The goal of all life is death 作:ホニョペニョなんとか
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Prologue もうすぐ、ユグドラシルがサービスを終える。
頭に浮かぶのは、仲間達との思い出の日々。
ワールドエネミーや敵ギルドを力を合わせて倒し、ネット掲示板に張り付いて情報を集め、方々を回ってワールドアイテムを探し、徹夜でギルドの内装データを組み上げた。
時にはケンカする時もあった。いや、しない日の方が少なかっただろう。だがそれも楽しかった。そう、楽しかったのだ。灰色だった人生で唯一、輝いていた時間だった。
だからこそ、モモンガは思う。
「ふざけるな!」
モモンガの怒りの叫びは、一人きりの円卓に響いた。
とある事件をきっかけに、仲間達は一人、また一人とアインズ・ウール・ゴウンを辞めて行った。
仕事や結婚など、仕方のない理由もある。しかし大半が、ユグドラシルというゲームに飽きたから、というものだった。
勿論、それを表立って言う人間はいない。何かと“辞めても仕方がないと思える理由”を持って辞めていく。しかしとある筋から、その中の数人は他のネットゲームをプレイしている事を知った。
モモンガにとって、ユグドラシルは全てだ。
だからと言って、他の人間がそうであるとは限らない。むしろ、数あるネットゲームの一つ、と認識している者の方が多いだろう。飽きたら、もしくは新しいイベントが出なくなってきたら切る。その程度の認識なのだ。
それは間違った考え方じゃない。それどころか、ネットゲームを嗜む人間の多くがそういった考えを持っているだろう。
だからモモンガも、見て見ぬフリをしてきた。
しかし今日、ユグドラシル最終日。
モモンガの呼び掛けに誰も応じなかった。「ごめん、今日用事があって行けない」帰ってくるのは、そんな言い訳じみたメールばかり。中には返信さえ送って来ないモノもいる。
メールの返信を送るのなんて、ちょっとの手間だろう。
彼らが来るかどうか分からない。万が一来た時、誘ったモモンガが居なかったら失礼だ。だからモモンガは一人、ここに残っている。
メールを返す。そのちょっとの手間を惜しんだ奴らのせいで。
「クソが! クソが、クソが、クソがァ!!」
モモンガは激昂に身を任せ、ギルド武器であるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手に取る。
いっそのこと、これを叩き折るか?
そんな考えが頭の中に浮かぶ。そうすればナザリック地下大墳墓は崩壊する。かつての仲間達が作り上げたモノを壊すのは、少しだけ胸が晴れそうだ。
しかしこれは神器級 すら越える特殊アイテム。壊すにもそれなりの手間がかかる。それはメンドくさい。
ふむ。それなら──
「アルベド。近くに寄れ」
「畏まりました」
定型文を返し、NPCの一体であるアルベドが寄ってくる。
ギルド武器の力を行為し、テキストを開く。
思った通りだ。アルベドの創造主、タブラ・スマラグティナは凝り性な男だった。テキスト文字数ギリギリまで書き込まれている。膨大な設定を考え、泣く泣く削り、頑張ってこの文字数に留めたに違いない。
全選択。削除。
全て消してやった。彼の努力を、一瞬で消してやった。
「代わりに、俺好みのテキストを書き込んでやるか」
モモンガもそれなりにNPCや内装を作ってきた。素早くアルベドの設定を組み直す。
「ははは。何やってるんだろうな、俺は……」
今頃、かつての仲間達は俺が送ったメールを見ながら「行くわけないだろw」とでも言っているんだろうな。
みじめだ。
ああ、認めようとも。俺はみじめだ。たかがネットゲームに縋り付いて、最後の最後だって言うのに、それを楽しみもせず、NPCの設定を書き変えて暗い愉悦に浸っている。これを惨めと言わず、何を惨めと言うのか。
だけど、しょうがないじゃないか。
「俺にはもう、ユグドラシルしかないんだから」
一ヶ月前、会社をクビになった。
小卒の鈴木悟では、再就職先は見つからなかった。これからもそうだろう。
ユグドラシルも終わる。鈴木悟という人生も、もう終わらせても良いかもしれない。
【00:00:00】
