「サッカーにロマンを求める」そんな指揮官が就任した2017年シーズンのFC岐阜は魅力的だった。
2017年の明治安田生命J2リーグはレギュラーシーズン、全42試合で11勝13分18敗の勝点46。22チームで構成するJ2リーグに置いての順位は18位。勝点や順位は例年とほぼ変わりなく、2017年もFC岐阜はJ1昇格プレーオフにすら進むことができなかった。
ただし、62.5%を記録した1試合平均のボール支配率は、J2リーグで断トツのトップ。2位のジェフユナイテッド市原千葉の59.7%を大きく引き離している。過去5年間で48%(ボール支配率が上から17位)、49.7%(同12位)、49.4%(同13位)、44.5%(同21位)、46.9%(同19位)と、これまで50%を越えた事もなかった岐阜の劇的なスタイル変化が見て取れる。
特に昨年のJ2では千葉のファン・エスナイデル監督、東京ヴェルディ1969のミゲル・アンヘル・ロティーナ監督、徳島ヴォルティスのリカルド・ロドリゲス監督という3人のスペイン系監督(エスナイデル監督はアルゼンチン出身だが、現役選手としても指導者としてもスペインで多くのキャリアを過ごしている)の流入があっただけに、この数値で断トツのトップになったことは大きな意味がある。
パス本数でも1試合平均で686.3本を記録してトップ。J2平均の427.5本を約250本以上も上回っている。また、日本代表で司令塔を務めた現J1ジュビロ磐田の名波浩監督が「理想的なパスサッカーは1試合のパス本数が650くらい」と語っている。
現行フォーマットの42試合制となった2012年以降のJ2ではクラブ史上最多の56得点という数字も、J2優勝を飾った湘南ベルマーレと僅か2得点の差しかない。単純な数値とはいえ、岐阜のパスやポゼッション率は、サッカーの内容面では「理想的」と捉えても良い水準かもしれない。ただし、順位も勝点もクラブ史上最高は2014年である。(下記表を参照。データは全て『データ・スタジアム』を参照。)
大木武監督は「問題のある監督」?
「全てのチームがバルセロナのようなサッカーをするのは問題だ」
とは、「守備の国」イタリアで異端の攻撃サッカーを志向し続けているズデネク・ゼーマン監督の言葉だ。あのフランチェスコ・トッティ(昨夏に現役引退、東京ヴェルディ1969加入ならず無念)を始め、近年でも2部のペスカーラを指揮した2011-2012シーズンにMFマルコ・ヴェラッティ(現パリ・サン・ジェルマン/フランス)やFWチーロ・インモービレ(現ラツィオ)、FWロレンツォ・インシーニェ(現ナポリ)という現在のイタリア代表の主軸になりつつある選手を一気に3人もブレイクさせた手腕は際立っていた。
そんなゼーマン自身はどんなチームでも極端な攻撃サッカーを標榜するため、70歳の大ベテランとなった今日に至っても、安定した実績も主要タイトルの獲得もない監督だ。ただ、上記に挙げた選手たちやアレッサンドロ・ネスタやジョゼッペ・シニョーリ、パべル・ネドベドなど、ゼーマンの薫陶を受けた選手たちは一気に世界でもトップレベルにまで駆け上がるタレントの多さが、彼の“実績”と表現するならば、大偉業を達成している指導者だと言える。
バルセロナのサッカーとはオランダ代表とアヤックス・アムステルダムのサッカーであって、リヌス・ミケルス監督と現役時代と監督両方のヨハン・クライフがオランダからバルセロナに植え付けたスタイルだ。そして、そんなミケルス監督と選手・クライフが牽引したオランダ代表が1974年のW杯で披露した『トータル・フットボール』は「サッカーの未来だ」と絶賛された。
しかし、あれから40年以上経っても未だにその「未来のサッカー」はあまり浸透していない。正確に表現すると、やってみたけど完成できずに頓挫したチームばかりで、完成させられたのはアヤックスとバルセロナ、オランダ代表とスペイン代表。そして、「クライフの愛弟子」ジョゼップ・グアルディオラが、クライフがアヤックスからバルセロナに移植したように、バルセロナからバイエルン・ミュンヘンに移植し、現在はマンチェスター・シティの指揮官として2度目の移植手術の執刀医として指揮を執っているぐらいだ。
ゼーマンの言う通り、このサッカーを実践するには選手の質が大きく問われるからなのだろう。ゼーマンの言葉を借りれば、FC岐阜を率いる大木武監督は「問題のある監督」なのかもしれない。サッカー勢力図では圧倒的に僻地とされるアジア圏で、それも国内2部リーグでも下位に位置するチームで、その方向性のサッカーをしているのだから。
愛される“大木イズム”
Leave A Comment