クローズアップ現代+▽#くいもん小さくなってませんか 食の“スモールチェンジ”[字] 2018.01.18
インターネットで話題になっている比較画像。
同じ商品なのに大きさが違いますよね。
実は今、店頭に並ぶおなじみの食品がなぜか小さくなっているんです。
SNS上ではそのことに気付いた消費者の不満や嘆きの声があふれています。
うっすいかまぼこだな〜。
私たちはこの現象を「スモールチェンジ」と名付け背景を徹底取材しました。
食のスモールチェンジ。
今夜はこの奇妙な現象の裏側に迫ります。
こちらはSNSで話題になっているスモールチェンジしたという食品の数々なんですがこうしたパック飲料、1リットル入っていると思いますよね。
実は、900ミリリットルになっていました。
そして乳製品、菓子類では中身の個数が少なくなったりサイズが小さくなっていたり。
ソーセージは5グラムから10グラム分、減っていました。
なぜスモールチェンジしたのか食品メーカーに問い合わせてみました。
こちらのミートソース缶は295グラムから255グラムと13%スモールチェンジしていたんですが、その理由は……との回答でした。
世帯人数の減少や個食化が進んでいることに対応したといいます。
しかし、理由はそれだけではありませんでした。
私たちはコンビニやスーパーに並ぶおにぎりが、今まさにスモールチェンジされようとしている現場に潜入。
驚きの実態が見えてきました。
関西各地のスーパーで売られている、おにぎりやすしの製造工場です。
深夜、工場の片隅で、おにぎりをスモールチェンジさせようという試みが行われていました。
もともと100グラムだったおにぎりを、価格は据え置きで95グラムに減らす計画。
僅か5グラムですがこの会社にとっては死活問題だといいます。
5グラムであれば私たち消費者は気付きませんよね。
でも、ほんの少し小型化するだけでも意外と大変なようです。
おにぎりを包むパッケージがフィットしなくなってしまいました。
ぶかぶかにならないよう一晩かけておにぎりを包装する機械を調整しました。
それにしても、なぜここまでするほど米の価格が上がっているのでしょうか。
要因の一つは意外なところに。
それは、家畜の飼料。
日本は7割以上を輸入に頼っていますが今、世界的に需要が高まっています。
そこで政府は自給率を上げようと飼料用の米を作る農家に補助金を出すことにしました。
飼料用米は比較的手間がかからずしかも、補助金収入が見込めるとあって多くの農家が転作。
その結果人が食べる米の生産量が減り価格が高騰しているんです。
このように、メーカーがスモールチェンジをする大きな理由が、原料調達コストの高騰です。
ある大手菓子メーカーによりますと、チョコレートの原料であるカカオ豆や乳製品などの輸入食材の調達費用が円安で上がってしまった。
そしてそれに対応するため、価格据え置きで商品を小さくするほうが、客の拒否反応が少ないと考えた。
つまり、実質値上げを選択したということでした。
このほかにも、世界的な貨物船の運賃の上昇、これは例えば小麦。
国内のドライバー不足による物流コスト上昇、これは食用油ですが、こうした変化もスモールチェンジの原因となっているということです。
食のスモールチェンジの実態調査を行っている渡辺さん、これ、なんとなく僕、感じてはいたんですが、ここまでいろんなものが小さくなっているとはちょっと思わなくてびっくりしたんですが、これ実は今に始まったことではないそうですね。
そうなんですね、大事な年は2008年なんですけども、ちょうど海外の穀物とかあるいは原材料が上がったために、日本企業の原価が上がってしまったんですね。
そうすると、それを価格に転嫁したいというふうに考えるわけですけれども、なかなかそれができないということで、2008年が実は、スモールチェンジが大量に起きた年なんですね。
その後、その動きは収まったかのように見えたんですけれども、2013年、14年、15年とだんだん増えてきているわけですね。
これは何かというと、アベノミクスが始まりましたと、あるいは日銀が異次元金融緩和っていうやつを始めましたと、これらのものはすべて円安をもたらすような仕組みがあったんですね。
そうすると、どうしてもそこで原価が上がってしまいますので、価格を上げなきゃいけないと、しかし上げられないと。
そういう中で、スモールチェンジっていうのが、再びそこから増えてきていると、これが現状だと思います。
そしてもう一方、流通・マーケティングが専門の野口さん。
きょうはちょっとおかぜをお召しということで大変恐縮ですが、お越しいただきました。
なぜ、ストレートに値上げせずに、スモールチェンジということになってしまうんでしょうか。
やはり、20年間続いたデフレ不況、深刻なデフレ不況がありましたんで、やはり安くなるのが当たり前というのが消費者のイメージなんですね。
それが突然値上げすると、あっ、これ、大変だという拒絶反応が起きるんですね。
そこの部分がすごく大きいと思います。
実際に値上げをするというのは、すごい大変なことなんですよ。
おととしですけども、あるアイスメーカーですが、社長がみずから値上げして申し訳ありませんという、テレビコマーシャルがあったんです。
