一般的に、旦那さんが会社勤めをしていて奥さんが家にいる場合、育児は主に奥さん(家にいる人)の役割であって、外で働く旦那さんに関しては、疲れていない時にやれる範囲内でやれば上出来、みたいな考え方をする人が多い。
「外で働いて帰ってきて疲れているのに、家の中でさらに奥さんと同等の育児を求めるのはかわいそうだ」「働くお父さんは、仕事で疲れているのだから育児ができないのは仕方がない」というのが世論だと思う。
しかし私は、「仕事で疲れている」は育児ができない言い訳にはならないと思っている。少なくとも我が家では、その言い訳は採用していない。
なんでも仕事を言い訳にする人って…
そもそもこれは育児に限ったことではないのだけど「仕事で疲れているから」という言い訳自体が、私にとって「そっか、それは仕方ないね」と思えるものではない。
相手が誰で、シチュエーションが何であれ、「仕事」を言い訳にする人に対しては「仕事で成功する努力をしてこなかった結果でしかないけどね、それ」と思うし、それ以降は「仕事ができない人」という目で見る。
だって、仕事に振り回されない生き方は、いくらでも手に入れようがある。20代前半くらいまでは、なかなか難しいかもしれないけれど、25歳も過ぎれば、疲れないように働く方法を手に入れている人は、いくらでもいる。
それに、錯覚している人が多いように思うのだけど、仕事というのは、何時間働いたかではなく、いくらを稼ぐのかが重要で、時間的にいっぱい働くこと自体に価値はない。疲れている量と収入が必ず比例する関係にあるのなら話は変わるけれど、そうではないから、疲れるまで働くことは別に偉くもなんともない。働き方の要領が悪いだけ。
週に5日間、1日のほとんどを働いて、月に30万円を稼ぐ人と、週に2日くらい何時間か集中するだけで月に100万円を稼ぐ人がいたとして、パッと見は前者の方が働きマン感があるけれど、実際は後者の方がずっと「よく働いている」と言える。働く、というのは、あくまでお金を稼ぐことだから、大事なのは、いくらを稼ぎ出すかであって、そこに何時間費やすか、ではない。
時間給のような価値でしか雇ってもらえないと、毎日のほとんどの時間を仕事に持っていかれてしまうけれど、そうではない人材になる努力をして、時間給以外の稼ぎ方にありつくことができれば、クタクタになるまで働く必要はなくなる。
実際に私は、子どもを育てるようになり働ける時間が激減した今も、親族の誰よりも稼いでいる。専業主婦さながらに家事と育児をやっているけれど、収入は出産前と少しも変わっていないし、出産したその月でさえも普段通りを維持していた。
私が出産前と同じ収入をキープできている理由
私が産後も変わらず稼げていることについて、「それはたまたま家でできる仕事をしているからでしょ。恵まれてるよね」という風に言われることが多い。
たしかに、私が育児と仕事を両立できるのは家でできる仕事をしているからだ。
しかしそれは「たまたま」でも「恵まれているから」でもない。
私にとって今の環境は、努力をして叶えてやっと手に入れたものだ。子どもを産むために、そういう働き方ができる自分を目指して行動をした。だから私は今こうなっている。 2年前、彼と結婚することを決めた時の私には、家でできる仕事なんて一つもなかった。
当時の下田美咲業といえば現場しかなく、ヘアメイクをして衣装を着てカメラの前や人前に立ってパフォーマンスをしたり、アルコール女王として全国を行脚したり、コールをして場を盛り上げたり、お悩み相談のイベントをしたり。 まず家の外に出なければ始まらない仕事ばかりで、子育てをしながらできるような業務は一つもなかった。
だから「下田美咲」の仕事の内容を変えていく努力をした。結婚を決めてからは「盛り上げ女王の下田美咲」へのオファーは断るようにして、とにかく文章を書き、下田美咲の認知を「盛り上げる人」から「面白い文章を書く人」に変えていった。
商品名はずっと「下田美咲」だけれど、2016年と2018年では、「下田美咲」の商品概要は確実に変わっている。
彼と結婚をしたら、きっと子どもを産む。そしたら毎日子どものそばにいて育児を満喫したい。 そう思っていたから、子どもを産む時までには家で仕事をできる人になっていたくて、私は「下田美咲」が作家になれるようにやれるだけのことをした。
私が今、家にいながらでも出産前と同じ収入をキープできているのは、そういう風に人生設計をして、そうなれるように進んできたからだ。「たまたま」でも「恵まれているから」でもない。
子育てを楽しく感じられない感性ならば
だから、仕事を理由に「育児までは手が回らない」という言い訳を聞くと「あなたの人生設計が甘いことが原因でしょ」と思う。
それに、子どもを持つ時期は自分で決められることなのだから、朝から晩までクタクタになるまで働かないと生活費や養育費が稼げないのなら、「今の自分じゃ、まだ親にはなれない。まだまだ子育てをできる器ではない」という判断をするべきだとも思う。
だって、育児にまつわることで夫婦喧嘩が起きた時、辛い思いをするのは子どもだ。
私は両親に育てられながら子どもとして暮らしていた頃、「そんな風に喧嘩をするなら子どもなんて産まなきゃ良かったのに。私、生まれなくて良かったのに」と数え切れないほど思った。お父さんとお母さんのことを大好きであればあるほど、子どもはそこに無関心ではいられない。
