国営諫早湾干拓事業(長崎県、諫干)の干拓営農者の農業生産法人2社が24日、野鳥による農産物の食害で約4000万円の被害を受けたとして、農地の貸主の長崎県農業振興公社と国、県を相手に損害賠償(金額は調整中)を求め長崎地裁に提訴することを決めた。2社は諫干の開門差し止め訴訟の原告に加わっていたが、訴えを取り下げる方針も決定した。開門反対で一枚岩だった営農者からの離脱は開門問題の議論に影響を与えそうだ。
関係者によると、2社は2008年の諫干完成直後から営農を始め計約40ヘクタールでレタスなどの野菜を栽培。毎年冬、諫干堤防内側の調整池などから飛来するカモによる食害が起きており防除などを要請したが、公社=理事長=浜本磨毅穂(まきほ)副知事=や事業主体の国、県は対策を怠ったとしている。
営農者に1ヘクタール当たり年間約20万円で農地を貸している公社は昨年12月、賃貸契約更新を申請した2社に対し、契約解除を通知し、契約期限の今年3月末までに農地を返還するよう求めた。農地のリース料を滞納した場合に契約を解除できるという同意書に応じなかったことなどが理由だった。
2社は「食害など自己責任といえない被害が出ているのに(同意書は)一方的。農業を守るために開門に反対してきたのに、地主から『出て行け』と言われ、裏切られた」と反発。土地賃借の有効確認の訴えと、開門差し止め訴訟の原告(営農者は約40法人・個人)から離脱する方針を決めた。淡水の調整池ができたことで多くのカモが飛来するようになった設計上の問題もあるとして今後、開門を求めている漁業者側と連携する可能性もあるという。営農者は反対で一致していると訴えてきた開門反対派には痛手となる。
諫干を巡っては、開門による漁業不振の原因調査を求める漁業者が10年、福岡高裁で勝訴し、国が上告せずに判決が確定した。一方、農地被害を恐れる営農者らが開門差し止めを請求し、17年4月に長崎地裁で勝訴。国は開門しない方針を表明し、控訴を断念したが、漁業者側が控訴手続きを申し立てている。【中尾祐児】