MVNO業界の“サブブランド規制論”に違和感

» 2018年01月21日 08時30分 公開
[田中聡ITmedia]

 総務省が開催している「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」で、大手キャリアのサブブランドがやり玉に挙がっている。サブブランドは、KDDIグループのUQコミュニケーションズが運営する「UQ mobile」、ソフトバンクが運営する「Y!mobile」のことだ。

 MVNOが提供する通信サービス(いわゆる「格安SIM」)は、お昼時や夕方など混雑する時間帯に速度が出にくい傾向にあるが、UQ mobileとY!mobileは、お昼でも十分な通信速度が出る。MVNOとサブブランドが同じ格安料金なのにもかかわらず、サブブランドの方がはるかに高速な状況が公平な競争といえるのか? というのが一部MVNOの言い分だ。

サブブランド キャリアやサブブランドによる安価なプランがMVNOの競争環境に影響を与えている(総務省公開資料より)

 だが、この主張には違和感を覚える。

 MVNOはキャリアに接続料を支払って帯域を購入することで、ネットワークを増強している。帯域をどの程度購入するかは各MVNOの判断に委ねられており、契約数やトラフィック状況に応じて調整する形になる。サブブランドの通信が速いのは、それだけ多くの帯域を確保しているからに他ならない。

 ややこしいのは、UQ mobileはUQコミュニケーションズがMVNOとして提供しているサービスだが、Y!mobileはMVNOではなく、キャリアのソフトバンクが提供しているサービスであること。つまり通信品質はソフトバンクと変わらないのだから、Y!mobileが高速なのは当然の話なのだ。それでいて、月額1980円(税別、以下同)~という格安料金は確かに破壊力がある。だが、これは言い換えればソフトバンクが格安プランを別途用意した、と考えることもできる。

サブブランド Y!mobileの料金。MVNOと同じ料金水準でキャリア並みの速度を実現するのは、確かに強烈だ

 ドコモも月額1780円~の「シンプルプラン」、auも月額1980円~の「auピタットプラン」を提供しているが、大局的に見れば、Y!mobileの位置付けは、ドコモとauの低料金プランと変わらない。ソフトバンクブランドではドコモやauのような“攻め”の料金プランは出ていないが、安いプランはY!mobileで、という形ですみ分けられている。

 そんなY!mobileが“安くて速い”のは、ソフトバンクが身を削った結果ともいえる。実際、ソフトバンクの国内通信の営業利益は、2016年度上期の4659億円から、2017年度上期は4340億円に減少している。ARPU(1ユーザーあたりの売り上げ)も2016年度のQ2~Q3は4500円台だったが、2016年度のQ4~2017年度のQ2は4300円台に減っている。その要因の1つとして同社は「Y!mobileスマートフォンの構成比率の上昇」を挙げている。

サブブランド ソフトバンクはY!mobileを「先行投資」の1つと位置付けている。Y!mobileの構成比率が高まったことで、ソフトバンクの国内通信全体の営業利益は減少している

 ソフトバンクは、同社からドコモ系やau系の格安SIMに移るなら、自社のY!mobileにとどめてもらいたい、という戦法をとっているわけだ。Y!mobileはキャリアの公平な競争の上に成り立っているブランドだと思う。Y!mobileが非難されるなら、ドコモやauの低料金プランも非難されるべきだろう。

 ではUQ mobileはどうか。Y!mobileと違ってMVNOなのに、ランチタイムの通信は速い。あきれるほど速い。当然、UQがKDDIから十分すぎるほどの帯域を購入しているのがその理由だ。UQコミュニケーションズの野坂章雄社長は、ネットワークの増強について「秘訣(ひけつ)のようなものはなく、方針として(帯域増強を)やっています。通信とはそういうもので、これは信念です」とITmedia Mobileのインタビューで語っていた

 野坂氏の言葉をそのまま受け取るなら、UQはあくまで企業努力でしっかりと帯域を確保している、ということになる。問題視するとしたら、UQだけが不当に安い接続料で購入できるようKDDIから優遇されているケースだろう。

 総務省は「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」でこれを暗に禁じている。具体的には「MVNOが接続に際し、MVNOに対して不当な差別的取扱いその他不当な運営を行っている場合には、総務大臣による業務改善命令の対象となる場合がある」と規定している。また単純に、UQにはKDDIから大量の帯域を購入するだけの体力があるのだと思う。

 UQコミュニケーションズはWiMAX/WiMAX 2+のインフラを所有するキャリアでもあり、KDDIと沖縄セルラーにWiMAX/WiMAX 2+のネットワークを提供している。例えばiPhoneやAndroidを含むauの現行スマートフォンはWiMAX 2+に対応しているが、WiMAX 2+で通信をするには、KDDIはUQから帯域を購入する必要がある。auスマホのユーザー数を考えると、KDDIがUQに支払っているWiMAX 2+の回線料は相当な額に上るはず。ここで得た収益を、UQがMVNOとしてauの帯域購入に充当していたとしても、何ら問題ないことだ。

 サブブランドの通信が速すぎるから是正すべき――という主張は、少し無理があるように思える。厳密には「公平性を保っているか検証すべき」という主張だが、通信品質についてはルールにのっとっているのだから公平性は保たれている、というのが筆者の考えだ。

 確かに、サブブランドと同じ料金体系だと他のMVNOには分が悪い。それでも、「エンタメサービス使い放題」「SNSのカウントフリー」「アップロード使い放題」「20GBや30GBの大容量プラン」「キッズ向けサービス」など、サブブランドが実現できていない部分で差別化を図れれば、他のMVNOにも勝機がある。実際、サブブランドの台頭に関係なく契約数が堅調に伸びているMVNOもある。

 サブブランドが規制されても、誰も幸せにはなれない――そう思うのは筆者だけだろうか。

Copyright© 2018 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

- PR -

この記事が気に入ったら
ITmedia Mobile に「いいね!」しよう