KNNポール神田です。
シティグループのアナリストJimSuva氏は、トランプ減税のもと、Appleが海外で溜め込んだ2523億ドル(約27.8兆円)の巨額の資金を使い、自社の成長の為に買収する可能性が高いといくつかの候補のリストを掲げた。その中でもNetflix社やDisney社は、Appleにとってもすぐにその買収によるシナジーが考えられそうだ。
ちなみに、現在2018年1月23日火曜日の
Appleの時価総額は9,000億ドル(約99兆円)、
Netflixの時価総額は、980億ドル(約10.7兆円)、Appleの10.9%
Disneyの時価総額は、1670億ドル(約18.3兆円)だ。Appleの18.6%
Apple 一社の時価総額9,000億ドルは、インドネシアやトルコ、オランダ等の年間名目GDPとほぼ同等だ。
そして、Appleは今後5年間にわたり、300億ドル(約3.3兆円)の米国内での投資と2万人の雇用を計画している。
現在のハリウッドとシリコンバレーの生態系マップ
ソフトコンテンツ産業の王者、ハリウッド。しかし、映画産業とテレビ産業の統廃合は進み、現在 20世紀FOXを抱える21世紀FOX社は、520億ドル(約5.7兆円)でDisney社に買収でDisney傘下入り。Disney社はテレビのABCを持つ。Universal映画やテレビのNBCを持つCATVの親会社Comcast社、Paramount映画やテレビのCBSを持つCATVの親会社VIACOM社、Warner Brothers映画はCATVを含むコングロマリットのTime Warner社。そして、AT&TによるTime Warner社買収に米司法省がストップがかけられている状態だ。
映画産業とテレビ産業、そしてCATV産は資本関係で協力関係にあったが、Netflixがネット経由でのオンデマンドを開始した事により、CATVのブロードバンド回線だけを使いNetflixやAmazon PrimeやHuluを視聴するというCATVによるスケジュール配信コンテンツ視聴に大きな変化をもたらしたのだ…。Hulu社の株はDisneyのFox買収により60%以上となり、Disney社の傘下と見ることができる。
さらに、AT&T社はVerizon社に先駆け、次世代「5G」サービスを今年2018年内に開始する。そして、Verizon社は、Yahoo,Inc.やAOL,Inc.のネットコンテンツホルダーを傘下に持つ。そこで、この図式に、どのようにAppleやNetflixが絡むかに注目が集まる。
AppleとNetflixとのシナジー
現在、AppleTVでは、 GoogleのYouTubeや、Amazon prime video、NetFlix 、Disney Channel 、Hulu Plus などが視聴でき、AmazonやGoogleとも友好的な関係である。一方、AmazonとGoogleの関係は、スマートスピーカーのライバル関係で険悪なムードでAppleにとっては好都合だ。
Netflixは、資金的にもAppleの時価総額の約1割。潤沢なAppleの海外保有キャッシュで税金を支払ったとしても、いつでも買収できる状態にあると考えられる。むしろ、Appleが目指すのは総合メディアでのプラットフォーマーとそのデバイスの市場を抑えることだ。そして、CATV会社の最大の天敵は、視聴者の目を奪い続けるNetflixである。Appleとしては現在のNetflixとの協力関係で十分、「利」を得ているはずだ。わざわざCATVを敵に回すことはない。AppleTVの利用度が上がれば、HDMIケーブルを通じて CATVのコードカッターとなれるからだ。
むしろ、iOS,macOS,ApppleTVのインストール(リーチ)を通じて、Appleが、ユーザーに利用させたいのはその「接触機会(フリーケンシー)」の増大だ。そう、その「接触機会を増やすという意味では、Disneyを傘下に持つことのほうがはるかに意味がある。
AppleがDisneyを買収する日
http://www.latimes.com/business/la-fi-disney-fox-sale-shareholder-20171214-story.html
