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第129.5話 人魚姫の飼い方
30日までに投稿すると言ったが、21日に投稿しないとは言っていない。
人魚姫のお話の続きです。
「と言う訳で、お前の名前はレーラだ。これからよろしくな」
《わ、わかった……》
「ローレライからもじったのかな?」
諸々の説明を終えたので人魚姫に名前を付けることにした。
……まだちょっと怯えているな。
ちなみにミオの予想は正解です。
人魚姫は思っていたよりは物覚えがよく、念話も使いこなしているし、俺達の事情を説明するのが1回で済んだ。
余談だが、肉体の年齢は人間よりも遥かに早熟だが、精神年齢は人間と同じ程度に育つとアルタが教えてくれた。つまり、身体は大人、心は子供ということになる。
もしかしたら、精神年齢の低さ故に、俺達の行いが普通ではないと理解できていないだけかもしれない。
《わ、わたし、これからどうなるの?》
「俺にテイムされた以上、俺のために働いてもらうことになるな。ただ、やりたい事があって、多少なりとも俺のプラスになるのなら、それを優先させるのは構わない」
余程変な事でなければ、駄目と言うつもりはない。
人間の奴隷でも、魔物の従魔でもそれは変わらない。
《だいじょぶだよー。ごしゅじんさまはテイムした子にはやさしいからー》
ドーラが俺のフォローに回ってくれました。
《そうなの? あなたはドーラ、だったよね?》
《ドーラおねーちゃんってよんでいいよー》
自然発生した魔物(実質0歳だが精神年齢は高め)以外では初めての年下(実年齢のみ)の従魔と言うこともあり、ドーラが全力でお姉さんぶっている。
『竜人種の秘境』でも、ドーラより年下の子はいなかったからね。
《うん、わかった。……ドーラおねえちゃんはジンにテイムされてしあわせ?》
ちなみにレーラは俺の事をジンと呼ぶ。
この呼び方をする従魔はミドリに続いて2匹目だ。逆に言えば、従魔以外に俺を呼び捨てにする配下はいない。
《もちろん!おいしいモノ食べられるしー。いろんなところに行けるしー。やさしくなでてくれるしー。ぎゅっとだきしめてくれるしー》
《いいなー……》
ドーラの褒め殺しを聞いて、レーラが羨ましそうにしている。
レーラの身の上話も聞いたのだが、どうやら物心ついた時にはこの湖にいたらしい。
自然発生する魔物ではないので、何かしらの事情があった事だけは間違いがない。何となく、ドーラが俺にテイムされることになった経緯を思い出す。
レーラ曰く、この湖には大した思い入れはないそうだ。
レーラは意外と冒険心が強く、湖の外に出たいと以前から考えていたのだが、それは叶わなかった。
水中では絶大な効果を発揮する<人魚の姫君>は、陸に上がってしまえば効果を失う。そもそも、足が無いので移動すらおぼつかない。
<魅了の歌声>があれば身を守ることは出来るが、ずっと歌い続ける訳にもいかないし、それ程難しい命令はできないので、上手くいかなかったようだ。
料理と言う概念も無いので、美味くも無い生肉や生魚を食べる日々。
腕力が無いから不味い部分を取り分けると言うことも出来なかった。
幸いと言うか何と言うか、人間に出会ったのは俺達が初めてだそうだ。
見るからに柔らかそうなので、食べ易そう、食べたいと思ったとのこと。……もし、今までに人間を食っていたら、対応が変わっていた可能性がある。
ドーラのフォローの中で、『美味しいものが食べられる』と『色々な場所に行ける』と言うのがレーラの琴線に触れたようだ。
どっちも俺の人格関係ないね。
物は試しと言うことで、レーラにメイド達の作った料理を与えてみる。
メイド達の自信の得意料理の1つ、クリケットである。
A:マスター。それを言うのならクロケットかと思われます。また、アレンジが加わっており、ほぼ日本料理なので海外でもコロッケと呼ぶそうです。ミオが言っていました。
格好つけて外国語呼びしたら失敗したよ?大失敗だよ?
《これ……何?》
「人間の食べ物だ。食べてみるといい」
大失敗は誰にも知られなかったので、闇に葬ることにした。
A:…………。
コロッケを優しそうな顔をしてレーラに手渡す。
レーラは恐る恐るコロッケの匂いを嗅ぎ、次の瞬間にはパクっと食べた。
《わたし、ジンのためにがんばる!だから、わたしをこのみずうみからつれていって!》
フィーッシュ!
