nikkei
 日経の記事が議論を呼んでいる。世界中の国々で賃金が上がる中、日本が取り残されているというのである。

 
 ところが、最近こそリフレ政策が失敗に終わり、改めて政府は軌道修正して賃金引き上げを要請しているが、元々名目、実質共に賃金が上がらないのはアベノミクスの狙い通りだ。ここで、アベノミクスが導入される直前の2013年1月の、安倍総理のブレーン、アベノミクスの生みの親である浜田教授の発言を辿ってみよう。

> 物価が上がっても国民の賃金はすぐには上がりません。インフレ率と失業の相関関係を示すフィリップス曲線(インフレ率が上昇すると失業率が下がることを示す)を見てもわかる通り、名目賃金には硬直性があるため、期待インフレ率が上がると、実質賃金は一時的に下がり、そのため雇用が増えるのです。こうした経路を経て、緩やかな物価上昇の中で実質所得の増加へとつながっていくのです。
> その意味では、雇用されている人々が、実質賃金の面では少しずつ我慢し、失業者を減らして、それが生産のパイを増やす。それが安定的な景気回復につながり、国民生活が全体的に豊かになるというのが、リフレ政策と言えます。
 
> よく「名目賃金が上がらないとダメ」と言われますが、名目賃金はむしろ上がらないほうがいい。名目賃金が上がると企業収益が増えず、雇用が増えなくなるからです。

 つまり最初からアベノミクスとは、日本人の実質賃金を引き下げることによって、新興国と真っ向から賃金の低さを争うという政策だったわけだ。浜田教授が言う通り、既に職に就いている人から実質賃金を収奪し、代わりに新興国から低賃金ポストを奪い取ったのである。世界同時不況では世界各国にとって失業が最大の課題であり、通貨安競争によって低賃金ポストを奪い合うためその政策は正しい。大半の国民も雇用が緩むと自分は首になったり就職できない層であると自己認識していたのでアベノミクスに最大限の支持を与えた。

    しかし、あれから5年経って世界景気が回復して各国が完全雇用に近づく中、各国政府の課題は次第に優秀な人材を確保して高付加価値産業を育てることになってきている。そうすると、元々どんな金融政策の下でも職に就ける層を犠牲にしてきた円安日本は極めて不利となる。まず通貨安ダンピングで収益を固めて初めて研究開発の余裕ができる、という考え方もできるが、現実にはたとえ企業に資本が貯まっても、年収10万ドル弱で集められる人材で世界と戦うのは難しくなりつつある。また収益が上がっても結局、人事考課制度は賃上げを阻むデフレマインドゆえの減点法から一朝一夕では変わらなそうだ。

 今は低い物価と日本語の壁で辛うじて引き止めているが、ある時点を超えると海外で通用する人間がゴソッと抜け、高齢の富裕層と海外で通用しない人間が残って重税を払いながら化かし合いを続ける社会になる可能性すらある。今更円高に戻せないとなると、日本の国際競争力はリフレ理論の間違いに気づいた政府の賃上げ要求の成否にかかっている。

関連記事

働き方の話題は全てデフレに通ず



この記事は投資行動を推奨するものではありません。