シリーズ 欲望の経済史〜ルールが変わる時〜第3回「勤勉という美徳」[字][再] 2018.01.21
2009年秋のギリシャの財政赤字に端を発したユーロ危機。
ヨーロッパに信用不安が広がったがその国々にはある共通点が。
ポルトガルイタリアスペインなど「PIIGS」と呼ばれいずれもカトリックやギリシャ正教などプロテスタントではない国々。
宗教と経済。
果たしてそこには何らかの関係性があるのだろうか。
人々の長い営みの中で生まれた資本主義。
その枠組みはどのようにして形づくられてきたのか。
時代のルールが変わる時を6回にわたって読み解く異色の経済史。
第3回のテーマは「勤勉という美徳宗教改革の行方」。
プロテスタントとカトリック。
その根底には異なる倫理があるという。
スイス・ジュネーブ大学の神学者を訪ねた。
プロテスタントの人々がスイスで興した産業がある。
時計産業だ。
(メーストル)そのとおり。
職人歴34年街で名のある時計職人は語る。
400年以上の伝統を持つスイスの時計づくり。
16世紀宗教弾圧から逃れたフランスやドイツのプロテスタントの職人たちによって農閑期の副業として広まった。
アルプスの山々に囲まれた閉ざされた空間でその勤勉な働きぶりは遺憾なく発揮され伝統産業として脈々と受け継がれてきた。
プロテスタントの勤勉性に注目した一冊の書物。
著者は…ウェーバーはプロテスタントの職業観こそが「近代資本主義の精神」を支えたと指摘した。
倫理を説く宗教と利潤を追求する資本主義。
一見無縁とも思える両者に関係を見いだした書は社会学の金字塔と呼ばれるようになった。
近代資本主義の精神。
その始まりをウェーバーはある人物に見いだした。
宗教改革の指導者…16世紀に始まったキリスト教の宗教改革のきっかけはローマ・カトリック教会がサンピエトロ大聖堂の修繕費を集めるために発行した贖宥状いわゆる免罪符だった。
罪の赦しが金で買えるとは…。
教会の堕落に抗議するルターに端を発した改革運動はプロテスタントという宗派を生みカルヴァンへと受け継がれた。
厳格な性格で知られるカルヴァンは教会の教えに頼らず聖書を中心に据えた教えを説いた。
それは神の救いは信仰の深さや日々の善行に左右されると信じたカトリックとは異なる教えだった。
(カルヴァン)人間の救済。
つまり「最後の審判」のあと誰が天国に行きまたは地獄に行く事になるかは我々が生まれるよりはるか昔神が永遠の予定として決めてしまっている事。
我々はどんなに努力してもその予定を変える事などできない。
また誰が救われ誰がそうでないかを知る手段もない。
自分は選ばれた人間か?その答えは神のみぞ知る…。
絶え間ない不安に置かれた人々は日々何に救いを求めるのか。
そこで登場するのが「天職」。
自らの仕事を神から与えられた使命であるとし天職での成功こそ神から選ばれた可能性を示す唯一の道と考えたのだ。
(ウェーバー)神からの救いを手に入れる手段として休みなく働く事が教え込まれた。
この職業労働だけが死後の不安を追い払い神の恩寵を与えられたという「確かな救い」をもたらす事ができる。
労働の意欲に欠けているという事は神の恩寵が失われている事を示しているのだ。
財産を持つ人であっても働かずに食べてはならない。
勤勉に働く事によって増えていく富。
これまでカトリックでは有り余った富は教会へ寄付する事がよしとされた。
富を蓄えてよいとするプロテスタントの「蓄財」の教えは新興の商工業者たちに熱烈に歓迎された。
これこそがカルヴァンの認めた「蓄財」の絶好の投資先となった。
勤勉から蓄財そして投資による富の増殖。
プロテスタントの職業倫理から図らずも生まれたサイクル。
ここにウェーバーは近代資本主義の精神の芽生えを見いだした。
すなわち勤勉が富を生む。
それ以前は国家の力を背景に商人が独占貿易で富を築く重商主義の時代。
勤勉は新しい仕事の価値観だった。
更にウェーバーが注目したのはプロテスタントの勤勉性がオランダからイギリスそして新大陸アメリカへと波及していく流れだった。
そこでもう一人のキーマンベンジャミン・フランクリンが登場する。
プロテスタントの家庭に生まれ育ち印刷業を経て政治家になった人物。
当時重商主義政策のイギリスのもと植民地アメリカは重税にあえいでいた。
鬱屈した市民感情が爆発し1776年ついに独立を宣言。
フランクリンはその草案づくりに参加。
「建国の父」と呼ばれアメリカの礎を築いた。
彼がプロテスタントとして終生欠かさず自らに課していたルールがある。
他にも「沈黙」「誠実」「正義」などその数13に上った。
フランクリンはカレンダーに毎週1つの徳目を掲げ行動していたという。
