「あかつき」データから作られた美しい金星画像

JAXAの金星探査機「あかつき」が撮影したデータをフランスの写真家が画像処理して作られた、美しい金星の画像が公開されている。

【2018年1月23日 惑星協会

「あかつき」は2010年に打ち上げられたJAXAの金星探査機だ。軌道制御エンジンが破損したために金星周回軌道への投入は一度失敗し、予定より5年遅れの2015年12月7日に姿勢制御用のスラスタを使って周回軌道投入に成功した。当初の計画に比べて金星までの距離が遠い周回軌道とはなったものの、現在も様々な搭載機器で金星の観測が続けられている。

「あかつき」の観測で得られた画像やデータはJAXAのデータアーカイブ「DARTS」で研究者向けに公開されている。このアーカイブは科学・教育目的やこれに関する報道といった用途であれば誰でも無償で利用できるものだ。そこで、フランスの写真家で惑星探査機などの画像を処理するアマチュア愛好家でもあるDamia Bouicさんは、DARTSの画像データを自ら画像処理して素晴らしい金星画像を作り出した。Bouicさんの画像は惑星協会のウェブサイトに投稿され、研究者のコメントが付けられている。画像とコメントをいくつか紹介しよう。


まず1枚目は「あかつき」の紫外線イメージャ(UVI)のデータから作られた画像だ。UVIは波長283nmと365nmの紫外線で対象を撮影するカメラで、金星の大気を高い解像度で観測することができる。Bouicさんは波長283nmの画像を青、365nmの画像を赤のチャンネルに割り当て、両者の画像から緑チャンネルの画像も合成することで擬似カラー画像を作り上げた。

「あかつき」が撮影した金星の紫外線画像
「あかつき」が撮影した金星の紫外線画像。金星大気の複数の成分を色で識別することができる(提供:JAXA / ISAS / DARTS / Damia Bouic、以下同)

「UVIには、65〜75kmの高度にある雲や霞の上層部で反射した太陽光が写ります。雲の上層部は主に硫酸でできていますが、それ以外にも液体の水や、紫外線を吸収する未知の物質がわずかに含まれています。この未知の吸収物質は特に365nmの画像で黒っぽくはっきりと写っています。一方、波長285nmのチャンネルは二酸化硫黄の濃淡を表します。二酸化硫黄は火山から放出されるガスです。地球の二酸化硫黄は火山が主な供給源ですが、これは金星でも同じようです」(研究者のコメント、以下同)。

「色の違う部分があることから、正体不明の紫外線吸収物質と二酸化硫黄ガスの流れが下層大気から雲を突き抜けて常時上がってきているという重要な事実がわかります。二酸化硫黄は雲の上では太陽光の紫外線によってわずか数時間で分解され、別の化学物質に変わってしまうはずだからです。ここで分解されてできた物質が雲の生成に関わっています。二酸化硫黄が供給される場所や量についてはまだほとんどわかっていません。Bouicさんの画像はこれらの疑問を解明するのに非常に役立つでしょう」


2枚目は「あかつき」の2μm赤外線カメラ (IR2) のデータを処理したものだ。IR2カメラは金星の夜の領域で大気から放射される強い熱放射をとらえることができる。

赤外線で撮影された金星の夜の領域
赤外線で撮影された金星の夜の領域。「あかつき」のIR2カメラで波長1.74μmと2.26μmで撮影された画像を擬似カラー合成したもの。暗い領域ほど雲が厚いことを示す。場所ごとの色の違いは雲を構成する粒子のサイズや成分が異なっていることを示す

「IR2カメラは紫外線カメラよりも高度が低い、約48〜55kmの様子を写し出します。この波長では、金星の雲は太陽光ではなく地表側から照らされています。つまり暗い領域ほど雲が厚いことを表します。こういった擬似カラー画像は、金星の大気に含まれる酸性の滴で作られる嵐や上昇流を見分けるのに役立ちます。『あかつき』の画像には様々な種類の目新しい特徴が写し出されています。これらは金星表面の地形と関係しているものかもしれません。また、これらの画像は雲の動きを監視するのにも使えます。それによって、雲の下層部で起こっている水平気流を追跡できるのです」。

惑星協会では、Bouicさんと同じように「あかつき」データの処理に携わるアマチュアが今後も増え、このような成果が金星の理解を発展させるきっかけになることを望んでいる。

〈参照〉

〈関連リンク〉