親は、自分たちのキャパオーバーで子どもに辛い思いをさせてはいけない、と思う。
育児をする余裕がないのに親になりたがるのは子どもに迷惑だし、子どもは「だって!欲しいんだもん!」というような幼稚なノリで後先考えずに欲しがっていいものではない。
それに、すごくそもそもな話だけれど、「仕事で疲れてて育児ができない」って変な理屈だとも思う。 だって、育児は楽しくて癒されることであって、疲れることではない。
「疲れてるから」と言って育児を避けようとするその心は「ただでさえ仕事(労働)で疲れてるのに、さらにその上に育児(労働)なんて、できない」ということなのだろうけれど、子育てを楽しく感じられない感性ならば一体何のために子どもを持つのだろう、と思う。
子どもは育てる過程を楽しむために産むものだと私は思っているし、実際、子育てをしている今「あー産んだ甲斐があった、育てるの超楽しいなー」と毎日思う。子育ては趣味であって労働ではない(子どもを作った以上、子育ては義務になるけど、子作りは義務じゃないから、元をたどるとやっぱり趣味)。
だから、もし旦那さんから「疲れてて育児ができない」と言われたら、「あなたにとって育児が『義務だからしなきゃ……』みたいな感じなら、子育てが向いてないんだと思う。子育てを楽しく感じない感性なら、あなたは子どもを持たない方がいいよ。だからもう二度と欲しがるのはやめてね。この子は私が育てるからいいけど、第二子は無しね」という話しをする。
旦那さんは、親になるにはまだ早い
子育てに関する愚痴を聞くと、世の中には、(私の基準からすると)まだ子どもを持っていい器じゃないのに親になってしまってる人がたくさんいるんだなぁと感じる。家庭のいざこざに必ず巻き込まれてしまう子どもの立場から考えると、男であれ女であれ「仕事があるから」と、育児の時間を取れないうちは、まだ親になる資格がないと思う。
そういう意味では、旦那さんも、本当ならまだまだ親になるのは早い。
今の彼は、週5日のほとんどの時間を働かないと子どもを養うためのお金を稼げない。でも、それでは育児は全然できなくて、大切な予防接種にも行けないし、必要な検診にも行けない。
働く男なんだから仕方ない、というのは、仕事で成功する努力をしてこなかった人の言い訳でしかなくて、仕事で成功してる人は時間に余裕があるから、稼ぎながら育児もやれている。いざとなったらシングルファザーにもなれるくらいに、自由な人生を手に入れている。
だけど今の彼は違う。私がいなかったら、彼一人ではまともに子どもを育てられない。
もしも離婚した場合、私はシングルマザーになれるけれど、彼はシングルファザーになれないから、父親の幸せは手放すしか道がない。 でもそれは、彼の25歳までの生き方がその程度のものだったからで、本人のせいでしかない。
だから彼にはいつも「私が奥さんでよかったね」と言っている。
「仕事をしながら育児も家事も全部やってくれる奥さんでよかったね。普通は専業主婦以外は『共働きなんだから分担してよ』となるのが当たり前で、それでモメるんだよ。で、専業主婦だと今度は家計の総収入が少ないから何かとお金のことでモメるの。相手が私じゃなかったら、幸せな家庭の父親にはなれなかったよ。いい奥さんをつかまえたね。私のおかげで、夢だった若いお父さんになれたね、よかったね」と。
私が育児と仕事を両立するために工夫していること
そんなわけなので、私は「育児と仕事の両立は疲れる」とは思ったことがないけれど、育児をしながらの仕事は、常に時間との戦いになるから、その大変さはある。
今の私にとって、仕事ができるタイミングは、赤ちゃんが寝ている時だけなので(泣いたりしていなくても、起きてて動いている赤ちゃんが側にいると可愛くて仕事に集中できない)、「私は今日、何時間くらい仕事ができるだろう?」「明日は働けるタイミングがあるだろうか?」ということの予測がつかない。
すべては赤ちゃん次第の今、「今週は、こんな風に仕事を進めて、この辺りで休もう」というような進行計画が立てられないから、休みは結果的にしか取れないし、出産前と比べると締め切りを守ることの難易度がすごく高くなった。
でも、だからこそ、どれだけ計画が狂っても絶対に間に合うように、すごく計画的に仕事を進めている。今日も明日も明後日も全然書けない日が続いてしまったとしても、そのくらいのことでは全然大丈夫でいられるように、常に、かなりの前倒しで原稿を書いている。
基本的な原稿はパソコンじゃないと書けないけれど、書いたものを推敲するのはスマートフォンでもできることだから、授乳したり添い寝してる時もスマートフォンで仕事をして、絶対に締め切りを守るようにしている。
「子育てをしながらだから、多少は遅れても仕方ないよね……わかってもらえるよね……」と甘えることはしないと決めている。それをしてしまったら、その場では別にまかり通るだろうけれど、長い目で見たら確実に私は仕事を失うと思うから。仕事相手をガッカリさせないことは大事だ。
だから私は「できないなら引き受けない。引き受けたなら絶対に言い訳しない。とにかく書く!!」と決めていて、赤ちゃんがスヤスヤと眠れる条件を日々研究し、寝かせ方を工夫することで1日に数時間の書ける時間を確保し、産後も毎月30本ほどある原稿の締め切りを守り続けている。