学生が自ら命を絶つという痛ましい事件が相次いで起きるなか、それを公式に説明せず、対応が後手に回っている大学がある。東北を代表する国立大学法人のひとつ、山形大学だ。
2015年、同大学の4年生(当時)が自死した。指導教員だった助教によるアカデミックハラスメントが原因であった疑いがあり、遺族が大学を相手に損害賠償請求訴訟を起こした。大学は責任を認めず、遺族と争っている。事件を追った――。
「悩み事があれば、一人で抱え込まず、相談窓口に話をしてください。」
2017年10月25日、山形大学の学生専用のホームページに突然、小山清人学長からのメッセージが掲載され、関係者を驚かせた。
同大学がこんな呼びかけをしたのには理由があった。
その前日の10月24日、山形市の小白川キャンパスの校舎から男子学生が飛び降り、死亡。授業中の出来事だったため、学内に大きな動揺が広がった。「異常事態」であり、大学がなんらかの対策を採るべき状況であるのは自明。学内で協議された結果、学長のメッセージがホームページに掲載されたというわけだ。
しかし、同大学の関係者からはこんな声が上がっているという。
「学長のメッセージはあまりに形式的すぎる。これでは本当に学生の悩みを拾い上げることができるのかと疑問の声が出ています。大学は明らかにしていませんでしたが、実は山形大学では学生による自死が相次いでいたのです」
一体どういうことか。
さかのぼること2年前の2015年11月、当時工学部の4年生だった男子学生が自死するという事態が発生。その1年3ヵ月後の2017年2月にも、工学部の男子学生が自死した。さらに、10月24日に学生が飛び降りて死亡した小白川キャンパスでは、直前の10月4日朝にも男子学生が倒れているのが発見され、病院で死亡が確認された。やはり転落し、自死したとみられている。
2年間に、分かっているだけで学生が4人も自ら命を絶っていたのだ。
無論、それぞれに複雑な理由や背景があるのだろう。だが、関係者を取材したところ、亡くなった4人の学生のうち、少なくとも2人は、自死する以前に本人もしくは親が大学に日常生活・研究活動についての悩みを相談をしていた、というのだ。
大学は学生の自死について、基本的には公表していない。詳しいことを何も説明をしていないので、大学が適切な対応をとったのかもわからない。少なくとも自死を防げなかったことだけは確かだ。
しかも、2015年11月に男子学生が自死していたことが公になったのは、遺族が大学を訴え、裁判が始まった後の2017年8月になってからだった。自死の原因は、学内でのアカデミックハラスメントの可能性がある。男子学生は、卒業研究の指導を受けていた助教から、繰り返しハラスメントを受けていたのだという。
男子学生は研究内容の不備や、研究姿勢などについて、助教からたびたび批判されていた。助教による説教は、長時間に及ぶことが多かったという。
他の必修科目の中間試験と研究室の研修旅行の日程が重なったときには、男子学生が「試験を受けたい」と申し出ると、助教から「研究と授業とどっちが大事か」と詰問され、研修旅行に行くことを強要されたこともあった。遺族の代理人弁護士によると、ハラスメントは複合的で、男子学生はストレスを延々と抱え続けていたという。