モモンガは狂気に嗤う   作:シベリアン
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タイトルは誤植ではありません


3話 カルネ村の

玉座の間は重苦しい沈黙に満たされていた。

壇上のモモンガは玉座に座したまま一言も発さない。

その一段下では守護者統括たるアルベドと共に、本来こういった場ではそこにいない筈の者達。

セバスとナーベラルの姿があった。

NPC達は自分達に与えられた役職を非常に重要視する。

本質的な面で言えば、彼らは唯一にして絶対の主であるモモンガに使える仲間であり同格である。

だが、ナザリックを正しく運営する為にそれぞれに与えられた役職内での上下関係も大事な物だ。

以前であれば『そう在るように作られた』という為に重視されていた。

しかし今は与えられた使命を最も効率的に遂行する為の一面が最も大きい。

そしてアルベドは役職上最高位である守護者統括である。

そのアルベドと同じ位置に2人がいるという事は何かしらの異常事態の発生を示していた。





「モモンガ様。御身にお仕えさせて頂く主だった者達の招集が終わりました」


アルベドはモモンガに跪くと静かに告げる。

つい先ほど、各々の持ち場に戻った者達を再度玉座の間に集合をかけたのだ。
それはモモンガ達が持ち帰った情報を皆に伝える為である。
非常に重要な情報である為、ほぼ全てのNPCが再び集められた。
階層守護者や領域守護者も集めている為、防衛という観点からガルガンチュアを第3階層に臨時配置してある。


「アルベドよ、大義であった。さて、皆に非常に重要な事を伝えねばならない」


モモンガはアルベドを軽く労うと、すぐ皆に向き直る。


「その前にセバスよ。私に付き従いお前が何を見たのか皆に告げるのだ」


指名を受けたセバスは、はっきりと分かる緊張の色を示したまま、自分達が見てきたものを告げる。
ナザリックの周囲が、本来の沼地では無く平野になっているという事。
それは非常に広範囲に渡っており、ざっと調べた限りでは他には森林程度しかない事。
周囲に知性を持った生命は居らず、ただの原始的な動物しかいないという事。


「……私はナーベラルと共にモモンガ様と周囲を見て回りましたが。これら見てきた事実からナザリックは本来在るべき所から大きく転移してきたのだと考える他ありません」


悲痛の面持ちで告げるセバス。
そしてそれを告げられた他の面々には大きな動揺が広がっていく。

一体どういう事なのか。
何故そんな事が起こったのか。
ここは一体どこなのか。
もしやナザリックは何らかの攻撃を受けたのか。

様々な憶測が立てられ、またどのような対策を練るべきか、皆こぞって周りの者と話し合う。
しかし、当たり前ながら一つとして有効と思える案は出ない。

だが、そこに更なる情報がモモンガから告げられた。


「私が見た限りにおいてだが……ここはユグドラシルとは異なる、別の世界の可能性が高い。いや、むしろそう捉えるべきだ」


モモンガはユグドラシルでもかなり上位のプレイヤーだ。
単純な強さという話では無く、その経験や知識は非常に深く広い。
晩年こそナザリック維持の為にソロプレイで金を稼ぐばかりだったが、本来は世界を股にかける大冒険者である。
仲間達と各地の神秘を探し回ったからこそ、ユグドラシルのギルドでも最多のワールドアイテム保持に至ったのだ。

そんなモモンガだからこそ、先ほどの僅かな時間の情報収集で、ここがユグドラシルでは無いと断定する事が出来た。
世界を飛び回る上で地図は重要だ。
故にほぼユグドラシル全域の主だったマップは網羅している。
そしてその中に現在地に該当するようなマップは無かった。
単に記載漏れの可能性もあったが、このサイズの平原、そして広大な森林だ。
これ程著名な地形に該当する所はモモンガの知る限りにおいて存在しない。

殆ど冒険に出なくなった晩年に追加されたマップの可能性もあるが、そうしたものは殆どが上位プレイヤーの為のエンドコンテンツだ。
ある程度まで成長したプレイヤーの遊ぶ場所として設計されている為に、モンスター等もそれなりの物が配置される。
しかし先程見た限りではそんなモンスターは居なかった。
むしろゲームを始めたばかりのプレイヤー向けと言っていいレベルだろう。
唯一、森林でモンスターの気配があったが、それも恐らく10レベル前後程度。
そんな初心者向けのエリアならばモモンガは全て知っているし、ここはそれに当てはまらなかった。


