絶望モモンガ様(勇者ガゼフ編完結/本編完結)   作:思いつきと実験
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今回は捏造描写ありです。
原作主人公サイドが強すぎるのが悪い(戦闘にすらならないので描写が少ないという意味で)



勇者ガゼフの大冒険③


「それがしの一撃を防いだ人間は久しぶりでござるよ。
その技量に免じて、今立ち去るのなら追わぬでござる」

それはまるで自分が格上として、見下ろすかのような物言いであった。
200年の時を生きる魔獣である森の賢王からしてみれば、人間など脆弱な生き物でしかないのかもしれない。

過去の経験から森の賢王は人間の強さを舐めきっていた。

「その大口、いつまで聞けるか逆に試してやるよ」
ブレインは獰猛に笑う。
先ほどの軽い交錯によって、魔獣の膂力を凡そではあるが察している。

決して勝てぬ相手ではないが、相手は近距離から中距離まで対応できる魔獣である以上、尾による遠距離攻撃に徹される前に短期決戦で勝負を終わらせる。

荒ぶるブレインとは反対にガゼフは静かに気を高めながら、同様の結論に達していた。

種族としての力は上でもブレインと二人でならば負けることはないと自信をみなぎらせる。

彼らには決してわからぬ目安だが、レベル帯はほぼ拮抗している。
森の賢王にとっては久しく見ぬ敵になり得る存在だった。

「戦う前に尋ねておこう。
この森から出て行く気はないか?
今、この森を出て行くのならば我らは決して追わぬと約束をしよう」

それはガゼフなりの優しさなのだろう。
相手が高い知性を有するがゆえの問いかけは、森の賢王の逆鱗に触れた。

「その言葉はそれがしに勝ってから言うでござる!!」
再び高速の尾の一撃。

常人ならば対処できない一撃だが、彼らは並ではない。
好戦的な言葉とは裏腹に、領域を展開して静かに待ち構えていたブレインは今度は余裕を持って尾の一撃を迎撃する。

武技による迎撃でも、尾を切り落とせず相殺するだけで終わってしまったことに舌打ちをするブレイン。

「おおおお!!」
相殺されたことによって生じた隙を見逃すガゼフではなく、武技・四光連斬を発動して斬りかかる。

「くぬぅ!」
ガゼフの高速の連斬に対し、辛うじて3撃を両手の爪で受けるが、一撃のみ受けきれずに肩口に食らっていた。

「痛いでござる!!」
負けじとばかりにガゼフを振り払い、二人は一旦距離をとる。
痛いと言う森の賢王であるが、見た目に変わった様子はない。
鋼のような体毛は斬撃をただの打撃へと変えていたのだ。

「ガゼフ、当てた感触はどうだ?」
「硬いな。
こいつでは厳しいかもしれん」

もしも今装備していたのが王国の秘宝であったならばもう決着はついていただろう。
無い物ねだりをするとは弱くなったとガゼフは己の弱気に自嘲する。

そして、森の賢王もまた目の前の二人が今まで出会ってきた雑魚とは違うことをようやく認識した。
こいつらの刃は己に届き得る。
久しく味わっていなかった痛みに油断を捨てた。

「お主らを侮っていたでござる。
ここからは本気でござる!」
圧倒的な巨体と膂力に騙されがちだが、森の賢王は決してパワーだけではない。

《チャームスピーシーズ/全種族魅了》

森の賢王の体毛に刻まれた魔法が発動する。

そう、森の賢王が伝説の魔獣と言われる所以はその魔法にある。
魅了の魔法を防ぐには圧倒的な実力差があるか、精神効果無効化のスキル、あるいはアイテムのサポートが必要である。

「ぐぬうぅ!」
「がぁ!」
二人に襲いかかる精神効果は恐ろしいものであった。

その手の魔法がどれほど恐ろしいかを分かっているガゼフとブレインは高レベルではないが、精神効果軽減のアイテムを装備していた。

それでもなお、身体に重圧を与えるほどに敵対心を折ろうとする精神作用。
攻撃をしようと思えば思うほど腕の力が抜けるほどであるが、二人の並外れた精神力は無効化まではいかずとも効果を大幅に薄めていた。

もしも、精神効果軽減のアイテムを装備していなかったらと思うと背筋が凍るほどであった。

「もう一つ食らうでござる!」

《ブラインドネス/盲目化》

森の賢王が誇るもう一つの魔法。
それこそが盲目化。
視覚の封印だった。

それから逃れることが出来たのは精神の消費を恐れず、武技・可能性知覚を咄嗟に発動したからであった。
武技によって第六感を強化したガゼフは盲目化の魔法を避け、的を絞らせぬように走り出す。
そして、盲目化を避けられなかったであろうブレインに攻撃が向かないように武技で猛攻をしかける。

