インドで出生時に取り違えられた子供たち、実の両親の元に戻るのを拒否
ギータ・パンディ記者、BBCニュース(アッサム州マンガルダイ)
まるでボリウッド映画の話のようだ。
第一に、二人の赤ちゃんは数分違いで生まれ、病院で出生時に取り違えらえた。
第二に、二人の家庭環境はかなり違う。一方の両親はヒンズー教徒の部族の人たちで、もう一方の両親はイスラム教徒だ。
この話の予想外の展開は? 当局との長い争いの末、DNA検査がようやく2年半後に行われたが、二人の幼児たちは育ての両親の元を離れることを拒否している。
二組の両親は17日、裁判所に出向き、お互いの子供をこれからも育てることを確認した。
これは、インド北東部アッサム州で起きた話だ。
シャハブディン・アフメドさんは2015年3月11日午前6時、妻のサルマ・パルビンさんをマンガルダイ市民病院に連れて行き、妻はその1時間後に男の子を産んだと話す。通常の出産だったため、妻は翌日退院したという。
「1週間たって妻が、『この子はうちの子じゃない』と言うんです。私が『何を言っているんだ。罪のない子供のことをそんな風に言うもんじゃない』と言ったけど、妻は、分娩室にボド族の女性がいて、『2人の赤ちゃんは取り違えられたと思う』と話した。信じられなかったけど、妻はそう言い続けた」
サルマ・パルビンさんは当初から、ジョナイトちゃんが実の子供ではないと疑っていたという。
「赤ちゃんの顔を見たとき、疑いを持った。分娩室にいたもう一人の女性の顔を思い出し、この子がその女性に似ていたから。赤ちゃんの目から分かった。この子が小さな目をしていたから。うちの家族の誰もそんな目をしていない」とパルビンさんは語った。
アフメドさんが、妻が感じている疑いについて病院長に伝えたところ、院長はアフメドさんの妻は精神を病んでいて、精神科の治療が必要だと話した。アフメドさんはその後、情報請求権を提出し、同病院でその日午前7時頃に生まれた全ての赤ちゃんの詳細な情報を求めた。
1カ月後、7人の女性の情報を得た。記録を見た後、「部族の女性」を調べることにした。妻とこの女性にはあまりにも多くの類似点があったからだ。二人とも男の子を産み、赤ちゃんの体重はそれぞれ3キロ、出生時間は5分しか違わなかった。
「夫婦の住む村に2回行ったけど、彼らの家を訪ねる勇気がなかった」とアフメドさんは語った。
「だから相手の夫婦に手紙を書いた。子供たちが取り違えらえたと妻が思っていると書き、向こうも同じようにそう思っているかどうか尋ねた。手紙の末尾に自分の電話番号を記し、電話してほしいとお願いした」
アフメドさんの自宅から30キロしか離れていない場所に、部族のアニル・ボロさんとシェワリ・ボロさん夫婦が息子のリヤン・チャンドラちゃんと住む村がある。
ボロさん夫婦はアフメドさんの手紙を受け取るまでは、息子が取り違えられたとは疑っていなかった。夫のアニルさんもそんなはずはないと思い、妻も他の家族もそう思っていた。しかし二組の家族が出会ってから、状況が変わった。
「最初に男の子を見たとき、父親に似ていると気づいた。とても悲しくなって、泣いた。自分たちはボド族で、ほかのアッサムの人たちやムスリムの人たちとは違う。自分たちの目は吊り上がっていて、頬や手は膨らんでいる。自分たちは違う。自分たちにはモンゴル人の特徴がある」とシェワリ・ボロさんは語る。
サルマ・パルビンさんは最初にリヤンちゃんを見たとき、自分の子供だと分かり、すぐにその場で子供たちの交換を求めたが、アニルさんの母親がこの提案を拒否した。
アフメドさんの強い求めに応じて、病院側は疑惑の調査を開始した。しかし、病院は出産日に分娩室で勤務していた看護師に話を聞いた後、手違いはなかったと疑惑を否定した。
