Twitterの有名人で元電通マン、田中泰延氏がこんなこと呟いてまして、ワタクシ心底がっかりいたしましたね。
田中氏の発言は、「オレ、競売物件触ってるぜ」からきたもんですし、たしかに競売から見りゃ広告の美辞麗句が数百万円の価格上昇をもたらしてるって、庶民感覚では大いに納得できると思うんですよ。マンション、めちゃくちゃ多額の広告費払ってますものね。
「広告やめりゃ、数百万円安くできるんですぜwww」
そんなの販売側のデベロッパーや販社が一番良くわかってるんですよ、彼らだって本音じゃコストカットの真っ最中、一番切りたいのは広告費でしょうよ。でも切らずに広告代理店に宣伝をお願いしているわけです。ではなぜ、戸あたり数百万円も広告費を使わざるをえないのか。
それは、新築タワーマンションに限らず、新築大規模マンションのような「短期間に数千万円という価格が付いたものを数百~千戸、売らないといけない」という商品の宿命によるものなのです。
思考実験をします。
A地域のαタワーマンション:広告費を戸あたり数百万円払って、戸数の10倍の人をモデルルームに呼んでセールスをかける
B地域のβタワーマンション:広告費を使わず、手書きのコピーチラシと口コミだけを頼りに集客し、新築相場より数百万円安く提示して価格勝負をする
どちらの方が先に完売すると思いますか?
答えは絶対にαの方ですよ。だって、βはどうやって集客するんですか?人が来ないといくら安くても始まらない。「人通りが多くて家賃が高い路面店より、人通りが少ない裏通りの空中階なら家賃も安い。路面店より原価を高できるから、旨いモノを出して勝負すれば絶対繁盛する」と思って出店し、ほとんどが1年もたずに屍になるのと同じ理屈です。
消費者が家を購入する時、価格だけで決めるものではありません。安くしたところでどのみち数千万円という価格なのですから、シラフで買える人なんてほとんどおらんのです。相場を知っている人なら誰もが安いと思う価格で出しても、モデルルーム訪問してやっぱり買わない人はいっぱいいる。チラシも見ずにふらっとモデルルームに入ってそのまま契約してくれる神様がほとんどおらん以上、物件価格を上げてでも広告費を積み、商品を見てもらう人を増やすしか無い。巨大なプロジェクトですから失敗するわけにもいかない。
人から認知してもらわなければ来ない。だから、テレビや雑誌や新聞やWeb、電車の吊り広告や看板、ポケットティッシュにサンドウィッチマンとありとあらゆる手段で認知してもらい、モデルルームに来てもらう努力をしないといけない。マンションを買いたくなる気持ちを喚起しないといけない。
繰り返しますが、これは良い悪いの問題じゃなくて、新築マンションという商品そのものが抱える宿命なんですな。歯ブラシやシャンプーや風邪薬のようなものと違い、「広告費を上乗せして販売しないと絶対に売り切ることができない」ものなのです。だから、一番最初の「広告全部やめたら」って仮定が成立しないんですわ。
こんなこと、元電通マンなら百も承知のはず。
え?もしかして知らなかったの??
広告代理店って、かっこいいコピーときれいな写真と広告を作ることだけに必死で、商品を素早く・高く・気持ちよく売るのか、そこまで考えなくてもできる素晴らしい商売なんですね。田中氏のネット連載好きだったので、本当に僕はがっかりですわ。はい。