ウェーバーが見いだした資本主義の精神。
それはまさにフランクリンの人生によって体現されていた。
印刷所を営んでいた25歳向学心に燃えるフランクリンは友人と読書クラブをつくる。
書物を読みあさる中で社会に役立てようと思いつき後にアメリカで初の公立図書館をつくった。
これが今日のフィラデルフィア図書館の礎となった。
フランクリンが富を築くきっかけは26歳。
毎日徳目を掲げていたカレンダーを出版化する事を思い立つ。
フランクリンが自ら考え出した格言やことわざが印刷されたカレンダー。
これがベストセラーになった。
議員時代アメリカ独立のきっかけとなる出来事が起こる。
列強との植民地争いに明け暮れるイギリスは膨大な戦費を賄うため「印紙税法」を導入してアメリカへの課税を強化した。
フランクリンはイギリスへ赴き粘り強い交渉の末法律を廃止に追い込む。
不当な政策に反対し権利を取り戻す事ができると自信をつけたアメリカ。
やがてイギリスに反旗を翻し独立戦争が勃発。
翌年アメリカは独立を宣言。
フランクリンはその宣言文の策定にも関わった。
宣言にはこうある。
フランクリンが体現してみせた「勤勉さ」は欲望を満たすための手段ではなかった。
むしろ倫理的な生活のルールと蓄財そのものが自己目的化した生き方。
それこそが時代を画する資本主義の精神だったのだ。
アメリカが資本主義への歩みを始めた年。
奇しくもイギリスで一冊の本が出版された。
著者は経済学の父アダム・スミス。
それぞれの自己利益の追求が「見えざる手」によって社会全体の利益になる。
その教えを記した書は自由競争のバイブルとなってゆく。
貿易の歴史から現代の問題を読み解くロンドンの経済学者が語る。
アダム・スミスのもう一つの顔とは。
当時イギリスは軍事力を背景にヨーロッパ諸国とし烈な競争を繰り広げ植民地との貿易でばく大な富を得ていた。
富の収奪とそれが引き起こす戦争のサイクル。
スミスが説いたのはグローバルな競争によって富を獲得する欲望の在り方からの脱却だった。
すなわち労働によって価値を生み工場やマーケットなど人々の活動の場で富を増大させるべきだと説いたのだ。
それはこれまでおろそかにしていた国内での足場を固める大胆な政策の転換だった。
土地を改良し分業を進め生産性を上げる。
その上で価値ある商品を自由に売買し富を得る事。
スミスの主張は産業革命が本格化するイギリスで支持される。
重商主義から自由主義へ。
ルールは書き換えられてゆく。
そして再び現代。
プロテスタントの人々がかつて体現したあの勤勉性はその後どうなったのか。
時代の移り変わりとともに見直しも指摘されるウェーバーの考察。
だが富を生むルールを時代の精神から読み解こうとしたその視点は古びる事がない。
変化の時代勤勉性の意義も変わりつつあるのか。
新たなテクノロジーが飛躍的な進化を遂げようとしている今人類学の視点から時代を見つめるフランスの経済学者は…。
一方西洋とは異なる論理で勤勉さを美徳としてきた日本。
しかし今…。
チェコの異色の経済学者は…。
やめられない止まらない。
時代の中で人々の欲望がつくり上げたルール。
それが書き換えられる瞬間を見つめる「欲望の経済史」。
2018/01/21(日) 00:00〜00:30
NHKEテレ1大阪
シリーズ 欲望の経済史〜ルールが変わる時〜第3回「勤勉という美徳」[字][再]
欲望が欲望を生む資本主義。そこには時代を動かすルールがあった。そのポイントとは? 識者の言葉から今を考える異色の経済史。第3回、勤勉という美徳、宗教改革の行方。
詳細情報
番組内容
労働こそが「価値の源泉」であるー。宗教の論理と経済の論理が美しく親和性を持った時代、その背景にあったドラマとは?「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」が合致したとされてきた時代、そこで展開した欲望の論理とは?勤勉が美徳となり富が蓄積される。この時経済学の父アダム・スミスの果たした役割とは?カルヴァン派の目指した真の社会とは?時代のベースにあった精神を読み解き、もたらされた価値観を考える。
出演者
【出演】ロンドンスクールオブエコノミックス准教授…ジェイムス・モリソン,パリ経済学院経済学教授…ダニエル・コーエン,チェコ・CSOB銀行チーフストラテジスト…トーマス・セドラチェクほか
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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