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弱体化するドイツの背後で、EU経済破綻国「逆襲」の気配

「ヨーロッパのため」とは言いながら…

「再選挙」だけは避けたい

1月13日、午前11時過ぎ、CDU(キリスト教民主同盟)、CSU(キリスト教社会同盟)、SPD(社民党)の党首が、詰めかけた記者の前に現れた。この直前に3人は、徹夜のマラソン協議を終えたばかりだった。

ドイツで総選挙があったのは9月24日だ。CDU、CSU、SPDは、どれも党始まって以来の票の落ち込みで、選挙当日の夜、SPDのシュルツ党首は即座に野に下ると宣言していた。

そこで新政権樹立のため、10月に、SPD抜きの4党(CDU、CSU、FDP、緑の党)で連立交渉が始まったのだが、5週間近くすったもんだした挙句、11月19日に決裂。

さて、どうしたものか? CDUとしては、再選挙になれば、さらに票が減る可能性が高いし、過半数割れ政権では安定した政治は覚束ない。困ったメルケル首相は、戦列を離れていたはずのSPDに大連立を持ちかけた。それ以外のオプションは、メルケル首相にとって危険すぎたからだ。ちなみに、SPDも再選挙は怖い。

ただ、SPD党内では、過去4年の大連立の間にメルケル首相に取り込まれて、ボロボロになったという忸怩たる思いが蔓延している。党のカラーはなくなり、主張することもなくなった。これからまた4年、メルケル政権の延命のために尽くすなら、党は存在する意味がなくなる。

結局、SPDの内部は、ドイツ政治の安定のために連立すべきという賛成派と、これ以上メルケルの軍門にくだるべきではないとする反対派に、真っ二つに分かれてしまった。

 

とりわけ窮地に陥ったのは、「下野」の言い出しっぺ、シュルツ党首だ。最初は頑なに大連立はしないと頑張っていたが、まもなくSPDの幹部のあいだで、大連立賛成派がどんどん増えた。前政権でのSPDは、外相、副首相はもちろん、法相、労働相、環境相など主要なポストを占めていたのだから、これを棒にふりたくないと思う幹部がいても不思議ではない。

それに、SPDがゴネているせいで組閣ができず、ドイツの国益が損なわれていると思われても困る。そこでシュルツ氏も意見を改め、一応、CDU、CSUと会い、大連立に乗るか、反るかの協議をすることになった。CDU はどうしても大連立を求めているのだから、ひょっとするとSPDに有利に話を進められるかもしれないと、シュルツ党首は期待したかもしれない。

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そして、5日間の協議が終了し、前述の記者会見となった。結論は、「大連立の交渉を始める」。

そのあと3人が皆、「成功裏に終わった協議」を自画自賛し、「ドイツ国民に対する責任」を謳い、さらに「新しいヨーロッパの始まり」、「EUに対するドイツの責任」といった大言壮語を並べた。

しかし、実は、この3人を結束させているのは、ヨーロッパや国民のためというよりも、再選挙の恐怖だ。再選挙をして伸びそうな党は、AfD(ドイツのための選択肢)しかないというのが、ドイツのシビアな現状である。

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