ロッドもルアーも無いけれど、随分と大きな魚が釣れたものである。
「決まり手は餌付けって……」
「流石仁様です」
ミオが呆れた様な声を出しているが、マリアは称賛してくれた。
マリアは称賛しかしてくれないので、カウントはしません。
《ごしゅじんさまー。ドーラにもちょーだい?》
「ああ、いいぞ」
そう言って俺はドーラにもコロッケを手渡した。
ついでにマリア、ミオにも手渡し、俺も1つ食べる。
魔物の蔓延る森の中、泉の横でコロッケを頬張る俺達である。
当然、そんな風にのんびりしていたら、寄って来た魔物に襲われるのは道理である。
そこに現れたのはご存知ファングウルフである。
コロッケの良い匂いに釣られてきたのだろう。釣りをしている訳でもないのに、さっきから入れ食い状態だな……。
10匹以上のファングウルフが俺達を囲むようにじりじりと距離を詰めてきている。
よく見れば、リーダーらしき上位種もいる。ビッグブラックウルフに統率された群れのようだ。
……今更、低レベルなウルフ系の魔物に何の脅威を感じればよいのだろうか?
こちとら、異世界で神狼ぶっ殺しているんだよ?
「マリア、ここは俺がやる」
「よろしいのですか?」
剣に手をかけていたマリアを止め、残ったコロッケを口に放り込みながら立ち上がる。
「ああ、新入りにカッコ良い所を見せたいからな」
レーラには騙し討ちみたいなことをしたので、素の実力を見せるのにはいい機会だろう。
《なにをするの?》
「雑魚相手に容赦のない無双をするのよ。さすがご主人様ね!」
「人聞き……」
ミオが身も蓋もないことを言うので、テンションが下がる。
テンションが下がっても、やることはやらないといけないんだけどな……。
「じゃー、ちょっと行ってくる……」
<縮地法>で最も近くにいた狼に接近して蹴り殺す。
遅ればせながら気付いたリーダーが吠え、狼達が一斉に飛びかかって来たので、1匹1匹丁寧に殴り殺す。背後から迫って来た狼には振り向き様の回し蹴りをブチ当てた。
木の上から飛びかかって来た狼はそのまま蹴り上げ、10m程打ち上げる。
リーダーが撤退を指示したようなので、遠くにいる狼から順に殺す。
最後に残ったリーダーが破れかぶれで飛びかかって来たので、ジャンプして避けつつ上から殴る。リーダーの頭が潰れ、ちょっとしたクレーターが出来る。
「終わったよー」
《ひうっ!》
レーラが悲鳴を上げて俺から距離を取る。
コロッケをあげたことで打ち解けてきたと思ったのに、また距離が遠くなった気がする。
「どうしたんだ?」
《ジン、つよすぎる……。ジン、こわい……》
どうやら、良い所を見せるどころか、普通に怯えられてしまったようだ。
《わたし、ジンにはさからわないから、ころさないで……》
プルプル震えながらドーラの後ろに隠れる。
サイズの差があるので、全く隠れられていないけどな。
「ご主人様の虐殺シーンは3歳児には刺激が強すぎたみたいね。重症っぽいから、後はメイドさんに任せた方が良いんじゃない?」
「そうだな。とりあえず、迷宮の水場に移すか。あそこなら広いから困らないだろう」
迷宮の52層には巨大な湖がある。
前迷宮支配者である東が設定した湖で、結構色々な種類の魚も生息している。そして、魔物は生息していない。
どうやら、東の趣味で作った湖のようで、日本で見た事のあるような魚がたくさん棲んでいた。時々、食卓に並ぶ。
レーラの新しい住処はその湖が良いだろう。
危険も少ないし、色々と教えるにも都合がいい。
「『ポータル』を教えるのも手間だし、『召喚』で呼び出すとするか」
言うが早いか、俺は『ポータル』を使って迷宮の52層へと転移し、『召喚』で他のメンバーを呼ぶ。
総メイド長のルセアにも連絡をして、数名のメイドを派遣してもらった。
《すごーい。ひろーい》
《えっへん!》
3歳児故かレーラの語彙が貧相だ。
そして、何故かドーラが自信満々だ。
「レーラにはここで生活をしてもらう。彼女達の指示に従うんだ」
《う、うん……》
俺が教育係メイドを指し示すと、レーラは恐る恐る頷いた。
やっぱり、まだ俺の事が怖いようだ。
「レーラは水の外で動くのは得意じゃないから、不便をかけると思うが、よろしく頼む」
「いえ、お気になさらないで下さい」
「すまない。任せる」
陸でまともに動けないレーラの教育は大変だと思うので、メイド達を激励する。
「そう言えば、レーラちゃんは<変化>のスキルを持っていたわよね?それがあれば人間の姿になることも出来るんじゃないの?」
「あ……」
あった。そう言えばあったよ、<変化>!