──そして、ユグドラシルがサービスを終えた。
【00:00:01】
──ああ、お前 まで、俺を捨てるのか。
死の支配者 。
それは、生きとし生きる者全てを憎む、最悪のアンデッドである。
頭に浮かぶのは、仲間達との思い出の日々。
ワールドエネミーや敵ギルドを力を合わせて倒し、ネット掲示板に張り付いて情報を集め、方々を回ってワールドアイテムを探し、徹夜でギルドの内装データを組み上げた。
時にはケンカする時もあった。いや、しない日の方が少なかっただろう。だがそれも楽しかった。そう、楽しかったのだ。灰色だった人生で唯一、輝いていた時間だった。
だからこそ、モモンガは思う。
「ふざけるな!」
モモンガの怒りの叫びは、一人きりの円卓に響いた。
とある事件をきっかけに、仲間達は一人、また一人とアインズ・ウール・ゴウンを辞めて行った。
仕事や結婚など、仕方のない理由もある。しかし大半が、ユグドラシルというゲームに飽きたから、というものだった。
勿論、それを表立って言う人間はいない。何かと“辞めても仕方がないと思える理由”を持って辞めていく。しかしとある筋から、その中の数人は他のネットゲームをプレイしている事を知った。
モモンガにとって、ユグドラシルは全てだ。
だからと言って、他の人間がそうであるとは限らない。むしろ、数あるネットゲームの一つ、と認識している者の方が多いだろう。飽きたら、もしくは新しいイベントが出なくなってきたら切る。その程度の認識なのだ。
それは間違った考え方じゃない。それどころか、ネットゲームを嗜む人間の多くがそういった考えを持っているだろう。
だからモモンガも、見て見ぬフリをしてきた。
しかし今日、ユグドラシル最終日。
モモンガの呼び掛けに誰も応じなかった。「ごめん、今日用事があって行けない」帰ってくるのは、そんな言い訳じみたメールばかり。中には返信さえ送って来ないモノもいる。
メールの返信を送るのなんて、ちょっとの手間だろう。
彼らが来るかどうか分からない。万が一来た時、誘ったモモンガが居なかったら失礼だ。だからモモンガは一人、ここに残っている。
メールを返す。そのちょっとの手間を惜しんだ奴らのせいで。
「クソが! クソが、クソが、クソがァ!!」
モモンガは激昂に身を任せ、ギルド武器であるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手に取る。
いっそのこと、これを叩き折るか?
そんな考えが頭の中に浮かぶ。そうすればナザリック地下大墳墓は崩壊する。かつての仲間達が作り上げたモノを壊すのは、少しだけ胸が晴れそうだ。
しかしこれは
ふむ。それなら──
「アルベド。近くに寄れ」
「畏まりました」
定型文を返し、NPCの一体であるアルベドが寄ってくる。
ギルド武器の力を行為し、テキストを開く。
思った通りだ。アルベドの創造主、タブラ・スマラグティナは凝り性な男だった。テキスト文字数ギリギリまで書き込まれている。膨大な設定を考え、泣く泣く削り、頑張ってこの文字数に留めたに違いない。
全選択。削除。
全て消してやった。彼の努力を、一瞬で消してやった。
「代わりに、俺好みのテキストを書き込んでやるか」
モモンガもそれなりにNPCや内装を作ってきた。素早くアルベドの設定を組み直す。
「ははは。何やってるんだろうな、俺は……」
今頃、かつての仲間達は俺が送ったメールを見ながら「行くわけないだろw」とでも言っているんだろうな。
みじめだ。
ああ、認めようとも。俺はみじめだ。たかがネットゲームに縋り付いて、最後の最後だって言うのに、それを楽しみもせず、NPCの設定を書き変えて暗い愉悦に浸っている。これを惨めと言わず、何を惨めと言うのか。
だけど、しょうがないじゃないか。
「俺にはもう、ユグドラシルしかないんだから」
一ヶ月前、会社をクビになった。
小卒の鈴木悟では、再就職先は見つからなかった。これからもそうだろう。
ユグドラシルも終わる。鈴木悟という人生も、もう終わらせても良いかもしれない。
【00:00:00】
──そして、ユグドラシルがサービスを終えた。
【00:00:01】
──ああ、
それは、生きとし生きる者全てを憎む、最悪のアンデッドである。