「やっぱりあさくま」1号店(千代田区飯田橋)

写真拡大 (全3枚)

 ステーキの立ち食い&量り売りという斬新な店舗スタイルが受け、快進撃を続けている「いきなり!ステーキ」(ペッパーフードサービス)。

 2013年12月に東京・銀座に1号店を出して以降、わずか2年8か月で100店舗を達成。現在は187店まで増え、今年も年間200店の新規オープンを予定するなど怒涛の出店ラッシュをみても、好調ぶりがうかがえる。昨年は5月には東証マザーズから2部、その3か月後には1部へと株式上場のスピード昇格も果たした。

 数あるステーキ専門店の中で、なぜ、いきなり!ステーキの勢いばかりが目立つのか。外食ジャーナリストの中村芳平氏がいう。

「一番大きな要因は、新たな顧客層を獲得したことです。これまで『たまにはおいしい肉の塊をガッツリ食べたい』というステーキ需要は主に男性によって支えられてきましたが、最近は脂身の少ない赤身肉は健康的で、たくさん食べても太らないと“肉食系女子”のファンが増えました。そうした女性客の心を掴んだのが、いきなり!ステーキです。

 駅前など好立地にある店舗は立食スタイルで、女性同士でも会社帰りにふらりと立ち寄れる気軽さがありますし、それでいてオーストラリア産リブロースステーキなどが他店の半額で自分の食べたい量だけ味わえる。日常使いのステーキ店として認知されたことが店舗数の拡大にもつながっています」

 もちろん、リピーターを離さない策も打っている。2014年7月より導入した「肉マイレージカード」は、食べたステーキの量(グラム)に応じてポイントが貯まっていく仕組みで、積算によって様々な特典が用意されている。

 だが、ここにきて、いきなり!ステーキの牙城を脅かすライバルが出現した。郊外のロードサイドを中心に65店舗を展開するステーキチェーン「あさくま」が、都心部向けの新業態を出店したのだ。

 1月15日、東京・飯田橋(千代田区)にオープンしたのは「やっぱりあさくま」の1号店。いきなり!ステーキと違って立食形式ではないが、アメリカ産アンガス牛のサーロインやオーストラリア産リブロースなどのステーキを50g単位で量り売りするスタイルは同じ。オープン初日より多くの客で賑わっている。

 しかし、いきなり!ステーキがすでに量り売りのステーキ市場を独占している今になって、なぜ参入を決意したのか。

「あさくまとしては以前からステーキ店のブランドを郊外だけでなくもっと都心部に広めていきたいという戦略は練っていたと思います。ところが、量り売りの提供システムに関しては、いきなり!ステーキが特許を取っていたために手を出せなかった。それが、昨年11月に個人の異議申し立てによって特許が取り消しになったという事情も絡んでいるようです」(前出・中村氏)

 やっぱりあさくまは、今年中に関東の都心部を中心に20店舗、3年後には100店舗を掲げ、いきなり!ステーキを猛追する構えだが、果たして二匹目のどじょうは狙えるのか。

「あさくまは1948年創業の老舗ステーキ店で、最盛期には店舗数120店、売上高179億円を誇っていました。それが競争激化やBSE問題などを受けて長らく業績低迷が続いた末、2011年に厨房機器販売のテンポスバスターズに子会社化されました。

 テンポスの経営陣は、あさくま創業者が築いてきたノウハウを受け継ぐ社員や店舗従業員らと共に必死で再建に挑んできました。いま、その情熱を持って都心部に攻め込もうとしているわけです。店舗数がそれなりに増えてくれば、いきなり!ステーキの強敵に躍り出るパワーは秘めています」(中村氏)

 都心店はステーキの量り売りのほか、あさくま路面店で好評な「学生ハンバーグ」や、新メニューの「学生ステーキ」なども揃え、肉好きな若者を数多く集客したい構えだ。

 市場調査会社、冨士経済の調査によれば、西洋料理のカテゴリーに属するステーキ・ハンバーグレストランの市場規模は1167億円(2018年予測)ある。

 あさくまはこれまで「びっくりドンキー」や「ブロンコビリー」、「ステーキガスト」などのファミリーレストランカテゴリーに含まれていたが、新業態の成否いかんでは客層の流れが大きく変わる可能性もある。日本の肉食文化の変遷を含め、今後のステーキ戦争から目が離せない。