これは海外のメディアもびっくりして、こういうようなことはなかなかないと、日本だからこんなことがあるんだというような感じで、いわゆる日本人は、価格の上昇に対して、とってもシビアなんだということです。
日本の消費者はどれほど価格に敏感なのか、先週、日銀が発表した生活意識に関するアンケート調査によれば、現在の暮らし向きに関して、ゆとりがなくなってきたと答えた人は、全体の4割に達しました。
さらに商品やサービスを選ぶ際に重視することという質問に対して、最も多かった回答は、価格が安いこと。
やはり価格は気になりますよね。
私も気になりますし、消費者が価格に対してシビアになるのは、当然だともいえると思うんですけども、ただ、もしかしてこれ、日本はちょっと特別だということなんですね。
給料が鍵なわけですけれども、給料が上がっていってれば、少々の価格の値上げがあったとしても問題ないわけです。
ところが、日本の給料というのは上がっていないんですね。
ここで見ていただきますように、ほかの諸外国、アメリカを含めた諸外国は、この16年間ぐらいで給料が1.5倍ぐらいになってるんですね。
その間に、日本はしかしほとんど変わらない、若干減ってるというような状況ですので、どうしても消費者も価格の上昇に対しては、シビアにならざるをえないという状況があります。
これが実質的な値上げだとしますと、今、日本はなかなか物価が上がらないというふうにいわれてますけれども、実は日本の物価というのは、もっと上がってるってこともいえるんですか?
実質値上げの一部は、総務省が消費者物価指数というところに反映させてはいるんですけれども、全部ではありませんので、恐らく皆さんが持っているこの実質値上げされているという実感と、それから統計というものに、ややずれが出てるんではないかと思います。
原料調達コストの高騰、値上げに厳しい消費者心理。
こうした中で、実は小さくしたくてもできないという悲鳴も上がっているんです。
食品製造の99%を占める中小企業の現場を取材しました。
富山県にあるかまぼこの製造会社です。
従業員は31人。
90年ほど前の創業当初から質の高い魚のすり身を使った手作りかまぼこを売りにしてきました。
4代目の社長、中陳新平さん。
代々伝わる細工かまぼこの技術を大切に受け継いでいます。
しかし、今会社を存続できるかどうか大きな岐路に立たされています。
悩みの種は、原料であるアメリカ産スケソウダラのすり身。
去年から価格が上昇していてことしは調達費が年間500万円近く増える見込みです。
すり身の価格が上昇している理由は、世界的な需要の変化。
かつてアメリカ産のすり身は日本と韓国が、そのほとんどを消費していましたが、近年ヨーロッパや東南アジアなどで輸入が急増しているのです。
これは、フランスのニュースレポート。
すり身を使ったかにかまが現地で生産され、人気を集めていることを伝えています。
かにかまの人気はヨーロッパ全土に広がりその年間消費量は日本の3倍に上るといいます。
すり身の価格上昇を受け一部の大手メーカーはすでに、かまぼこのスモールチェンジを行っています。
しかしこの会社のような中小企業の場合スモールチェンジはリスクが大きいといいます。
スモールチェンジするにはフィルムをすべて作り替える必要がありますが大手と違い数百万円に上る費用を捻出する余裕はないといいます。
かといってかまぼこの値段を上げたりコストカットのために品質を落としたりすれば一気に客離れが進むおそれもあります。
さらにスモールチェンジができず廃業に追い込まれる企業まで出てきました。
スーパーなどにもやしを卸していたこの会社。
3年前に赤字に転落し改善の見込みが立たないことから廃業を決めました。
赤字の原因はもやしの原料となる緑豆がこの5年で2倍近くに値上がりしたこと。
緑豆の主な生産国である中国の経済成長で人件費が高騰したためです。
しかし、もやしはスーパーが客寄せのため1円でも安く売ろうと価格競争を繰り広げる商品。
値上げはもちろんスモールチェンジも受け入れてもらえない状況でした。
スモールチェンジも値上げもできないという、中小企業の厳しい実態。
それを裏付ける調査結果も出ています。
こちらは食品産業で働く労働者へのアンケート。
およそ3割がスーパーなど小売り店からの圧力を感じたことがあると回答しました。
具体的には、競合メーカーどうしで価格の引き下げコンペを求められた。
要請額が度を超えている、値上げしたら取り引きをやめると脅されたといった声が寄せられました。
やむにやまれず、とうとう製品の質を落とすという手段に出る業者も現れています。
私たちが取材をしたある豆腐の製造業者は、円安で大豆の調達コストが高騰しているにもかかわらず、小売り店から値下げを求められ、こんな方法を取ったといいます。
水で薄めた豆腐を作り、1個当たりの原価を下げるというものです。
激しいコストカットへの圧力で、中には品質まで変えなくてはいけなくなるという現状をご覧いただきましたけれども、野口さん、これ、どうすればいいんでしょうか。
なかなか難しいですね。
価格を変えられず、それから数量も、質を変えるしかないというようなことですね。
ですから、逆にいえば質の部分に対して、こだわりをもって、例えばブランド化を図る、あるいは高級化を図る。
そういうような選択もあります。