他のスキルが珍しかったから、すっかりスルーしてたよ。
「ミオ、グッジョブだ。レーラ、<変化>を使って人間の姿になれないか?」
《へんげってなに?》
「……………………」
そこからスタートでした。
スキルについて簡単にレクチャーし、<変化>を持つ大海蛇に実践してもらった。
「こうなりたいなーって姿を思い浮かべて、<変化>のスキルを強く意識しながら、身体の奥からエネルギーが身体中を巡るように想像するっす。そうすれば<変化>が出来るはずっす」
酷く抽象的だが、スキルの発動なんて大体がそんなものだ。
ちなみにメープルを講師に選んだのは、人魚形態と人間形態の2つが<変化>対象だからだ。メープルの人魚形態も初めて見たよ。
同じ人魚を見るのは初めてだったからか、メープルに対して仲間意識を持ったようだ。
《やってみる》
レーラはうーん、と唸りながら力を込めている。
しばらくすると、レーラの下半身(魚部分)が光を帯び始めた。
《できたー!》
光が収まると、そこには見事な2本の足があった。
「下半身裸!貝殻のパンツ、貝殻のパンツ……」
「普通のパンツじゃダメなのか?」
ミオが錯乱して変な事を言い出したので、冷静にツッコミを入れる。
「それもそうね……。ブラに合わせて貝殻のパンツって訳にも行かないわよね」
貝殻のブラと言うのは、人魚だからこそ許されているのだ。
普通の人間が貝殻のブラと貝殻のパンツを履いていたら、ただの変態である。
しかし、需要はあると思う。
なお、俺達の話が終わる頃には、メイド達がレーラにパンツとスカートを履かせていた。
《た、たてない……》
「そこはもう慣れるしかないっす。頑張るっすよ!」
《わ、わかった!》
<変化>による急激な変化にすぐさま対応できるわけもなく、レーラはまともに立ち上がることも出来なかった。
メープルも似たような経験があるのだろうが、『慣れろ!』はアドバイスとは言えない。
「では、彼女には言葉、人間の常識、私達の常識、戦い方などを教えていきますね。彼女のスキルがあれば、魚を捕まえるのも楽になるので、仁様のお役には立つでしょう」
「魚料理が作りやすくなるのは良い事よね」
メイドの話を聞いて、ミオがやる気を漲らせている。
「ああ、そうだな。ただ、俺あまり魚って好きじゃないんだよ」
「若いから、肉が好きなのよね?」
酷い偏見もあったものである。
後、肉体的にはミオの方が若い。
「そうじゃなくて、魚って骨があるだろ?それが嫌なんだよ」
「子供か!?」
一応、未成年だよ。
「飯を食う時には、食べる以外の行為に意識を向けたくないんだ。魚の骨を取っている時には腹は膨れないし、美味しいとも感じないだろ?どうせ食べるなら、先に全ての骨を取ってから食べたい。ついでに言うと、シシャモとかシラスとか、丸ごと食える魚は好きだ」
今のステータスならば、骨ごと魚を食うことも可能だが、どうしても違和感が残る。
実は同じ理屈でスイカもあまり好きじゃない。味は好きなのだが、タネに意識が行って食べることに集中できないのが凄く残念なのだ。異物感が嫌いなのかもしれない。
「言いたい事は分かったけど、なんともアレな主張ね……」
「ただ、こんな事を主張すると、次から骨が全て取り除かれた状態の魚が出てきそう……」
「あー……。出て来るわね、必ず出て来るわね」
メイド達の過保護は留まるところを知らない。
ちなみにそのメイドさん達は俺の横で、猛烈な勢いでメモを取っています。
その日から、俺の食事には食う側に手間を要求するような料理はほとんどでなくなった。
大丈夫、こうなることは分かっていたから。
なお、レーラは人間形態が気に入ったようで、歩けるようになって以降、寝るとき以外の多くの時間を人間形態で過ごすようになった。
ただ、泳ぐこと自体は好きなようで、1日1回は52層で泳いでいる。
そして、当たり前のように屋敷で食事をしていくようになった。
人間の料理が気に入ったようだ。当然だ。
そして、物覚えが良いため、ぐんぐんと言葉や常識を覚えていったし、水中での戦闘もメープルに教わって形になって来たそうだ。
ただ、残念ながら陸上での戦闘に関してだけは全くセンスが見られなかったので、無視することになった。水中特化型に陸で戦わせるべきじゃないね。
まあ、この辺の話はエルガント神国に行っている間に、念話で聞いたことなんだけどさ。
どうしよう。もう1月も下旬なのに、今年のエイプリルフールのネタが思いつかない。
外伝は良いけど、IFストーリーやメタいネタは避けようと考えています。
あくまでも自然な嘘をつきたいです(自分でハードルを上げる)。
+注意+
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