櫛を見てこれほど興奮した人は、デンマークの考古学者セーレン・シンドベック氏のほかにおそらくいないだろう。
同氏とオーフス大学の考古学者チームは、デンマークのリーベという歴史的に有名なバイキングの町で、最近、1つの櫛を発掘した。さらに彼らを喜ばせたのは、その片面に「櫛」という単語、反対の面には「櫛でとかす」という意味の言葉が刻まれていたことだ。(参考記事:「有名なバイキング戦士、実は女性だった」)
本職の考古学者やバイキングの歴史に強い関心を持つ人以外にとっては、どうということのない発見に思えるかもしれない。だが、これはもしかするとバイキングの文字体系の誕生、ひいてはバイキング時代が隆盛に向かっていく様子を知る手がかりになるかもしれないのだ。(参考記事:「バイキング、知られざるその壮大な歴史」)
なぜこの櫛が重要かを理解するには、バイキングにとって重大な節目である8世紀末まで遡らなければならない。それは西暦800年の直前に始まったバイキング時代の黎明期であり、この地域で使われていた言語は、すでに数百年にわたる進化をとげていた。
その頃突然、文字体系が変化した。この集団の先祖が使用していた「ルーン文字」と呼ばれる古代文字が、話し言葉の進化に合わせて、より統一的で現代的な文字に変わったのだ。縦長でまっすぐに立った新しい文字は、木や石に刻みやすかったとシンドベック氏は説明する。
この変化がいつ、なぜ起こったのかはわかっていない。だが、徐々に新たな文字体系が使われ始めたのではなさそうだという。つまり、1人の人間または1つの機関によって新たな文字体系が作られ、広まったようなのだ。それがいつ、なぜ、誰によってなされたのかは、いまだ謎に包まれている。(参考記事:「北欧バイキングの死装束にアラビア文字見つかる」)