兵庫県姫路市を訪れるフランス人観光客が急増している。世界文化遺産・国宝姫路城の知名度に加え、都心ほど混雑していない都市環境がバカンスに最適と現地でも評価されている。フランス人に人気の広島に近い地理的要因もあるとみられ、市はアジア偏重だった観光戦略の練り直しを始めた。(三島大一郎)
「日本の伝統的な城郭建築を見たくて来た。白く輝き、本当に美しい」
フランス人の会社員モウアド・ラムラニさん(50)は大天守を見上げてため息を漏らした。「日本の歴史や文化がメディアで紹介される機会が増えている。姫路城に関心を持っているフランス人は多い」
同国の訪日ガイドブックの多くは、姫路城を城郭建築の代表格として紹介。観光地の格付けをしているミシュラン・グリーンガイド・ジャポンは最高ランクの三つ星とし、構造の解説も掲載している。
市によると、観光客の国別集計はないが、外国人向けパンフレットの配布数などでフランス人からの人気を実感できるという。
姫路城管理事務所によると、入城口で配るフランス語パンフレットは、統計を取り始めた2009年度が7392部。城の大修理期間中(09年10月~15年3月)は減ったが、グランドオープンした15年度は1万3492部に急増した。16年度は2万2064部で、初めて韓国語版を上回った。
JR姫路駅の観光案内所の外国人利用者数は、これまで台湾や韓国、中国などアジア圏が上位を占めたが、16年度はフランスが台湾に次ぐ2位に躍進した。
姫路日仏協会長で立命館大講師の白井智子さんは「フランスにも多くの歴史的建造物があるが、石造りが中心。木造の城郭や寺社仏閣の関心は高い」と話す。
フランス人のバカンスは滞在型が基本といい、「都心に比べて宿泊費が安く、街がごみごみしていないため、まち歩きを楽しめる。その環境が気に入られている」と分析する。
約3年前から「日本の生活に慣れるのにちょうどいい」(仏旅行会社)として、訪日ツアーの最初の滞在先に姫路を選ぶケースが増えているという。
広島の恩恵を受けているとの見方もある。
宮島のある広島県廿日市市は、フランスのモン・サン・ミッシェルと観光友好都市で、同国内での厳島神社の知名度は高い。さらに広島県は6年前、訪日外国人客の促進拠点をフランスに開設。情報発信や旅行会社への営業活動に力を入れ、パリで物産展も開いている。
姫路市は「広島へ向かう途中に姫路に立ち寄る人が多い」とみて、2年前からフランスでの調査を開始。広島県国際観光テーマ地区推進協議会と協力し、共同でプロモーション活動をスタートさせた。
市の担当者は「姫路だけでやれることには限界がある。広島など他の自治体と協力し、発信力を強化したい」と連携に意欲を示す。
■友好の絆 随所に
姫路市とフランスとの関係は、観光以外にも深いつながりがある。
昨年、日本遺産に認定された姫路・飾磨港と生野鉱山(兵庫県朝来市)を結ぶ明治期の産業道路「銀の馬車道」。これを設計・建設したのは、フランス人技師レオン・シスレーだった。生野から日本のノイバラの種を母国に送ったとされ、今も交流が続く。
姫路城は1989年、仏・ロワーズ県のシャンティイ城と姉妹城になった。同城はルネサンス期の壮麗な建築様式を代表する建築で、海外の城郭と提携を結ぶ初めてのケースとなった。
スポーツでも結び付きが深い。同国で柔道の普及に努めた川石酒造之助(みきのすけ)(1899~1969年)は姫路市出身だった。「フランス柔道の父」と呼ばれ、今も慕われているという。
こうした縁もあり昨年、同市は東京五輪でフランス柔道チームの事前合宿地に決まった。兵庫県と市が練習環境を整え、代表選手と市民との交流事業も計画する。
市観光交流局は「フランスにPRできる最大のチャンス。これまで以上に友好を深め、誘客につなげたい」と期待している。