かつて、オリコン年間ランキングからは「その年のヒット曲」を振り返ることができた。しかし、複数枚購入する「AKB商法」が広まったことで、「本当の流行歌」が見えなくなった。
実際、2010年代に入ってからのオリコン年間ランキングはすべて、AKB48の楽曲が1位を獲得している。
では、そもそも、なぜCDを売るのか? なぜその売り上げ枚数を競うのか? なぜ勝ち負けがそこに生じるのか? ロングセラー『ヒットの崩壊』より特別公開。
10年代に入り、AKB48関連のグループがオリコンランキングを独占するようになった。
そのCDには、メンバーとの「握手会」に参加できる握手券や、選抜メンバーを決める「シングル選抜総選挙」の投票券が封入されている。
それを求めてファンは複数枚のCDを購入し、そのことがセールスを押し上げる。コアなファンは何枚、何十枚、時には何百枚ものCDを買うようになった。
こうした状況を揶揄する「AKB商法」という言葉も広まった。
なぜAKB48は握手会の参加券や投票券「そのもの」を販売するのではなく、それをCDに封入して出荷するのか。
一つの答えとして、「オリコンランキングが今もなお権威を持っているから」ということが言える。
オリコンが毎週発表するCDの売り上げ枚数やランキングの数字が、いまだにメディアに対してのプロモーション効果を持っていると業界全体にみなされているからだろう。
では、そもそもなぜオリコンは権威となり得たのか? そして、オリコン側はこの10年代の状況をどう捉えているのか?
オリコン株式会社の編集主幹、垂石克哉に取材した。
「オリコンがシングルランキングをスタートしたのは1968年の1月でした。その当時、僕は中学生でしたが、初めてラジオ番組でオリコンランキングを知った時の衝撃は大きかった。ものすごく画期的なランキングだったんです」
垂石はこう語る。
オリコンの登場以前もレコード売り上げランキングはあった。ただ、それは山野楽器などのレコード店が独自に集計していた、その店の売り上げ枚数のランキングでしかなかった。しかも売り上げ枚数は企業秘密なので、当然公表されなかった。
ラジオ局が放送していたリクエスト番組のリクエスト数を集計したベスト10も発表されていたが、「本当に売れている曲」を知るためには、そういうバラバラな情報を組み合わせて推測するしかなかった。
そんな時代において、オリコンは、初めて全国各地のレコード店の売り上げを集計したランキングを作成した。そのことが日本のポピュラー音楽の歴史において、大きな意味を持った。
「それまで、売り上げ枚数という統一基準で、徹底して正確な尺度で作られたランキングというものはなかったんです。そこが一番画期的なところでしたね。
僕がこの会社に入ったのが1975年頃なんですけれど、最初に入ったのが集計部という、まさにランキングの制作を担当している部署でした。
その当時はパソコンなんて当然ない。ファックスもない。毎週月曜日に日本各地のレコード店に電話して、そのお店の売り上げ枚数を手書きでメモしていくんです。
それを電卓で手作業で計算する。そこから全国の売り上げ枚数の推定値を出していくという作業でした」
当初は売り上げ情報を教えることに抵抗を示すレコード店もあったそうだが、開始してまもなく、オリコンの発表するランキング自体にプロモーション効果があることが実証される。
1位になった楽曲は話題を呼び、それを歌った歌手の知名度も向上し、レコードの売り上げも増した。その相乗効果でオリコン自体のブランド力も上がっていった。
オリコンランキングの大きな特徴は、それが「指数」ではなく「枚数」だったことにある、と垂石は言う。そのことがオリコンランキングの価値担保につながった。
「当時、うちの他にレコード売り上げのランキングを作っていた会社が2社あったんです。ミュージック・リサーチとミュージック・ラボというその後発2社と違って、うちは毎週の『推定売り上げ枚数』を出していた。他の会社は『指数』だったんです。指数って、結局のところ何を表しているのかわからない数字ですよね。
でも、売り上げ枚数は出荷しているレコード会社側も把握している。市場に出荷したうちの何割かが売れたと推定して、その数字と比較すれば、オリコンの正確さがわかる。
実は、毎週毎週のチャートは、レコード会社やプロダクションにとっての検証の場でもあったんですね。一般のリスナーからは見えない部分ですが、それを積み重ねてオリコンは信頼を得ていったんです」