例えばイチゴなんか1個、イチゴがパックに入って5万円とか、そういうので結構売れてるというのはある。
1個5万円のイチゴが売れてるんですね。
7500円。
こんな値段をつけて、これで売れてるんですよ。
そういうような形にすれば、いわゆる価格競争、この厳しい状況から脱却することができるということが言えます。
とはいえます。
価格競争をしないという選択ですね。
スモールチェンジから透けて見えてきた深刻な日本の食事情。
一体どうすればいいのか、こんな現場で問題解決のための試行錯誤が始まっていました。
年間、延べ21万人以上が利用する群馬県の総合病院です。
ここでは入院患者に提供する病院食を院内の調理場で作っています。
患者の症状によって献立は30種類以上に上ります。
ここにも、スモールチェンジの波が押し寄せています。
例えば、さけは1切れが80グラムから60グラムに。
ちくわも価格据え置きのまま1本100グラムから85グラムに。
500グラムあったヨーグルトも同じ価格で450グラムに減りました。
病院食はカロリーや栄養素に細かく気を配る必要がありスタッフは対応に追われています。
この病院では国の基準に基づき患者ごとに栄養素の量を設定。
この患者の場合必要なたんぱく質は1日70グラム。
さけとちくわが小さくなると4グラム足りなくなってしまいます。
しかし、ほかの食材で補うのも容易ではありません。
病院に支払われる金額は1食640円と国が定めているからです。
スモールチェンジが進む中必要な栄養を確保するため始めた取り組みがあります。
箱に傷が入るなどして店頭に出せなくなったいわゆるフードロス食材の活用。
取りまとめている団体から配送費だけで譲り受けています。
この日は足りないたんぱく質を補うためスーパーに卸されるはずだったという鶏肉を使ったサラダを献立に加えました。
品質には問題のないこうした食材を取り入れることで経費を削減しているのです。
一方、患者の満足度にも気を配る必要があります。
新たな食品を導入する際は栄養士が患者の意見を聞くようにしています。
廃棄食材を活用しようということですけれども、日本はやっぱり、フードロス、多いんですかね。
すごく多いですね。
日本はこのフードロス、非常に多くて、これがコスト増になって、例えば企業経営を圧迫しているわけですね。
やはりそこの部分を解消しないと、むだが多いですから、賢い消費者になって、やはりきちんと計画をして、完全消費を目指す。
むだに冷蔵庫なんかにためとかないようにする、これは大変重要なことですね。
それからもう一つは、廃棄される食材が多いものですから、規格外の商品とか、あるいは賞味期限が近いもの、こういうのをあえて購買するようにすると、そういうような形になりますと、例えば供給量が増えますから、実質的に購買する供給量が増えますから、価格が下がる可能性があると、そういうようなことがいえますね。
賞味期限が迫ったものも、なるべく買うようにするっていう、そういうマインドのチェンジも必要だという。
ー決して品質が落ちることがあるわけではありませんから、ちゃんと食べられるわけで。
渡辺さん、SNSでは小さくするぐらいなら多少値上げしてもよいという声が実はあるんですね。
消費者に丁寧に説明して、理解を得るという努力もやっぱり必要ですよね。
こういうスモールチェンジとか、コストカットというのは永久に続けるわけにはいきませんので、少し考え方を変えなきゃいけない。
大事なのはやっぱり公正な価格っていうことについての社会の常識をもう一回取り戻すことだと思うんですね。
もちろんべらぼうに値段を上げるとかはよくないことなんで、それはいけないんですけれども、しかし、必要な原価の上昇に対して、それを転嫁するということはいいことですので、そういう公正なものを取り戻す、そのために何が必要かっていいますと、まず消費者のほうについては、やはり安ければ安いほどいいというのは、少し考えを改める必要があるだろうと、それから企業サイドのほうについては、消費者がどういうふうな考えを持っているのか、あるいはどういう企業がいい状態になるのかということをきちんと説明をして、共感を得ていくと、こういう努力が必要なんじゃないかと思います。
たった一人で全てを演じきる究極の話芸落語。
2018/01/18(木) 22:00〜22:25
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代+▽#くいもん小さくなってませんか 食の“スモールチェンジ”[字]
▽いつの間にか食品が小型化=スモールチェンジしていた!?▽チョコにチーズにミートソース…SNSにさらされる証拠写真▽小さくしたくてもできない中小企業の悲鳴
詳細情報
番組内容
【ゲスト】東京大学大学院教授…渡辺努,早稲田大学大学院教授…野口智雄,【キャスター】武田真一,田中泉
出演者
【ゲスト】東京大学大学院教授…渡辺努,早稲田大学大学院教授…野口智雄,【キャスター】武田真一,田中泉
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ニュース/報道 – 定時・総合
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