うーん。
言ってしまえば、佐藤さんはもともと、カクイシさんと三田さんの話に便乗しただけなのに、漫画家なんて駄目、みたいな投げやり風に話を締めるのはどうなの?
途中のやけに長い推計については、所詮は推計だから、考え方としてはこういう計算は可能ではあります。細かい部分はともかく、強いて異常な計算とかはしてない。
ただ、結論部分の、
「出版社を含めみんなお金がないから安く働いている、働かせているというのが、今の漫画界の実情ではないでしょうか。作画スタッフに「残業代を支払え」「給料を上げろ」と言われて、支払える余力のある漫画家がまず少ない。「人並みの暮らしがしたい」「作画スタッフの給料を上げたいから、原稿料を上げろ」と言われて、原稿料を引き上げられる出版社がない。本の価格を現在の3倍くらいにすれば、全員に人並みのお金が行き渡りますが、3倍の価格で本を買いたい読者がいない。そうです、これが斜陽産業です。もしも、自分の子供が「漫画家になりたい」と言ったら、こうアドバイスします。
「やめとけ」」
については、ちょっとだけ苦言を呈したい。
佐藤さんは、
「ちなみに僕の会社は、昨年、税務署の調査が入りました。前年の売上高は約2億9000万円、追徴課税は9万円でした。」
って言ってますよね。
そして、話を聞く限り、漫画家の費用の大半は人件費であり、それも売上規模がでかくなると際限なく膨らむという仕組みではない、という事に注意して頂きたい。
単行本の売上が100万部でも、1万部でも、必要な経費は変わらない、という事です。
仕入れがあったり、通常の産業であれば、営業マンや営業所を増やしたり、と売上規模に従って費用も増大しますが、漫画家の経費は比較的早く頭打ちになるのが推測できます。
「作画スタッフは一番多い時で同時に4名雇っていました」
とブログで佐藤さんはおっしゃっていますし、
「作画スタッフが独立する度に新規採用を見送り、4人いたスタッフを3人、2人と減らしていき、今回に至りました。」
という言葉からすれば、現在の人件費はそれほど大きくはないのではないでしょうか。
もちろん、作画とは違う、web雑誌用のスタッフとかもいらっしゃるんでしょうけども、それでも、大量の人数がいるという訳ではなさそうです。
では仮に、2億9000万のうち、1億4500万が漫画収入で、半分はWEB雑誌としましょう、そんなことありえないだろうけども。
最大の人数であった、4人の人件費があったとしましょう。
佐藤さんのブログから人件費を推定するとして、
「半年以上の期間がありました。
その間もスタッフに給与を支払い続け通帳の残高が600万円減りました。」
という発言がありましたので、
半年600万とみると、1か月100万、4人で一人25万、計算上はそんなにおかしくはない。
そこで、年間1200万の給与だとすると、
1億4千五百万から1200万を退いて、1億3千300万儲かってる事になりますね。
あとは法定福利費は佐藤先生の計算式に従って、180万円
福利厚生費って、まあなんとも言い難いけど、佐藤さんの推定の4倍の近似値で、100万としますか。じゃあもう、基本4倍と、どんぶり勘定でやったとしても、福利厚生費含めても、1000万を超えないでしょう。
1億3千300万から、1180万を退いても、1億円以上になりますよね。
これは、売上2億9000万を、わざわざ半分に計算した上で、こうなっている訳です。税金引いてないとかあるけど、そういう細かい話をするなら、漫画の売上が全体の半分な訳ないでしょ、ってなる。
何が言いたいかと言えば、「前年の売上高は約2億9000万円」なら、毎年1億円以上のお金が手元に残るんじゃないの、って話で、「そうです、これが斜陽産業です」って言われても、まあ別にそう思うのは勝手だけど、そんな投げやりになるところなの? とは言いたい。
むしろ、佐藤さんのような一部の成功者が、凄く儲かっている、という事が、漫画界で新人やアシスタントがブラック労働に耐える理由なんじゃないですか?