アフメドさんは納得できず、DNA検査のため妻と赤ちゃんの血液サンプルを送った。2015年8月に検査結果が下り、ついに答えが分かった。サルマ・パルビンさんとジョナイトちゃんの間に遺伝的なつながりがなかったのだ。
病院側が検査結果は法的に受け入れられないと伝えると、アフメドさんは同年12月、警察に被害届を提出した。
この件を捜査したへマンタ・バルア警部補はBBCに対し、事件究明のため病院から出生記録を入手し、二組の家族を訪ねたと話した。
2016年1月、バルア氏は両家族の血液サンプルを持ってコルカタに向かった。しかし現地の法医学研究所は用紙に記入ミスがあるとして、検査を拒否した。
「なので昨年4月に2度目のサンプルを採取し、州都のグワーハーティーにある法医学研究所で検査を行いました。11月に結果が来ました。赤ちゃんが取り違えられたというアフメドさんの疑いが証明されました」
バルア氏はアフメドさんに対し、裁判所に出向いて判事から男の子たちを交換する許可をもらうよう勧めた。しかし今月4日、両家族が裁判所で交換を実行しようとしたところ、男の子たちが育ちの親の元を離れるのを拒否した。
パルビンさんは「判事はもし交換するようならしてもよいと言いましたが、私たちが交換しないと言いました。これまで3年間育ててきて、手放せなくなったんです」という。
「それに、ジョナイトが泣いたんです。義理の兄弟のひざの上で、首の辺りをしっかりと抱きしめて離れようとしませんでした」
リヤンちゃんもシェワーリさんを抱きしめて泣き始め、離れようとしなかった。
アニルさんは今子供たちを交換すれば、心を傷つけてしまうと言う。子供たちは小さすぎて何が起こっているか分からないためだ。
子供たちが今過ごしている家族に深い愛着があり、家族もその愛情を返しているのは明らかだった。
実際、私が先週ボロさん一家を訪ねたとき、リヤンちゃんの祖母がリヤンちゃんを隠した。連れて行かれてしまうと恐れたのだ。
1時間後、叔父の一人がリヤンちゃんを連れ帰ってきた。祖母は少し後に戻ってきて、リヤンちゃんに小さい銀色の魚をたくさんあげていた。
リヤンちゃんがうれしそうに祖母の隣に座ると、祖母が不安そうに「何か問題がありますか? どこかに連れて行かれてしまうのですか?」と聞いてきた。
叔父も加わった。「この子の顔を見てください。本当にかわいいでしょう。どうやったら諦められるというのですか?」
リヤンちゃんはシェワリさんのもとを片時も離れようとしない。
ジョナイトちゃんもアフメドさんたちを慕っている。
パルビンさんは「裁判所で交換をする日、8歳の娘が『ジョナイトを連れて行かないで。連れて行ったら私、死んじゃう』と言ったんです」と振り返る。
宗教の違いがいつか問題になるか否かを聞いた。
「子供は子供です。神からの贈り物です。ヒンズーかムスリムではありません。みんなが同じ源、同じ型からやってきます。生まれてからヒンズーやムスリムになるのです」
アフメドさんは、子供たちが今再び交換されれば、生活の仕方や言語、文化や食事などの面で両家族がまったく異なるため、適応できないだろうと言う。
母親たちにとっては、内なる葛藤があるのが一目瞭然だ。育てた子供に対しては間違いなく愛着がある。しかし自分の子宮にいた子供に対しても、心が引っ張られる。
両家族は、子供たちが成長すれば、どちらで生活がしたいか自分自身で選べばよいとしている。
しかし今はまだ、両家族で予定を合わせ、定期的に会って友人になり、何とかして実の子供の人生に関わろうとしている。
(英語記事 India's switched-at-birth babies who refused to swap back)