企業も個人もネット炎上リスクにさらされている(撮影:今井康一)

ネット炎上の拡大が続いている。件数が増加しているだけでなく、その規模も膨らんでおり、そのネタはバイトテロ、情報漏洩、ブラック企業にまつわる労務問題、内部告発、異物混入、広告表現から、最近ではジェンダー問題でも炎上が盛んになった。炎上する過程での直接的な攻撃も増えており、実害も膨らんでいる。企業が、個人が、気をつけることは何なのか、ネット炎上対策サービスを展開するエルテスの菅原貴弘社長に話を聞いた。

なくならないバイトテロ

2017年のネット炎上の傾向としては、ジェンダー論に関する問題が増えたこと。母親が子育てする姿を描いたユニ・チャームの紙おむつのテレビCMがワンオペ育児の美化だと炎上。また、フジテレビのバラエティ番組「とんねるずのみなさんのおかげでした」でかつての人気キャラ「保毛尾田保毛男」を復活させたことで、クレームが殺到、局が謝罪する事態に発展。その影響があったのか、番組自体も30年の歴史に幕を閉じた。


菅原貴弘(すがわら・たかひろ)/1979年生まれ。東京大学在学中の2004年に起業、2016年11月、東証マザーズに上場(撮影:今井康一)

「昔だったら大丈夫なことが、いまはダメ。我々のような専門業者ですら『これ炎上するの?』ということもあった。外部環境で流行っていることと、会社サイドの両方を見なくてはいけなくなっており、炎上を100%防ぐのは難しくなっている」(菅原社長)

炎上の起点となるのは、2(5)ちゃんねる、ツイッター、そしてNAVERまとめなどのまとめサイト。エルテスでは、こうしたサイトを中心に、幅広くSNSをAIと人の目でチェック。問題が見つかれば、顧客にアラートをあげ、対応についてのコンサルも行っている。

早くから炎上の事例として多く、足元も高水準なのがバイトテロ。アルバイトの店員などが、職場でふざけた写真をSNSに投稿し、炎上し、雇い主に壊滅的な打撃を与えるものだが、こうしたバイトテロにより閉店に追いこまれる事例も出ている。

東京都多摩市のそば屋で、アルバイト店員が厨房でふざけた写真をツイッター上にアップしたことで、クレームの電話が相次ぎ、閉店してしまった事件など、致命的な打撃を与えることも少なくない。

「冷蔵庫に入るぐらいだと炎上しにくくなっているが、芸能人が来たというようなツイートはいまだに発火しやすい。芸能人自体のパワーが影響するので、継続的に続いているし、特定もされる。とくにツイートしてしまう人には緩さがあり、そうなるとどうしても特定されてしまう。友達をゼロにして告発するくらいの人でないと避けられず、『誕生日おめでとう』と言ったコメントから、ばれてしまうケースも依然として多い」(同)

投稿した本人も特定され、詳細な個人情報がアップされる制裁を受けるのも炎上の特徴。有名人の来客をツイートした女子大生は、問題ツイートの約4時間後には2ちゃんねるにスレッドが立ち、瞬く間にミクシィのアカウントが発見され大学名が特定、グーグル検索で本名もさられた。

さらにフェイスブックのアカウントも発見され、顔写真も出てしまった。すぐに各アカウントも変更・削除を行ったが、後の祭りだった。

投稿者には被害者でもバッシング対象となり、個人情報を特定されるリスクがある。ペヤングの焼きそばへの異物混入を指摘した件では、「食いたかったのに、出荷停止になって、ふざけんじゃねえ」などと出荷停止に怒る攻撃者も現れ、被害者の個人情報を特定する動きもおきた。

「昔はお客さま相談室に行っていたものが、いきなりツイートに出るようになっている。ヘルプラインも、会社に一報入れるところを、まず、ネットというようになっている」(菅原社長)

電凸攻撃には対応に注意が必要


炎上が起きた場合、攻撃はネットでのつぶやきにとどまらない。直接に電話をかけて文句をいう、非難をする「電凸」(でんとつ)も一般的になっており、業務に支障を来すケースもある。個人であれば、さらに被害は重く、社会生活が送れなくなる事態に陥ることもある。

「大企業では耐えられるかもしれないが、気を付けなければいけないのが、音声を記録されている点。変な対応をした場合、それをネット上にアップロードされ、2次被害にあうケースもある」(同)