「いや、はっきり言おう。私達は捨てられたのだ、ユグドラシルという世界からな」


先程のどよめきは一気に掻き消え、今度は恐ろしいまでの静寂が広がった。
しかし、それは異界に捨てられたという絶望では無い。

激しい怒りからだった。

彼らナザリックの者達にとって全てはモモンガの為に存在するのだ。
世界の全てはモモンガを彩る為にあり、あまねく栄光は全てモモンガの為の物。
それが事もあろうにモモンガを切り捨てる等と許される事では無い。

モモンガが世界を捨てる事はあっても、世界がモモンガを捨てる事はあってはならないのだ。

そう。

あの40人の大罪者のような事は二度とあってはならない。


「ここは全くの未知の世界だ。どのような者達がいる世界なのか、情報は何一つ無い。まずはナザリックの維持を最優先とし、平行して情報収集を行う事とする。皆は一先ず本来の仕事に戻ってもらうが、必要に応じて別命を与える事もあるだろう。だが、今が異常事態だという事を心に留めておくのだ」





ナザリックの警戒態勢を引き上げたモモンガは自室に戻っていた。
傍らには仕える為にセバスが付き従っている。

まずは情報収集。

そのためにモモンガは遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を使い、周囲に知的生物がいないか探る事にした。

ユグドラシルでは殆ど使う事が無かった為に、操作に四苦八苦しながらも何とかコツを掴み始める。

ようやく一通りの操作を身に付けた頃、モモンガは一つの村落を発見した。


「お見事です、モモンガ様。早くも知的生物の所在を発見なされるとは」


セバスの心からの感想に軽く頷きながら、モモンガは遠隔視の鏡で村の住民を探るべくズームアップする。
拡大された映像には仲睦まじそうな姉妹が映っていた。


「どうやら住民は人間のようですね。如何しましょう。私が情報収集等の交渉に赴きましょうか?」


しかしモモンガは何も言わない。
だが、鏡の操作を続け、そして次々と村の住人達を映し出していく。
その間もモモンガは一言も発する事は無い。
そして一通りの住人を見終えた後、遠隔視の鏡の光景は村を俯瞰する位置に戻された。


「モモンガ、様……!?」


何も言わないモモンガの顔を伺ったセバスは、そこでようやく異変に気付いた。

モモンガの眼窩は猛る炎のように赤い光が輝きを増していく。
そしてそれは次第に漆黒の炎と化していく。

何が起きたのかは分からない。
今見ていた光景はただの村の一風景だったはずだ。
間違いなく、モモンガをこのように駆り立てるようなものは無かった。

だがセバスは、己が何よりも敬愛する主が今放っているものが何なのか知っていた。
それは怒気などと言う生易しい物では無い。

それは明確な殺意だった。



モモンガ自身も最初は分からなかった。

遠隔視の鏡に映った仲の良い姉妹。
手を取り合って、恐らく水汲みに向かうのだろうその光景は大抵の人間にとって心温まる光景だろう。

しかし、それを見た瞬間、胸を抉られたような気がした。

そして取りつかれたかのように村人達を次々に映し出す。


一緒に畑を耕す父と息子。

隣人と楽し気に語り合う女達。

犬とじゃれ合う子供。

幼い赤ん坊の世話をする小さな女の子。


当たり前の、どこにでもある人の営み。

それを見て、モモンガは胸中に燃え上がる物を感じていた。


(何故、こいつらは……)

───懐かしい家族

(何故、こいつらは生きている……?)

───苦しいだけの毎日

(何故、こいつらは笑っている……?)

───ようやく出来た大切な仲間達

(何故、こいつらは……)

───汚染された世界

(何故、こいつらは生を謳歌している……!)

───失われた全て

(何故、こいつらは俺が求めた物を当たり前のように俺に見せびらかしている!!)

───求めて、そして遂に得られなかった全て


鈴木悟は、彼の世界に於いて善良な人間だった。

もし彼が彼のままこの世界に来ていれば。

もし彼が絶望の内では無く、心残りはあれど仲間達との過去の栄光と共にこの世界に来ていれば。

例え、その身をアンデッドに落としていようとも、その心は鈴木悟であっただろう。

その身につられ精神が変容を来そうとも、その本質は鈴木悟のままであっただろう。

だが、そうはならなかった。

絶望と憎しみにその心をやつした鈴木悟がその身をアンデッドと化してしまったのだから。

それは何よりも死の支配者(オーバーロード)だった。



現地民との心温まる触れ合いを期待された方々、大変申し訳ありません
毎回次回こそとか言っておきながらようやく導入部です
執筆する時間がもっと欲しい







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