Appleと、Disneyは現在でも良好な関係にある。すでにDisneyの個人筆頭株主の2番目はDisney社のPixar社の買収によるSteve Jobs氏の夫人の個人財団である。そして、Disneyの個人筆頭株主のトップはFOX社買収によるルパート・マードック氏だ。両氏のストックの合計だけでも、Disney株の7.6%と最大株主となる。
さらに、Disneyの取締役会からTwitterとfacebookの役員が抜ける。これは、IT産業との競合関係になることを危惧しているからだ。
それであればIT企業のジャイアントであるAppleとのシナジーを活かしたいと思うことだろう。
Disneyの売上アセット比率もAppleには持ち合わせていない部分をカバーできる。それは、メディアのチャネルとパークエンターテインメントだ。実は、DisneyやFOXの売上に占める映画スタジオ部門の比率は、それほど大きくないのだ。
http://www.bbc.com/japanese/42362960
そして、買収した21世紀FOXグループ(一部非買収)のアセットがDisneyにプラスされる。Disneyも21世紀FOXも映画事業よりも、映画事業を軸にしたCATV部門が稼ぎ頭である。
https://www.wsj.com/articles/disney-held-talks-to-acquire-assets-of-21st-century-fox-1509994869
CATV部門が映画部門をはるかに凌ぐ。しかし、それらがNetflix社らのIT陣営によるコードカッターらの成長によって利益の成長を止められてしまったのだから尋常ではない。
米Walt Disney 10K 四半期連結SEC報告書 2017
そこで、Dixneyや21Foxにとっての、白馬の騎士となれる企業というとそう多くはない。その中でもAppleは組織のカルチャーもDisneyに近いものがある。自分たちがすべてのルールを決め、ユーザーの安全性を守り、市場の原理ではなく、浄化された自分たちのフィルターで守られた「おとぎの国」を提供する企業カルチャーだ。
すでにNetflixの2017年の契約者数は2400万人増加し、世界全体で1億1760万人に達しているのだ。そう米国のCATVの覇権だけの問題ではなくなってきている。ハリウッドメジャーといえども、収益の大半を国内CATVに依存する限り、全世界を対象とするNetflixは脅威である。NetflixらのAIからディープラーニングを駆使したユーザーの好みを把握したコンテンツサプライヤーに自分たちの映画をシャットアウトしたところでこの動きは止まらない…。
そして、AppleにとってNetflixは良いお客様でもある。アプリの世界では、NetflixはAppleやGoogleに多大な課金ビジネスで貢献してくれている存在なのだ。
AppleがDisneyを買収する日もあるだろうし、DisneyがNetflixを買収するというシナリオもありだろう。
しかし、現在、Appleがなんとしてでも構築しなければならないのがiPhoneに次ぐコア事業の確立だ。iPhone、iPad以降には、Apple WATCHしか投入できていない。すでに何世代も前のiPhoneで十分というMicrosoftの「Windows XP症候群」のように、アップデートさえしないという自らのユーザーに買い替えを促さないといけない存在になっている。バッテリ劣化を理由にCPUを故意に遅くしているとまでいわれる始末だ。Appleにとってコンテンツという市場は参入するよりも、プラットフォーマーとしての流通量に対しての課金するビジネスの方が魅力的だ。Netflixの上流を抑えているAppleにとっては、一部のコンテンツホルダーと親密になるよりも、多くのコンテンツホルダーに場を利用してもらう為の新たなプラットフォームの場となるメディア端末の開発が急務だろう。
しかし、トランプ減税で海外の埋蔵金が投資に自由に使えるのなら、DisneyやNetflixの大型買収はありだろう。メイン事業が飽和し、次の一手が打てていないのだから、欠点を補えるための面を一通り、埋めておく買収はありだからだ。Appleの巨額な現金で最大の買い物がビーツ・エレクトロニクスの30億ドルが最高というのは、企業規模からすると貯金しすぎだ。サプライマネージメントで最大の成果を見せた CEO Tim Cook氏の本当のチャレンジが始まる。