#MeTooキャンペーンの加熱を受けて、セクハラ・パワハラを告発したブロガーのはあちゅうさん。その後、彼女が過去に「童貞」の男性をイジるようなツイートを繰り返し投稿していたことに批判が集まりました。鈴木涼美さんが「童貞との向き合い方」について考察します。
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「童貞をディスりつつ討論に参加してください」
昨年9月某日、「鈴木涼美さん、はじめまして!夜分恐れ入ります!47歳高齢童貞のHと申します!どうもお疲れ様です!」と、いや聞いてねえよ的な自己紹介で始まるメールが届き、10月後半に新宿ネイキッドロフトで開かれた「ヤサグレ童貞の夜」というイベントに登壇することになった。当日までのやり取りも、童貞っぽいという以外に何の形容のしようもない前のめり感と要領を得てない感とビックリマークの数の多さに慄きながら進めていたのだが、とにかく私に与えられたのは「童貞をディスりつつ討論に参加」してくださいという指示だけだった。世間で「ディスってはいけない童貞24時」が始まるつい2ヶ月前のことだ。
イベント自体は壇上に出てきては尿道に詰まった自意識を吐露する童貞たちに私が「とりあえず吉原行ってから来てくれる?」とか適当に突っ込みつつ、一緒に登壇した女性漫画家の先生が救済措置を言い渡すという、極めてゆるい感じで進められたのだが、ここではそれは結構どうでもいいので割愛。とりあえず、世間には童貞をディスってもあまり怒られない人種とものすごく怒られる人種がいるらしい。
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「童貞をディスってはいけない」キャンペーンの発端は、広告代理店時代の上司のパワハラを告発したブロガー・作家による過去の童貞イジりのツイートが非難されたことである。ハリウッドで多数のセクハラ被害が発覚した「ワインスタイン事件」に始まる#MeToo運動が、フランスの大御所女優が違和感を示す文書を公表するほど異様な広がりを見せる中、日本の#MeTooは何だか全然関係ない「童貞をからかうのは人権侵害か」という問題の再設定をされてガラパゴス的に進化した。ミートゥーを凌駕するディーティー。
神扱いされている童貞本の古典『D.T.』
「童貞の気持ちを踏みにじり」「傷つけ」「バカにした」とされる件のツイートをいくつか見てみると、要するに童貞は内部に貯めたエネルギーのせいでものすごく良くいえば一般ピープルとは一線を画す並外れた想像力に溢れていて、それはからかうに値する、といった内容が多いのだが、面白いか面白くないかは別としてそれはこれまでの童貞語りの範疇を出るものとも言えない。童貞イジりを批判する意見の中で、対極的に神扱いされている童貞本の古典『D.T.』(みうらじゅん・伊集院光著、メディアファクトリー、2002/角川文庫版『DT』は2013)も基本的には童貞の尋常ならざる想像力や童貞の時にとったヘンテコな行動を崇めることでイジるといった内容で、件のツイートとものすごく方向性が違うかというと別にそんなことはない。
童貞をイジっていい「神」たちは何者か?
しかし、かたや人権侵害、かたや神。ちなみにディスってはいけない騒動の最中に某人気AV女優が「童貞を殺すセーター」なるもの(肌が不自然に露出するニット)を着た写真を、童貞に向けて発信したツイートがたまたま流れて来たが、そこに連なるリプライはほとんど教祖のご託宣を聞いた妄信的信者たちのごとく、感謝と感動の雨と嵐にあふれていた。
童貞をイジっていい神たちは何者か。おそらく、男であれば童貞の理解者、あるいは童貞に限りなく近い非童貞(現に『DT』で著者らは「経験はしていても自分の中にはまだ、童貞が残っている場合がある」「肉体の童貞は失ったけど、精神はまだ童貞だぞっていうのを、まず『DT』って呼んでみよう」と定義し、自分らを体育会系モテ組と差別化する)であって、これは理解に容易い。
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背が高くて運動神経がよくていかにも若い時からモテていました、みたいなエグザイルみたいな人たちと、童貞期間がきっと長かったであろう文化系男だったら、後者による童貞ディスは「僕も似たようなもの」「僕もかつてはそうだった」的な免罪符をつけているように感じられる。実際はエグザイルもかつて童貞だったんですけどね。ちなみにこの文春オンラインで「童貞」と記事検索をかけると、ヒットするのは燃え殻氏の記事が多く、このセオリーにピタリとハマる。
「ものすごく経験豊富そう」「やらせてくれそう」な女性は許される一方、女性でも、私に童貞をディスるイベントの出演依頼が童貞から来たり、ディスってはいけない期間中であっても非常にデリケートな名前のセーターを着て許されるAV女優がいたりするわけで、そこの境目はおそらく「ものすごく経験豊富そう」か「やらせてくれそう」かがポイントとなっている。
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つまり、やらせてはくれなそうであっても杉本彩や壇蜜のようなエロの大家的パブリックイメージを持っていれば、童貞たちはあまり逆らえない。エロの大家とまではいかなくともやらせてくれる可能性があれば童貞たちはやはり実益を重んじてそれほど怒らない。AV女優や私を含めた元AV女優たちは、若干不本意ではあるが、大いに「やらせてくれそう」であることは間違いない。逆におそらく、エロの経験値が高いわけでもなく、やらせてもくれなそうな女にいじられると、男としては、同類かと思っていた女に裏切られた悲しみによって、「お前に言われたくねーよ」スイッチが稼働するのだと思う。
男性は童貞の同類っぽい人にのみディスが許されて、女性はどちらかというと同類っぽくない人の方がディスが許されるということだとすると、この度の「童貞をディスってはいけない」キャンペーンが盛り上がったのは、童貞イジりをしたのが、「やらせてくれなそう」で「そんなにエロの経験値が高くなさそう」で「純朴そうな服を着ているし、むしろ僕ら童貞の仲間かもしれない」と勝手なパブリックイメージを持たれていた女性だったという点に尽きる気がする。一人の女性ブロガーのかなりショッキングな告発をかき消すほどの声が上がった騒動の根幹にあるのが、「仲間だと思ってたやつが実は結構経験あって俺たちをバカにしやがったよ、やらせてもくれないくせに」だとしたら、実にくだらない。