緊張感溢れる閉鎖空間でのゾンビとベタドラマ 映画「新幹線 ファイナル・エクスプレス」

ソウル発プサン行きの高速鉄道KTXで突如起こった謎の感染爆発。疾走する密室と化した列車内で凶暴化する感染者たち--そんな列車に乗り合わせたのは、妻のもとへ向かう父と幼い娘、出産間近の妻とその夫、そして高校生の恋人同士…果たして彼らは安全な終着駅にたどり着くことができるのか--? 目的地まではあと2時間、時速300km、絶体絶命のサバイバル。愛するものを守るため、決死の闘いが今はじまる!

やっと見れた……。

面白い面白いとは聞いていたが、確かにこれは素晴らしい。
ゾンビ映画のアイデアなんて出尽くしたとか言われてるが、これだけベタな材料で王道エンタメとして完成度の高いものを作れるってのは素直に感心する。

ゾンビ映画至上間違いなくベスト級の一作。



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最強ゾンビ

ゾンビの弱点といえば
・個体は弱い
・遅い
・弱点の頭部に対して物理攻撃が効く

などなど。
だからゾンビは弱点を覆い尽くすように群れをなして襲いかかってくる。

ところがこの「新感染ファイナルエクスプレス」に登場するゾンビはやたら早い。
走るのが早い、動きが早い。
感染してから発症するのも早い。
噛まれて数秒後にはもうゾンビ化完了。

過去には、英国のダニー・ボイルが撮った「28日後…」でゾンビ役に陸上経験者を揃えて猛スピードで走るゾンビを描いた例はあるが、今回は感染力の早さもあって噛まれたら数秒後に猛スピードで襲ってくる。


そしてこの映画、基本的にゾンビがほとんど死(破壊?)なない。
何せ殺傷できるような装備がほとんどない。
ガンホーガンホーなアメリカと違い銃がなく、あってもバットがせいぜい。
日本を舞台にした「アイアム・ア・ヒーロー」ですら猟銃があったのに。
無数の減らないゾンビ相手に鈍器でのプレイはキツい。
しかも列車だから逃げ場なんてない。
だからいつまでも車両はゾンビの支配下にある。

走る密室

走る列車という密室は、この映画においてかなりのポイントになる。

そもそも閉鎖空間でのサスペンス劇は緊張感が持続しやすい。
過去でも潜水艦の中だけで進行する「Uボート」「レッドオクトーバーを追え」などの名作にも閉鎖空間独特の緊張感がある。

ただこの密室劇は、変化点に乏しい。
だから変化をつけるが、閉鎖空間でなくなった途端に緊張感が薄れるのが難点。
ウェズリー・スナイプス主演の隠れた名作「パッセンジャー57」でもハイジャックされた飛行機の中が舞台となったが途中で一度、テロリストと共に飛行機から降りる展開がある。
この映画、降りた途端にテンポが悪くなる。
もし終始飛行機の中で物語が進行したら「パッセンジャー57」の評価ももう少し高かったかもしれない。

パッセンジャー57 (字幕版)
Posted with Amakuri at 2018.1.24
デビット・ラヘリー, ダン・ゴードン, リー・リッチ, ダン・ポールソン, ディラン・セラーズ

ところがこの「新感染〜」では、所々で列車から降りたりする。
駅に行くし、別の車両に移ったりする。
だから緊張感が薄れるか?と思いきや、緊張感が解けない。
これがこの映画の素晴らしいところ。

列車から降りても、駅は列車から地続き。
閉鎖空間の延長線。
誰もいない駅の無機質な壁は、列車内部と同じくとても閉塞的。

そのまま街に移動して街の惨状を主人公らに見せない。
外の世界がどうなっているかは、車窓の風景でしか分からず詳細は窺い知れない。
一体、世界がどうなっているのか。
パンデミックはどこまで広がったのか。
それも見せないからわからない。

列車を移る時も線路に止まった列車と列車の間という閉鎖空間。
広いと言っても操車場がせいぜい。
一度列車に乗ると解放された空間や街へ出ることは一度もない。
だからこそ場面が変わることで変化点がありつつも、張り詰めた緊張感が最後まで解けない構造になっている。

ベタ

それとなく敷かれた伏線も素晴らしい。
登場人物もパニックものとしてはありがちにベタな登場人物だし、ベタなヒロイズムも山ほど出てくる。
愛する人のゾンビ化、パニックものでおなじみ嫌なおっさん、謎の人物。
予想通りというか、嫌な奴は嫌な奴だし、いい奴はいい奴。
でも等しく死ぬ。

利己的な人間はどこまでも利己的に行動し、因果応報に死ぬ。
そして利他的な人々は未来への希望を残すべく、利他的に自己犠牲の果てに死ぬ。
描かれる死の意味が異なる。

列車は、ひたすら止まることなく前へ進み続ける。
最後まで利己的に助かろうとしたバス会社の社長は、利他的に変わることができなかった主人公の写し身かもしれない。

間違いなく名作。