映画のウェブログ 「け」

22歳無職、自称映画ライター。本当に無職。

映画『勝手にふるえてろ』を松岡茉優で考える。「江藤良香」に関する滅茶苦茶に恐ろしい仮説(考察、分析、批評あるいは解説)

 

勝手にふるえてろ』、本当に凄くよかった。刺さった。死ぬかと思った。

 

 

 

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(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会

綿矢りさ自体が僕ら(10年代のひねくれた人種)のアイコン的な存在だと思うんですけど、この映画も映画単体で僕らの新しいバイブルになりました。

 

冒頭に松岡茉優の早口から「釣果」という単語がこぼれましたが、この時点で僕はこの映画の素晴らしさを確信しました。原作にあろうがなかろうが、日常会話の口語表現においてこの言葉のチョイス。他を見下し、それでいて己をも愛すことのできない綿矢りさ独特のキャラクターの世界観が立体的になった瞬間でした。

 

当然これくらいの語彙はある、これくらいの文化度、これくらいの偏差値。という「足切り」が堂々横行していたんですよ。(この動作の目的語は松岡茉優演じるヨシカの周辺人物か、あるいは映画の観客か。あるいは両方かもしれない)それも気づかない人は絶対に気づかないという意地悪さ、単語レベルで世界を構成した映画です。僕はあの瞬間から身動きが取れませんでした。1秒も見逃してはいけないと。

 

写経した米粒に象を乗せて、その象に地球を支えさせるようなものですね。繊細さに支えられる盤石な世界。繰り返しになりますが本当に良かったです。

 

 

少し遅いですが今回はそんな『勝手にふるえてろ』について。タイトルからお察しの通り所謂ネタバレがあります、どうかお気を付けて。

 

 

 

松岡茉優の演技力についてはその他多数大勢老若男女の皆様方々が仰るように非常に素晴らしいものだと思います。

 

インタビューなんかを掘っていくと高校の時は本当に冗談抜きで友達がいなかったらしいですね。こういう記事を書く時、スクリーンの外のノイズをあれやこれやを持ち込むのは僕の好みではないんですけど、ここまでの演技を見せられると俳優の周辺情報も調べて語りたくなってきますね。

 

さて、今回も考察、分析、批評、あるいは解説のような気取った文章です。基本軸はタイトルの通り、松岡茉優に関するある仮説に向かって突き進みます。なお「松岡茉優演じる良香」、これを以下「ヨシカ」として話を進めます。

 

松岡茉優が可愛い(単なる感想。しかし非常に重要なポイント)

 何してても可愛い。まず可愛い。部屋着姿も可愛い。モコモコの靴下で寝るの最高。可愛い。眼鏡も当然可愛い。歯磨きしてても可愛い。泣こうが怒ろうが、Fワードを連呼しようが、とにかく圧倒的な「画」としての求心力。言わずもがなノロケるシーンや嬉しそうにしている場面、これもまた良し。可愛い。可愛い。可愛いな。いや、一周回ってブスなんじゃ…………全然そんなことなかった。可愛いな~!

 

これはヨシカ視点の物語

とまあキリがないので「可愛い」はこの辺にして次に進みます。 

主人公・中心人物がヨシカであることは自明ですが、この映画そのものがヨシカの精神空間になっています。

 

音楽

 

演出面で最もわかりやすいのは音楽。劇伴は彼女の感情にぴったり呼応する音楽します。決して観客の感情とシンクロするものではありません。大抵の場合において僕たちがヨシカにシンクロしているから、一見すると音楽は観客の感情の鏡となっているかもしれない。しかし実際はそうではない。観客と音楽のシンクロは謂わば偶然であり、基本的に音楽はヨシカの世界を彩るためだけにあったと僕は考えました。

 

渡辺大知(ニ)の繊細な演技

 

ここで注目すべきは渡辺大知演じる二。演技力がスゴイ(という安直な言葉でまとめて大変恐縮ですが、僕が演技出来ないんだからしかたない)んですよね。ダサいけど憎めない、良い奴だけどやっぱりダサい。そういう不安定な役どころをミリ単位で押さえてくる

 

これもまた単なる感想ですが、それでいて単なる感想にあらず。非常に重要です。

 

ヨシカがデトロイトメタルシティよろしくfxxkを連呼したあの飲み会のシーン。見るからに冴えない青年が登場します。他でもない渡辺大知(ニ)ですね。

 

ここでの渡辺大知(ニ)は「マジでありえない芋」として野暮ったく映ります。

しかしどうでしょう、告白された直後の渡辺大知。なんとな~く格好いい。「あ、この店のお冷ライム入ってるんや」くらいほんの僅かの差ですが、たしかにさっきよりも少しだけ格好いい。

 

告白の前後のこのコントラスト。この演技、演出のプランはヨシカの精神世界のフィルターを精密に反映するためのものなんですね。

こういった渡辺大知(ニ)のルックスの印象の変化は二人の人間関係の距離感に敏感に呼応して絶えず一進一退。彼の色はカメレオンみたいにコロコロと変わる。理由はひとつ。繰り返しになりますが、この映画の世界はヨシカの世界だからです

