小室さんはピュア」と宮根誠司が言う

今週取り上げるのは宮根誠司です。関西のテレビ局出身で、東京のゴールデンタイムの番組の司会までつとめるようになった人気司会者。この連載でもなぜかリクエストの多い人物ですが、賛否両論起きやすい彼を武田砂鉄さんはどのように見ているのでしょうか。

坂上忍と宮根誠司

平日の日中、外で仕事をされている方には生じ得ないストレスなのだろうが、日中、テレビをつけっぱなしにすることの多い自分は、毎日のように坂上忍と宮根誠司の見解を耳にしては苛立ち、わざわざ立ち上がって、テレビの前に近付いていって「は?」と声に出す。じゃあ消しときゃいいじゃん、と思われるかもしれないが、座りっぱなしで椅子と一体化しそうな自分にとっては、適度な運動の一種なのである。

2人に共通項があるとするならば、コメンテーターから自分の見解と真逆の意見が投じられると、司会者として有している権限を使って、自分に差し戻そうとするところ。それがうまくいかなければ、茶化しにかかる。とにかく自分が劣勢に立つのを嫌がる様子が伺える。会社勤めをしている方の中には、「どうして私は、毎日この上司に苛立つのか」→「えっ、もしかして自分が悪いのか」→「いや、アイツが悪い」というスパイラルを延々と繰り返し、お疲れになっている方がいるかもしれないが、私は家にいて、この2人に対してそういうスパイラルを繰り返している。

強者による「ぶっちゃけ」

坂上忍が、不倫疑惑を報じられた小室哲哉の引退会見を受け、楽曲制作にも悩みを抱えていたと漏らした小室の決断について「他人がわかるものではない」(『バイキング』1月22日)としていたが、その数日前、愛内里菜(現・垣内りか)の不倫疑惑を報じた際には、「相手の男性にはマネジメントもお願いしているので共に行動することが多い」などといったコメントを寄せた愛内に対して、「他人がわかるものではない」といった見解を出すはずもなく、スタジオ一丸となって茶化すことに専念していた。それなりの頻度で「は?」と近付いていくので、それくらいは覚えている。とにかく、偉い人に寛容で、偉くない人に寛容ではないのだ。

宮根誠司は、『週刊文春』に自らの隠し子騒動について執拗に追われた経験があったからか、小室を「意外とピュアな方で」(『Mr.サンデー』1月21日)と擁護しつつ文春の記事を批判していたが、「60(歳)っていうのは男の節目なのか」など、切れ味は鈍かった。

この1週間ほど、「不倫は個人の問題なんだから」との声が盛んに聞こえるが、その当たり前の意見は、ワイドショーの中では「結論」とはならずに、あくまでも「前置き」として済まされるのだった。その前置きはやがて「そうはいっても」と上書きされ、エンターテイメントの商材として使われ続けた。個人の問題だろ、にすぐさま帰結させてしまうと、彼らは報じることがなくなるので、前提で使うのである。

それはぶっちゃけなのか

坂上や宮根といった、力の強い話者は、こういう事象でも物怖じせずにぶっちゃけます、との雰囲気を醸し出すのが上手だが、その場における上長なのだから、それは、ぶっちゃけているのではなく、単に権限の行使である。営業部の会議で営業部長が「今日の俺は物怖じせずにぶっちゃけるよ」と話し始めたら、部員は無表情のまま心の中で呆れるはずだが、ワイドショーはひたすら、強者によるぶっちゃけを投じてくる。それはぶっちゃけなのか。

坂上と宮根の違いは、話の遮り方の上手さにあると思う。無論、宮根のほうが上手い。宮根は、コメンテーターの話をとにかく遮る。息継ぎするタイミングを狙い、自分の話をかぶせていく。或いは、「自分は○○だと思うけれど、□□さんはどう思う?」と尋ねるが、その「〇〇だと思う」に、コメンテーターの□□さんが言いそうなことが既に含まれている。『ミヤネ屋』に多く出演してきた読売テレビ解説委員長の春川正明は、質問のレベルがどんどん上がっていると宮根を褒める文脈で、「(質問の中で、先に皆まで言うなよ)と心の中で思いながらも、ぐっと堪えて『宮根さんの言う通り……』と、解説委員としては何とも苦しいコメントになることもよくあります」(春川正明『「ミヤネ屋」の秘密』)と漏らす。相手がこういうことを言いそうだ、との予測の精度が高く、「これについては○○だと思うけど、どう思います?」「はい、○○です」とのやり取りが生まれる。それを、テレビの前の私たちは「鋭い」と判断してしまう。

闇雲に強い

だいぶ前に知り合いのテレビディレクターから、ある占い師がテレビ出演の前に、スタジオで占うことになるタレントの資料をスタッフに集めさせ、当日の収録時に「○○なのでは?」「え、どうしてわかったんです!?」と驚かす流れを作ると教えてくれたのだが、ワイドショーの司会者の「鋭さ」というのは、時として、これと近いものがあるのではないか。その場の上長として、場の空気を動かせるのだから、先を読むこともできれば、揺さぶることもできる。坂上も宮根も、とにかく急に振る。急に振られた人間が慌てふためく様子を見せ、それを自分への加点としているような場面が頻繁に見受けられる。

昨今のワイドショーは、ほとんどが新聞記事や雑誌記事からの引用で成り立っている。ひたすらシールを剥がしながらパネルで説明する。オリジナルの情報では勝負できないから、そこにいる話者の見解の差異だけで動かしていく。内容ではなく、どういった空気感を作るかが、番組の浮き沈みを担ってしまう。オリジナルの記事ではないのだから、話者にすがる。そこに座る人たちの評価軸は、取り扱う問題への深い見識ではない。司会者との関係構築能力が「実力」として評価される。そもそも司会者には勝てないようになっている。それを建前上、フラットにみせるのではなく、勝てないよ、と率先して見せつける。だから、彼らって、闇雲に強い。小室引退という事案を通して、彼らが「物怖じせずに語っている」ではないことくらいは気付いておきたい。

※なお、小室哲哉の不倫報道、引退表明、その反応について感じたことはこちらに記しているのでよろしければ。

(イラスト:ハセガワシオリ

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ワダアキ考 〜テレビの中のわだかまり〜

武田砂鉄

365日四六時中休むことなく流れ続けているテレビ。あまりにも日常に入り込みすぎて、さも当たり前のようになってしったテレビの世界。でも、ふとした瞬間に感じる違和感、「これって本当に当たり前なんだっけ?」。その違和感を問いただすのが今回ス...もっと読む

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コメント

morishin5555 読んでめちゃくちゃスッキリした。「よくぞ言ってくれた」のスッキリと、「論理的に納得できた」のスッキリの両方。 約1時間前 replyretweetfavorite

aizawaaa 読んでてうなりました。優れたテレビ論であり現代論。> 約1時間前 replyretweetfavorite

merli “坂上や宮根といった、力の強い話者は、こういう事象でも物怖じせずにぶっちゃけます、との雰囲気を醸し出すのが上手だが、その場における上長なのだから、それは、ぶっちゃけているのではなく、単に権限の行使である” https://t.co/CAv9RLAMYI 約2時間前 replyretweetfavorite

dyaco_huguruma [ ワイドショーはひたすら、強者によるぶっちゃけを投じてくる。それはぶっちゃけなのか。 (本文より) ] 約3時間前 replyretweetfavorite