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第三十章 再び
「なるほど……お前たちが、リーシアって人がいなかったら、今は……なかったんだな」
「ラーメンを食いながら言うセリフじゃないな」
「いや、このインスタントラーメンっていうの? 一瞬で作れるくせに超美味い」
過去で起きた話を聞きながら、鏡はエデンの地下深くにあるセイジのプライベートルーム内で、ズルズルと音をたててラーメンを食べていた。あまりにも美味しそうに食べる鏡に、セイジは少し喉を鳴らして呆れ顔をみせる。
「というか、折角俺たちが真面目に昔の話をしてやったというのに、真面目に聞いているのはロイドとクルルとデビッドとタカコとフローネの五人だけじゃないか」
「いやいや俺もちゃんと聞いてたよ?」
「せめてラーメンを食べる手を止めて言わないか? まるで説得力がないんだが?」
プライベートルームの中央にあるテーブルを囲ったソファー、そこに座っていたのは、鏡、ロイド、フローネ、クルル、デビッド、タカコ、ティナ、アリス、セイジの7人だけだった。
そこは、床以外はガラスに囲まれ、ガラスの外は多種多様な魚が泳ぐ水族館のような一室だった。内装はバーのようなムードのある場所で、プライベートルームなのにも関わらずバーカウンターまで完備されている。
バーカウンターには話疲れたのかライアンと來栖の二人が水を飲みながら座り、話に飽きてしまったのかピッタ、ペス、メリー、フラウ、油機の五人は、各々ガラスの外に泳ぐ魚を観賞していたり、紙飛行機を作って飛ばしていたり、部屋に置いてあった何に使うかわからない機械を分解していたりと、好きなように過ごしていた。
「アリス、ティナ、話終わったぞ? おーい、そろそろ起きろー」
最初はかつての世界の話で目を輝かせていた二人だが、いよいよデミスと対面したくらいからフラフラし始め、話が終わる頃には二人とも鏡の膝を枕にして眠っていた。
鏡がポチポチと二人の頬を突いて起こそうとするが、気持ちよさそうに寝息をたてたまま起きようとはしない。
「アリスちゃん? ティナ、そろそろ……起きなさい?」
しかし、クルルがどこか威圧的な声色で全身から魔力を漂わせた瞬間、アリスはこれまで眠っていた振りをしていたのか、パチッと目を覚まし、流れるような動作で元の体制に戻した。
「やはりタヌキ寝入りでしたか……」
そんなアリスを、高圧的な見下した視線で睨みつけるクルル。
「ど、どうしてわかったの……?」
「昔のあなたならまだわからないでもありませんでしたが、今のあなた、それもあなたから興味を示して話してもらったのに、眠ってしまうなんてありえませんから」
「ボ、ボクのことをよくご存じのようで……さすがクルルさん」
まさかばれるとは思っていなかったのか、アリスはダラダラと冷や汗を垂らしてクルルから視線を逸らした。
「ティナがふらついて鏡さんの膝の上に寝てしまった瞬間、あなたの表情が激変したのを私は見逃しませんでしたから。あなたなら必ずやると思っていましたよ」
「ち、違うんだよ鏡さん! 決してボクは……最初は本当に眠くなって!」
クルルからの卑しい女を見るかのような視線を前に、アリスはあたふたとしながら鏡に弁明をはかる。対する鏡は果てしなくどうでも良さそうにラーメンをすすっていた。
「俺が真面目に話してるのに、お前らは一体何と戦ってるの? ていうか、真面目に聞いてた人数少なすぎないか? なあ? おい、こっちに視線を合わせろ」
セイジは眉間に皺を寄せた威圧的な顔を鏡に近付ける。ラーメンを食べていたが、割と真面目に話を聞いていた鏡は「なんで俺⁉」と腑に落ちない様子だった。
「諦めなよセイジ、彼らはとんでもなく強いが、そういう奴らさ。そういう変人たちの集まりだからこそ、ここまで来れたのかもしれないけどね」