「つまり、漫画家は出版社やアプリ企業に対して原稿料の値上げ交渉をしないといけない訳ですが、それができる人はあまりいません。特に新人。実績もないのに原稿料の値上げを要求する新人など、誰も使いたくありません。本当は作家が作品制作に必要な金額の見積もりを出して、出版社が納得すれば契約、発注という流ればあればいいのかもしれませんが、出版業界は未だに昭和の口約束の世界です。そして、打ち切りになれば即無職。」
確かに新人は値上げ交渉しにくいですよね。
でも、原稿料の値上げ交渉って、別に誰がしてもいいですよね?
新人だけが困っている、という図になってないでしょうか。
実際には、ベテランは値上げ交渉済で、要は、ベテランになれば基本は「困ってない」訳で、売れっ子はみんな困ってないから、労働問題っていう意識がないし、毎年1億円が手元に残っても、斜陽産業だなんだと、若干他人事みたいな感覚になってしまうのでは。
通常の企業で、自社の業界が本当に斜陽産業なら、業界を盛り上げるために必死になるのが普通では? 滅んでしまえ、って言わないでしょ普通。掃除機業界は斜陽だ、滅んでしまえ、って言いだす掃除機メーカーは少なそうだけどなあ。もちろん、例外もあるだろうけども、普通は自社の業種を何とか盛り立てようとするんじゃないかな。
アシスタント側も、売れっ子になれば困らない、という意識があるから、現状が不遇でも気にせず頑張っている、という、そういう構図になりませんか? それがやりがい搾取的ブラックの源泉になってるかもしれない。
だから、漫画家の労組とか、アシスタントの労組とかあればいいかもね、とは思うものの、売れっこは困ってないから、そんな音頭をとるメリットがない。やる必然性もない。むしろ、出版社に嫌われたら困るかもしれない。
最初の発言に戻りますけど、
「出版社を含めみんなお金がないから安く働いている、働かせているというのが、今の漫画界の実情ではないでしょうか。」
年間売上2億9000万円って、安いですか? 安く働いてますかね?
「作画スタッフに「残業代を支払え」「給料を上げろ」と言われて、支払える余力のある漫画家がまず少ない。「人並みの暮らしがしたい」「作画スタッフの給料を上げたいから、原稿料を上げろ」と言われて、原稿料を引き上げられる出版社がない。」
佐藤さん、絶対人並以上の暮らしをしてますよね。
出版社に、本当に体力がないのか、私は極めて懐疑的ですけど、ここに来て、出版社も悪くないみたいな構図にして、体力がないし本が売れないからしょうがないんだ、みたいに、わざわざ八方塞がりに誘導してませんか?
「本の価格を現在の3倍くらいにすれば、全員に人並みのお金が行き渡りますが、3倍の価格で本を買いたい読者がいない。そうです、これが斜陽産業です」
本当に、値段を3倍にする必要ありますかね。360円が定価のスピリッツでも、100円値上げしたら、月間5万部は出てますから、500万円利益が上がる事に、単純計算上はなるけど、値上げしたら売れなくなるのでは、という問題はたしかにある。
月額500万の利益を分配できれば、漫画家の原稿料もマシになりそうではあるけど、100円の値上げって物凄い大変ではあるよね。
ただ、最初から無理という前提よりも、出版社側は本当に費用を捻出できないのかは謎ですよね。工夫する余地はありそうな気がするものの、大企業は単に原稿料を上げてもメリットがないし株主に怒られるかも、みたいな。正直、原稿料を多少上げても払える体力はある筈だろ、と思いますけども。ただ、原稿料を上げるメリットはない。原稿料を上げる事で、雑誌の売上があがる訳じゃないから、ただ損するだけになる。
何かメリットがないと、原稿料を上げる理由がない。
あとは、労組からの反対を受けて、このままだと雑誌が真っ白になるから、仕方なく原稿料を上げる、みたいなシナリオになるけど、そもそも労組がない。
でも、そんな投げやりになる局面とは自分には思えなかった。
あとやっぱり、斜陽産業だ、漫画界なんて滅んでしまえ、と言いながらその産業から3億円近くの売上をあげている、と聞かされると、いやさすがにちょっと無責任な放言に自分には聞こえましたよ、というところです。
まあ、自分も出版界の人間ではないから、外野の無責任発言なんだけど、ちょっと引っかかったので書きました。
ではでは