭が切れる奴っぽい。しかし、本当にどこで聞いたんだったかな。エドワード、エドワード、リゼアの政務官――― あ。
「あの、かなり難しい顔をされているようですが、如何なされました?」
「あ、いえ、失礼。私はケルヴィン・セルシウス、エドワードさんの推測通り東大陸のS級冒険者です」
俺がそう認めると、エドワードの周囲を警護していた兵士達からざわめきが起こる。
「死神って、あの死神?」
「身の毛もよだつポエマーで、酷い女狂いだと噂で聞いたぞ」
「冒険者名鑑のあれか。確かに、あの少女達には奴隷の首輪が……!」
「噂は本当だったのか!?」
うん、いつか冒険者名鑑の製作者に一言申し上げに行こう。絶対行こう。
「静粛に、静粛にお願いします! ええと、申し訳ありません。何分、まだ西大陸には風の噂程度にしか知らされていないものでして、ゴシップ的な話はすぐに広まってしまうんです。中には失礼な物言いをする者もいるかもしれませんが、どうかご容赦して頂ければ―――」
「東大陸の一部でもそんな感じでしたから、問題ないですよ。それよりも、1つ確認したい事がありまして……」
「はい、何でしょうか?」
頭に引っ掛かっていた事を、漸く思い出した。あれは義父さんの城で、シルヴィア達にメルフィーナやシスター・エレンについて話した時の事だったか。その際にエマの口から、エドワードという名前が出てきたんだった。シルヴィア達よりも先に孤児院を出た、兄貴分みたいな存在だとか何とか。リゼアで政治家をしているとも言っていたから、今の彼と情報が一致しているんだ。
「エドワードさんはシスター・エレンをご存知で?」
「っ……! 母を、知っているのですか?」
やはり、このエドワードはシルヴィアやエマと同様に、シスター・エレンが立ち上げた孤児院の出身だったらしい。今の彼の立場もあるだろうから、デラミスの、という言葉は出さないでおいて正解だった。エフィルとアンジェにも、念話を通じて教えておく。
それから俺達はエドワードに案内され、近くにあるリゼアの簡易拠点を訪れる事となった。彼らはここにテントを立て、壊滅してしまった首都に取り残された者の救出作業をしているらしい。場所の範囲が範囲なだけに、瓦礫の撤去と呼びかけを行うだけでもかなりの時間を要する。リゼアの弱体化を狙っての周辺諸国の動きもあって、それほどの人数をここに回せないのが実情だと、エドワードは苦々しく言っていた。但し不幸中の幸いか、今のところ逃げ遅れた非戦闘員の死体は発見されていないようだ。
「―――お待たせ致しました。天幕の外に見張りの兵士がいますが、ここでの話の内容を聞かれるような事はないでしょう」
拠点中央付近の設置されたテントの中に俺達が座ると、エドワードがリゼアの茶らしき飲み物を持って来てくれた。一応鑑定するが、毒は入っていない。
「やはり、今のリゼアではデラミスという単語はタブーとなっているのですか?」
「お恥ずかしながら、首都が壊滅する以前より敏感になってはいますね。私の立場も今となっては難しいものです。それで、先ほどの話の続きですが―――」
詳細はある程度省くが、俺はエドワードにシスター・エレンをシルヴィア達と一緒に見つけた事を報告した。エドワードにもエレンさんからの手紙は届いていたようで、彼自身も独自に調査をしていたのだという。
「そうですか、同じS級冒険者『氷姫』のシルヴィアさんと…… 母の病まで治療してくださったとは、感謝の言葉しかありません。シルヴィアさんが母について調査している事は分かっていたのですが、行き違いから直接お会いする機会に恵まれなかったものでして。今度、お礼をしに行きなければなりませんね」
んん? シルヴィアに対して、どこか他人行儀なような言い方だ。エドワードは兄貴分なんじゃないのか?
『ご主人様。もしやと思いますが、エドワード様はシルヴィア様がルノア様である事を知らないのではないでしょうか?』
『うんうん。先に孤児院を出て行ったのなら、その後にルノアが名前を変えた事なんて分からないもんね』
『あー、なるほど』
S級冒険者に詳しいようだったから、少し勘違いしてしまった。直接顔を合わせれば直ぐに分かる事だろうが、外見的特徴と名前からじゃ孤児院で一緒に育ってルノア、アシュリーと結び付かなかったのか。
「エドワードさん。続けて質問しますが、ルノアとアシュリーはご存知で?」
「ええ、知っていますとも。女の子なのに大飯食らいなルノア、そんな彼女にいつもべったりで怒りっぽいアシュリーですよね? いや~、懐かしいなぁ。2人とも天才肌で、よく母と剣や魔法の鍛錬をしていたものですよ。しかし、ケルヴィンさんは2人についてもご存知だったんですね? どこかで会ったのですか?」
「はは、ええっとですね。その、さっきの話にも出てきていたんですが……」
「え? ……え?」
聡明である筈のエドワードがポカンとしている。今彼の頭の中では、状況整理が高速で行われているんじゃないかな。
「い、いや、しかし、2人はどこかの国に仕えたと、最後に聞いて……」
「確かに、ルノアとアシュリーは軍国トライセンに仕え、将軍の地位にまで上り詰めました。ですが、2人にもエレンさんから手紙が届いていたんです」
それから将軍の地位を捨て、名前を変え、冒険者となった事をエドワードに話していく。エドワードも合点がいったようで、うんうんと頻りに頷いてくれた。
「何という事だ。大国での地位を捨ててまで、母を探していたなんて…… 己の立場に縛られ、職務の片手間に調査の格好だけをしていた自分が恥ずかしいです……」
「いえ、彼女達も友人を悲しませてしまいましたし、結果的にエレンさんにも怒られていましたよ。自分の職務を全うしたエドワードさんも、十分過ぎるほどに立派だと私は思います」
「ありがとうございます。そう言って頂けると、私としても救われます。それで、母やルノア達は今どこに?」
「皆東大陸内にはいるのですが、訳あって別々の場所に…… ええと、エレンさんが獣国ガウンに、ルノアとアシュリーは2人とも水国トラージにいるのですが、今は別行動をしていると思います」
「そう、ですか…… このご時世ですからね。直ぐに会うのは無理でも、手紙だけは送っておくとしましょう。色々と言いたい事もありますから」
俺はエドワードから手紙を預かり、3人にそれを渡す約束を交わした。彼も唐突にあんな手紙を寄越され、悶々と胸を痛めながら日々を過ごしていた筈だ。それくらいの事であれば快諾するのが筋である。
「ああ、そうだ。エドワードさん、もう1つだけお伺いしたい事があるのですが―――」
さて、そろそろ肝心の話を切り出すとしようか。
本日6巻発売、コミカライズ版2話目公開となっております。
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