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【私説・論説室から】

寛容をむしばむ毒

 ナチスの過ちを繰り返さないよう徹底しているはずのドイツで、これまであまり目にすることがなかった反ユダヤデモが繰り広げられている。ベルリンでのデモに参加した若い女性は「残念ながら、ヒトラーがやったことは正しかった」とホロコーストを正当化していたという。ネオナチや極右ではない。イスラム系の移民難民たちだ。

 ユダヤ人らが建国したイスラエルへの根強い反感に加え、トランプ米大統領が、イスラムの聖地でもあるエルサレムを首都と認定したことが、憎悪炎上の引き金を引いた。

 ドイツは今回のエルサレム首都認定には同調しなかったが、ナチスの犯罪を償うため、イスラエルに国家賠償し、ユダヤ人らに対するヘイトスピーチやナチス賛美を厳しく取り締まってきた。落書きなどはあったものの、反ユダヤが公然と叫ばれることはなかった。

 冷戦後、旧ソ連や東欧から約二十万人のユダヤ人が入国、一方で、ここ数年で中東などから百万人以上の難民が流入した。

 双方の憎しみ合いは、寛容を国是とする国でも激化するのか。

 宮部みゆきさんの小説「名もなき毒」では、悪意に満ちた人間が、嫌がらせやクレームなどで周囲の人たちをもむしばんでいく。

 大統領就任からまだ一年。トランプ氏の吐く毒は止まらない。対立と憎悪をどこまで拡散し続けるのだろうか。(熊倉逸男)

 

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