こうしたことは日常茶飯事という。2次被害も様々なケースがあるようだ。

「社長が現場のせいにして、現場が会社の指示だったと語り、社内マニュアルを流出させて2次炎上するケースもあるし、謝罪文自体に赤ペン先生みたいに修正をかけられるケースもある。だから、ネットの論点をとらえて、その論点に対して謝罪しないと2次炎上してしまう」(同)

杓子定規な対応だと、かえってツッコミどころが多くなってしまうというのだ。ただ、対応がよければ、「神対応」と逆に評価されることもある。2017年で評価が高かったのが立憲民主党のツイート数水増し疑惑への対応だ。

「神対応という評価を生む要因はほとんどスピード。立憲民主党も早く、しかも正しく対応したことが大きい。客観的なツールを使って、フォローにはニセモノが入ることは他の政党も同じであることを説明したことで評価された」(同)

 企業でも参考になりそうな、適切な対応事例としては、ローソンチケットの「キャンセル騒動」がある。

当選したはずのチケットをキャンセルされたと憤ったツイートが一気に拡散され、一時バッシングを受けたローソンチケット側が、証拠としてあがったスクリーンショットが偽造であることをつきとめ、投稿者と1対1で話し合い、相手を攻撃することなく解決にもっていったケース。ネット上でのやり取りになるケースが多いなか、被害者を出さずに解決させている。

ツイッターの内容が炎上を呼ぶケースもあるが、大企業の場合、操作ミスやコミュニケーションエラーによるミスも炎上を呼びがちだ。

例えば、8月9日にふしぎの国のアリスの画像を使い「何でもない日おめでとう」というツイートを出したディズニーが炎上したケース。原爆投下のあった日に何でもない日と出してしまったばっかりに炎上、すぐに謝罪文を出した。

「それぞれの国のよくない日というのはおぼえておかないといけない。ありとあらゆるリスクを一元化してみるべきだ」(同)

深刻な誤爆被害相次ぎ、取り締まりの必要性も高まる


霞が関ビルにある本社オフィス風景(撮影:今井康一)

東名高速道路でワゴン車が大型トラックに追突され夫婦が死亡した事件。直後からネット上で容疑者に関する個人情報を特定する動きが始まり、その中で容疑者の父親であるかのように書かれたデマが拡散し、石橋建設工業という一企業に嫌がらせや中傷などの電話が殺到、業務に支障が出るなど大きな被害を受けた。

「誤爆が何故起きるか。そのメカニズムとして大きいのは、広告収入を狙っているアフィリエーターの存在。まとめサイトで、これが犯人の家です、犯人の親父の会社ですと流せばトラフィックが稼げる。単なる広告収入狙いなので、誤爆がわかって騒ぎになったらヤバいヤバいと閉鎖してしまう。容疑者の家ですといったら、単に名字が一緒だっただけというのは結構ある。それでも儲けているため、罰則規定をつくらないとなくならない。普通にペナルティを科した方がいい」(同)

誤爆による被害の象徴的事例が、芸人のスマイリーキクチさんのケース。足立区で起きた女子高生コンクリート詰め事件の加害者の一人といった誤った情報が2ちゃんねるに書き込まれたことから、キクチさんのブログに大量の中傷が書き込まれる事態に発展。

足立区出身で加害者と同世代というだけで書き込まれたデマに10年以上にわたり苦しめられた問題は、脅迫まがいの中傷を書き込んだ7人が立件される事件となったが、今後もこうした誤爆は続きかねない。

「ツイッターやフェイスブックで流れてくる情報は裏取りするのが結構面倒。検索エンジンで名前を入れて、5ページくらいまで見ていけば本当かどうか、ある程度わかる。ただ、フェイスブックとかでフィードで流れてきたものを本当かどうか確認する人は意外に少ない。ふーん、そうなんだと鵜呑みにしがちだ」(同)

ただ、こうした誤った情報やフェイクニュースを読んで、直接的な中傷コメントをすれば、それは名誉毀損の罪に問われることになる。

「断定して追記するとアウト。『こんな奴は許さん』と書けば誤爆被害を助長してしまう。例えば、脱税の疑いのあるものでも、東スポ的な『脱税か?』はセーフだが、『8億円脱税』と言い切ったらアウト。ただ、これで巧妙になっていくというわけでもない。バッシングをする者で、ちゃんと考えている人はあまりいないのではないか」(同)

今後もネット炎上に絡んだ被害者、逮捕者は減りそうにないようだ。個人でできることは、軽はずみな書き込み、画像のアップには慎重になること。そして、企業は、適切で素早い対応を心がけるしかないようだ。