もはや余裕はない。
先ほどのように四光連斬などの大技は容易く撃たせてくれないとわかると、身体強化の武技を中心にガゼフは攻め方を変える。

盲目化を避けることが出来なかったブレインは低下された視界のまま叫ぶ。

「くそっ!
ガゼフ!
俺のことは気にするな!
すぐに治る!
俺は領域で攻撃だけは察知できる!
遠慮なく戦え!」

低下した視界の中、できることは領域を広げることだけだけである。
領域さえ広げておけば視覚がなくても攻撃を防ぐことだけはできる。
せめて足手まといにならないようにガゼフへと告げる。

予想以上に強力な盲目化の魔法は防ぎきれなかったが、装備している瞳の首飾りがあるため、徐々に光を取り戻せるという感覚はあった。

だが、これでは足手まといにはならずとも完全に役立つである。
なんのために、俺はガゼフの旅についていくと決めた!
ブレインは己を叱咤する。

ガキンガキンと、剣と爪がぶつかり合う音が響く。
状況は互角だが、このままではガゼフは負ける。

そこまで思考し、ブレインは気付く。
俺は今、どうして視界が低下し、ガゼフたちの姿もわからないというにも関わらず状況を理解できた?

命がかかった戦いの中で視界に頼れなくなったことでブレインは己が気づかぬうちに超感覚を発揮していることを自覚した。

武技・領域把握

瞬間、ブレインの感覚は正常な視覚を上回る。
日々領域を使うことによってブレインは超感覚を得るきっかけをとうに得ていたのだ。

「はは……、これなら!」
覚醒したブレインはガゼフの援護へと走り出す。
魅了によって鈍くなったことが気にならないほどの超感覚を手に入れたブレインはまた一つ強くなったことを噛み締めていた。

武技・神閃!

超感覚の中で神速の剣が走り、森の賢王の鼻先を剣先が掠める。
どれほどに硬い毛を持っていようとも、柔らかい場所は必ずある。

今までのブレインならともかく、今の超感覚を得たブレインには動く同格以上の魔獣相手でも容易く決めることができた。

「ちっ!浅いか!
ガゼフ!今だ!」
もしもこれが魅了状態による腕力、速度低下の状態でなければ、切り裂いたのは鼻先だけでは済んではいなかったであろう。

だが、今はこれで十分。
あとは、お前に任せたとブレインは声を上げた。

「ああ!」
武技・戦気梱封を即座に発動し、鼻先を抑えて悶える森の賢王に向かって大きく踏み込む。

「六光連斬!!」
六つの閃光にも似た高速の斬撃がガラ空きになった森の賢王の腹へと叩き込まれる。

「ぐぎゃあああ……でござ……る」
斬撃によって吹き飛ばされてひっくり返る森の賢王。
それでもなお、生きているのはさすが伝説の魔獣である。
むしろ、言葉からしてわりと余裕さえ見られるのは気のせいだろうか。

魅了の効果によって武技の威力が削がれたという理由もあるが、それでもなお仕留められないのは魔獣の強さゆえであり、その恐ろしさを二人は実感する。

ここにきてようやくブレインの視力は戻りはじめているが、先ほどの使い慣れていない超感覚のせいで精神力が低下し、すでに余裕はない。

さらにいえば、ガゼフとブレインはかすり傷だけのようにも見えるが、それは余裕があったからではない。
彼らは森の賢王と違い、一度攻撃を受けてしまえばそれが致命傷となり得る。

ゆえに、無傷だからこそ余裕なのではなく、一撃をもらわないために綱渡りに近い精神をすり減らしながら戦闘をしていたのだ。

「まだ続けるか?」
そんな疲労を欠片も見せず、ひっくり返り胸元からわずかに血を流す森の賢王に問う。

「まだまだそれがしは戦えると言いたいところでござるが、もう痛いのは勘弁でござる。
まいったでござるよ」
森の賢王はどこか清々しい表情で敗北を受け入れるのであった。

プライドよりも、安全を取るあたりは森の賢王と呼ばれる知恵ある者らしい判断なのかもしれなかった。







誰得ブレイン覚醒回。
領域把握はオリジナルです。
あと、装備品の効果解釈もとても適当です。
無効化の許容量を超えたものは軽減となるみたいなイメージにしてます。
10の効果に対して、アイテム無効化が6なら、引き算で4の効果を受けるみたいな感じに考えてくれると助かります。

余裕そうに見えて、二人ともギリギリです。
短期決戦で勝負つけられなかったらこのあと負けてました。
そして、フル装備ガゼフではないので、一撃食らえば致命傷になりかねないという緊迫感の中戦ってました。
レベル上の魔獣の爪と尾の攻撃はこの世界の住人からしてみれば完全に伝説の武具クラスの攻撃です。

ナザリック陣営を見ているせいで麻痺してる読者様は、どうかガゼフとブレインが弱いのではないということを忘れないでください……
。・゜・(ノД`)・゜・。

次回、ハムスター仲間になる。デュエルスタンバイ







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