「変人って」
「だってそうだろ? 重要な話をしているのにかかわらず、半数は『興味ないからそれより』とか言って、エデンに住まう到達者たちに連れられて各々自由に行動してるじゃない。普通、こんな大事な局面でどっか行ったりしないよ? 僕たちは君たちの世界を作った……神みたいな存在だ。神の昔話を無視するなんて変人としか言いようがない」
「自分を神って」
水の入ったロックグラスを片手に、來栖は皮肉った笑みを浮かべた。それを鏡が呆れた顔をしながら言葉を返す。
変なのかどうかはさておき、ほとんどが話を聞いていないのは事実だった。
「昔話に興味はない。大切なのは今だ」と言い切ってレックスはエデンの到達者にトレーニングルームへと案内してもらい、それにパルナとウルガは同行。
「すまんがその話は既に來栖様より聞いているのでな」と言って、国王シモンと、従者であるミリタリアは一足先に身体を休めるために用意された各個室へと戻っていた。
残った半数も、興味がないからと言って話を聞いておらず、ペスは水槽で泳ぐ魚を「美味そう」と飽きずに見つめており、その隣でフラウも「すごいのぉ」と鑑賞を楽しんでいる。
ピッタも最初は鏡の膝の上で聞いていたが、途中で飽きて紙飛行機を飛ばして遊び始め、レックスと同じく「過去の話になんて興味がない」とメリーも武器のメンテナンスを始め、油機もそれに便乗して機械いじりを始めていた。
「適当でござるなー……忍耐力も時には必要でござるよ」
「小動物、つまりお前は俺たちの話は、忍耐力が必要なくらいつまらん話だったって言いたいのか?」
セイジの睨みに、鏡の頭上に座っている朧丸は何も答えない。
「しかし、随分と洒落た部屋じゃないかセイジ? こんな部屋で約千年もの長い時間を過ごしてきたのかい?」
どこか見下したかのような言い方で、來栖は問いかける。
「当然だ。いつ終わるかもわからない果てない時間を過ごすんだ。精神がおかしくならないよう、環境を整えるのは当然だろう? これ以外にも娯楽施設を作ってあるし、いつでもかつての食事が取れるように生産工場も作ってある。鏡が食っているそのインスタントラーメンもその産物だ。たまに喰いたくなるからな」
しかしセイジは気にせず、毅然とした態度でそう返した。娯楽施設と聞いて、鏡が「え? マジで? ゲーセンもある?」と目を輝かせて反応を示す。
「相変わらず計算した生き方をしているねえ、僕なんかずっと一人で研究室にいたよ」
「それはお前がおかしいだけだろ。俺なんか到達者たちと毎日のように話をしていたし、地下にある最上階を目指す者たちが集う街にこっそり遊びに行ったりしてたぞ? フローネとかにも、ガーディアンの副管理者だから毎日話し相手になってもらってたしな」
「フローネちゃん……こんな、もじゃもじゃなおっさんの話し相手に毎日なっていたなんて……かわいそう」
「うるせーぞ偏屈野郎」
誰よりも來栖には言われたくなかったのか、ライアンがセイジよりも早く反応して言葉を返す。そしてその場にいた誰もがそれに賛同した。
「忘れてんのかはわからんが、お前そんなこと言える立場じゃねーからな? ノア出身の連中にいつボコボコにされてもおかしくないことしてるからな?」
「ライアン殿の言う通りでござる。ご主人の温情で生かされていることを忘れるな? 貴様が某に……ノアの住民や、アースクリアから出てきた勇気ある者たちに行った仕打ちはなかったことにはならぬ」
未だ恨みは晴れていないのか、朧丸は今にも殴り掛かからん勢いで来栖を睨む。
しかし、來栖は「恨んでくれて構わないよ」と涼しげな顔で答える。その様子はまるで、仕方のないことだと既に理解し、諦めているかのようだった。
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