YKK本社機能移転と新幹線で変化「黒部」の今

整備新幹線構想の「夢」を実現した街の実際

北陸新幹線・黒部宇奈月温泉駅の外観=2015年10月(筆者撮影)

2017年12月、北陸新幹線の長野―新高岡間をおよそ1年半ぶりに調査する機会があった。2015年3月14日の開業から2年9カ月、1000日目を迎えた時期に当たり、記念のイルミネーションが各駅前を彩っていた。富山駅と新高岡駅、上越妙高駅前に再開発ビルやビジネスホテルが姿を現す一方で、新高岡駅へ停車していた速達タイプ「かがやき」臨時便1往復が12月以降、週末・多客期の限定運行になるといった変化が生じていた。

今回の訪問で、初めて着手できたのが、富山県黒部市に起きている変容の調査だった。北陸新幹線開業と同時期に、YKKグループは東京から本社機能の一部を同市へ移したほか、新たな「まちづくり・住まいづくり」を提案する「パッシブタウン」プロジェクトをスタートさせた。他の整備新幹線ではほとんど例を見ない、日本を代表するクラスの企業の動きは、地元に何をもたらすのか――? 沿線の他地域の様子と併せて点描してみよう。

YKKグループの街が一変

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師走を迎えた黒部市は、冷たい雨に煙っていた。徒歩での移動をあきらめて、市中心部の「パッシブタウン」へタクシーで向かうと、やがて、周辺の街並みとは趣が異なる建物群が見えてきた。YKKの関連会社であるYKK不動産株式会社(本社・東京都)が、YKKグループの社宅を再整備している街区だ。2015年1月に第1期街区を着工し、2025年までに全6街区、250戸を建築する。同社の社長は、YKK株式会社の吉田忠裕・代表取締役会長CEOが務める。既に、第1期街区から第3期街区まで、117戸の建設が終わり、市民も利用できるカフェなどの商業施設や保育園を併設している。

「パッシブ」はもともと「受動的」を意味する言葉だが、建築分野では逆に、最も先進的で能動的なイメージを感じさせるコンセプトだ。風力や太陽熱、地下水など、自然のエネルギーを可能な限り活用できる構造を採り入れ、電力・ガス・石油といったエネルギーの消費を極力抑えながら、持続可能な社会とライフスタイルづくりを目指す。

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  • NO NAME310e3ccef1b8
    私は都内出身で都心と地方都市の双方で働いたことがありますが、給料が同じなら職住接近できる地方の方が快適です。でもこの考えは地方から上京してきた人には理解できないみたいです。都心の本社は通勤に片道1時間かけて社員を疲労させてから仕事させて経営者は何考えているんだろうといつも思います。また、雪や地震ですぐに来れなくなるオフィスで事業継続計画練ってどうするんでしょうねえと思います。
    up30
    down8
    2018/1/23 10:28
  • NO NAME2c8a216a3f36
    企業の地方移転を進めるためには東京のオフィスビルを抑制しなくちゃならない
    人口減社会なのに高層ビル建てまくってるのは正気じゃない
    公共交通機関も麻痺してる
    up25
    down5
    2018/1/23 09:10
  • NO NAME737860203022
    人口が多い都市ほど一番でビルしかない都会は優れてるとか素晴らしいとか言ってるの東京だけだよ
    世界では大自然が近くにある都市が人気あるし集まる
    世界時価総額ランキング見れば一目瞭然でしょ
    上位10位の内、国一番の大都市企業はJPモルガンチェースだけ

    あとは全部地方都市の企業
    ダイソンの本社は5千人の村だよ?
    スイスのネスレなんか周囲湖と森だよ?
    そこに世界中から優秀な若者が集まってる

    up18
    down1
    2018/1/23 13:04
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