中国の「反貧困キャンペーン」はどこへ向かうか

「苦い銭」のリアルと「脱貧困」統計への称賛、その狭間で

2018年1月24日(水)

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第73回ヴェネチア映画祭で王兵監督の「苦い銭」はヒューマンライツ賞と脚本賞を同時受賞した(写真:Shutterstock/アフロ)

 2月3日から東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムなどで全国ロードショーが始まる王兵監督のドキュメンタリー映画「苦い銭」のサンプルDVDを先日見た。これは貧困農村から地方都市に出稼ぎにでてきた農民たちの「働けど働けど楽にならざりけり」という厳しい現実に密着取材したフィルムだが、その登場人物たちの言葉や表情が非常にドラマチックだとして、ヴェネチア映画祭ではドキュメンタリー映画としては異例な脚本賞をヒューマンライツ賞と同時に受賞した。改革開放40年目を迎え、世帯資産増加スピードが世界二位とも言われる中国の「貧困」のリアルを突きつける秀作だと思うので、機会があれば、ぜひみてほしい。

 この映画がことのほか、私にとって印象深かったのは、ちょうど習近平政権二期目の政策の柱の一つとして“反貧困”が掲げられており、大晦日の習近平の祝辞の中でも「2020年までに農村の貧困人口の脱貧困を実現する。一諾千金」と強い調子で宣言していたことが頭に残っていたからだった。

 習近平政権は、長期独裁政権を実現するために国防・軍事に軸足を置いているが、本当のところ最大の鍵は「経済」であろう。それは単純にGDPを増やすという事ではなく、中国の根深い貧困を撲滅することができるかどうか、という点にかかっている。仮に、GDP成長率が多少鈍化しても、大衆の中にある貧富の差に対する不満や、まだ各地に残る絶対的貧困を解消することができれば、大衆の政権に対する支持は高まり、共産党体制の正統性は留保されることだろう。

 だが、もし、習近平政権になってさらに人々の暮らしが悪化し、貧困を切実に感じるようになれば、どれほどスローガンで「中華異民族の偉大なる復興」を掲げても、習近平政権の求心力は失われ、その足元から揺らいでいくだろう。今回は、中国の「貧困」の現実について考察したい。習近平の宣言どおり貧困は撲滅できるのか。

「大晦日の大号令」で全国的キャンペーン

 2017年12月31日、中国国家主席として習近平は新年の祝賀メッセージを発表した。そこで、彼は次のように語った。

 「2020年までに我が国の規定する水準以下の農村貧困人口を貧困から脱出させることを厳粛に約束する。一諾千金である。2020年までわずか3年しかないが、全社会で行動を開始し、全力で戦い、緻密に政策を行い、新たな勝利を勝ち取り続けるのだ。3年後に脱貧困を勝ち取れば、これは中華民族数千年の歴史の中で初めて完全に貧困現象が根絶されるということであり、我々がともに中華民族、いや全人類にとって重大な意義のある偉業を完遂したということである」…

 これを受けて、中国全土で新年早々から具体的な貧困撲滅目標や計画が次々と打ち出されている。例えば遼寧省は、2017年に25.3万人の貧困人口の脱貧困を実現し、566の貧困農村および4つの貧困県の貧困問題を解決したので、2018年はさらに15万人の貧困人口を貧困から脱出させ、500の貧困農村と6つの貧困県から“貧困”の二文字をとると、表明した。また江西省は2018年には269の貧困農村で道路建設を重点的に行い、年末までには貧困村の孤立を無くし、脱貧困および郷村振興のために省として援助を行う、としている。このように習近平の“大号令”によって、各省、自治区では貧困対策を打ち出し、全国的に「反貧困キャンペーン」が展開されつつあるのだ。

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「中国の「反貧困キャンペーン」はどこへ向かうか」の著者

福島 香織

福島 香織(ふくしま・かおり)

ジャーナリスト

大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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