 

恐らくは既にどこかで誰かが言っている「渡辺大知(ニ)のキャラに一貫性がない。だから駄目」という読み、容易に想定できますがフェイクだと思います。

 

幻想世界の崩壊 

川釣りのオジサン、バスに乗り合わせるオバちゃん、外国人のコンビニ店員と、またはあの金髪少女と。駅員もマッサージ師も漏れなく全員。これらの人達との会話は全て「なかったこと」「そうしたかった願望」でした。

 

少し話が逸れますが、これは映画的にもかなり痺れる演出です。僕たち観客は無意識のうちに「映画を見る側の主体的な視点」の席に座っていたつもりが「映画を見せられる側の客体的な視点」に座っていたという事実をつきつけられます。この反転って映像ならではだなと。小説には読者の読む時間やペースまでを支配できませんし、活字を追うというのは比較的アクティブな行為です。ぼーっと見ている所をいきなり刺す!!というのは映画、それも劇場での鑑賞ならではですね。(記憶の限りだとこの辺りはもう完全映画オリジナルですよね?違ってたら教えてください……

 

閑話休題しておりました。戻ります。

 

とにかく、これまで見てきた世界はヨシカのフィルターを通したものでした。しかしこのフィルターが幻想で歪んでいたわけです

 

 

恐ろしい仮説

 

以上を踏まえると大変恐ろしい、ホラーというより海外ニュースに映り込むグロ画像みたいな仮説が浮かび上がります。本当に心臓の弱い方はこのへんで右上の×を押して帰ってください。悪いこと言わないので。

 

A:松岡茉優がめちゃくちゃに可愛い。

B:この映画はヨシカ(=松岡茉優)の世界である

C:しかし、この世界のほとんどがヨシカのファンタジーだった

 

これらABCから導き出される結論はこう。

 

D:等身大のヨシカは「松岡茉優」ほど可愛くない。松岡茉優もまた空想のハリボテであり、これはヨシカのリアルではない

 

だってそうじゃないですか。あんなに可愛いのに、オカシイでしょ。ヨシカがこの「松岡茉優性」を本当に標準装備していたなら多少ひねくれたところで大した問題にはなりませんよ。

 

松岡茉優は可愛い。相当に可愛い。ええ、可愛いですよ。

もうオナニーとか出来ないくらい可愛い。神聖過ぎて。逆にヌケない。神々しい。

 

備え持つ遺伝子のみに飽き足らず衣装、メイク、ライティング――すべての趣向を凝らして青天井のキュートさを観客に突きつけます。

 

登れば登るほど景色は美しい。美しければ美しいほどその標高は上がる。そして高ければ高いほど転落した時の激痛は計り知れない。

いやこんな悲しい話あります?目の保養の二日酔い。それにしても程度が酷すぎる。

 

「すべてが幻想」となると物語として身も蓋もないので、「どこまでが真実で、どこからか幻想か」というリアリティのラインをどこに設定するかは観客次第です。もしかしたらあの部屋の間取りも幻想世界のものかもしれませんね(さすがにワンルームじゃ撮影し甲斐ない、ってだけかもしれませんが)

 

とにかく、一つの解釈の可能性として「ヨシカは松岡茉優ではない」という選択肢をここに残しておきます。

 

 

一応はハッピーエンドのように丸く収まりました。ただし、この映画を「松岡茉優が可愛い」だけで済ましいてはいけない。あまりに自明ですが、結局はそういうことですよ。

 

 

 

とはいえ

 

この映画に対してココに何を書いたところで、「お前はまだ自己顕示欲にとらわれているのか?」という旨のカウンターで全てを無化されてしまう。地球の約2億倍くらいの重力ですべてのレビューを圧し殺す強烈な映画です。かといって僕はまだまだ自我を諦めきれないんですよね……

 

 

 

 

 余談 名前について

これは余談というか「これで書く人は別に僕じゃなくても沢山いるだろうな」と思って本筋からは敢えて外したんですけど、<名前>のモチーフの脚色が素晴らしかったですね。命名する側に主導権があり、また名前を知ることが人物の理解に繋がる。名前がアイデンティティを定義する。―――みたいな感じの(おそらくは神道などから由来する概念の)テーマによる肉付けが本当に見事でした。

 

名は体をあらわす、とはよく言います。映画の名前にまで「名」という字を出しておいて、にも関わらず名前・命名・アイデンティティその他諸々のテーマが徹底的に甘かったあの映画とは全然違いますね。なんだったけ、あの映画の名は。(とか僕が文句垂れたところで興行収入はこっちの方が全然勝ってるんですよ。悔しいことに。まああれはあれでラブコメ的には一見筋が通ってたから……)

 

 

 

 

【コマーシャル】

 

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おわり