ゲーマー日日新聞

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Nintendo Laboは既存のゲーム市場へのカウンターとなるか

 

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『Nintendo Labo』発表されましたね。

 

『Nintendo Labo』(ニンテンドーラボ)はニンテンドースイッチと組み合わせて遊ぶ段ボール工作キット。

ニンテンドースイッチの着脱式コントローラ Joy-Con が内蔵する各種のセンサを活用することで、段ボールで作った釣り竿・ピアノ・バイク・ドールハウスなどが新しいコントローラ「Toy-Con」になり、スイッチ本体側のソフトとあわせて新しい遊びができる趣向です。

段ボールでできているため、指示どおりに組み立てるのはもちろん、自分でデコったりカスタマイズしたり、あるいはどうJoy-Conと相互作用して動いているのか構造から理解したり、自分流に組み合わせて新しい遊びを作るなど、段ボール製ならではの拡張性が工作オモチャとして、あるいは知育トイとしての大きな特徴です。惹句は「つくる・あそぶ・わかる」。

速報:『あそびの発明』Nintendo Labo発表。工作キットと任天堂スイッチを合体 - Engadget 日本版

 

www.youtube.com

いや~痺れた。今日大きなSwitch絡みのニュースを出すとは聞いていたんですけど、想像の斜め上を行く朗報でしたね。

世間でも今とんでもない騒ぎになっていて。Twitter等SNSじゃバズりまくってる『Labo』。発売は2018年4月20日を予想しているそうです。

で、個人的に何に痺れたかというと、この『Labo』は色々奇抜なようで、ちゃんと任天堂さえ含めた既存のゲーム市場を研究した上で、そこに明確な「カウンター」を決めようとしてるんじゃないか、と思ったからです。

 

半導体ではなく、段ボールで作るカウンター

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まずこの動画を観て誰もが驚いたのが、使われてる技術の「アナログさ」だと思うんです。

だってダンボールですよ。液晶でも、半導体でも、プラスチックでもない。ダンボール。凄くアナログ。もちろん、段ボールをSwitchと組み合わせる技術自体、とんでもない水準であることは容易に予測できますが。

 

でこの発表、技術を追求し続けてきたゲーム市場に対してのカウンターだったからこそ、これほど大きな反響になったのかなと思います。

ゲーム市場って特に5年前まで、いかに重い処理をこなして、微細なテクスチャを描いて、今までじゃあり得ない技術的な躍進を見せるか重要視されていました。PSで発売された『FF7』や、物理エンジンを活かした『Half-Life 2』なんかが代表例でしょう。

そして今、注目されてるのがVRです。『バイオハザード』等の最新作もVRが導入され、まだ発展途上といえ、SonyやValve等数々の企業が乗り込むことで、未曾有の盛り上がりを見せています。

 

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それに対して、「段ボールによってハードを改造するゲーム」という発想は痛快なカウンターでした。子供も馴染みのあるアナログな「手段」で、液晶の中でなく現実に存在するハードウェア自体を拡張してしまう「結果」。二重にカウンターなわけです。

無論、技術の進歩はゲームの歴史に多いに影響しました。というか、技術こそゲームの面白さという根源的な魅力を増幅させてきたコアといっても過言ではなく、今開拓されつつあるVRに携わる技術者の方にも敬意を表するべきでしょう。

それでも、任天堂が新たに提示したオルタナティブは、こうした最新技術を求める流れからは「何か違う」という印象を抱きます。これが、現状の大きな反響に結びついたのではないかと私は予測しています。

 

何故このような方向性に至ったのか。一説には任天堂の宮本茂専務の意向が強かったと言われています。

しかし任天堂の宮本茂専務は、16年の株主総会で「VRに限らずARなど研究を続けている」「3D技術を含めて基礎技術は一通り有している」としながらも、「(米国のゲーム展示会『E3』では)VRがそれほど大きな話題になったとは感じなかった」と発言していた。

「実際に体験できた人は高評価を与えていたとしても、周りで見ている人にはそれが理解できず、また、その体験がどのような商品として実現できるのかが分かりにくかったからではないかと推論している」(宮本氏)

「Nintendo Labo」は何がスゴイのか 公式映像から考察してみた - ITmedia NEWS

宮本氏の指摘するようにVRの欠点は、そのユニークな体験を共有し辛い点です。ゴーグルを使いながら遊ぶ姿は、傍から見ていて何が楽しいのかわかり辛い。

その点、段ボールという素材は誰にも馴染みがあり、子供から大人まで理解し易い。これは正に横井軍平の「枯れた技術(=段ボール)の水平思考(=Switchのアタッチメント)」と言えるでしょう。

 

また、そもそも「枯れた技術の水平思考」とは高コストな最新技術でなく低コストの汎用性のある技術だから『ゲーム&ウォッチ』を作れた…という、コスト論でもありました。

この点で考えても、『Labo』はソフト・周辺機器込みで6980~7980円と比較的安価で、これは段ボールの大きなメリットです。

「Kinect」や「MOVE」が優れたポテンシャルを持ちながらも、機器だけで5桁以上する投資が、多くのユーザーを足踏みさせたのは事実。文字通り枯れた技術の水平思考で、新たな試みを低価格で触れる機会を作りだそうとしています。

 

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2017年の任天堂自身へのカウンター

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更に言うと、意外だったのは『Labo』の件が驚くほどコアなゲーマーにも話題になっていたことです。仮に新しいデバイス、ローカルな手段という意外性だけならゲーマーのコミュニティに浸透すると思えません。

つまり、『Labo』は任天堂という企業にとっても面白い試みだと捉えられたと思います。

 

2017年はぶっちゃけた話「Nintendo of the Year」でした。各企業から優れた作品が発売されたものの、「Switch」の発表と共に吐き出された『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や『スーパーマリオオデッセイ』は、数々のGOTYを獲得し業界の世論を掻っ攫っていきました。

ここから、いかに任天堂がSwitchに期待していたか伺えます。温め続けた6~8年の「本命」を同じ年に2本出したわけですから。Switchが爆発的に売れたことは何ら不思議なことでなく、むしろ任天堂側は当然これを予期していたと考えられます。

問題はその「次弾」です。『マリオ』にせよ『ゼルダ』にせよ、任天堂にとって最重要のIPであることは疑いようがないのに、Switchという基盤を維持するために、それに負けないプロダクトを2018年から投入していかなければならない。

そこで、2018年に新規性と個性を最大限に詰め込んだ『Labo』を打ち出したことは、大変スマートな判断であると言えます。そこに『星のカービィ スターアライズ』や『真・女神転生V』のような強力な専用タイトルで、既存のゲーマーもケアする予定でしょう。

 

2017年はクラシックなタイトルでコアゲーマーの心をバッチリ掴み、2018年からは意欲的なタイトルで新たな客層をフォローする。実に見事な展開だなと感心しました。

特に興味深いのはメリハリです。確かにWiiやDSといった媒体でも、クラシックなタイトルと挑戦的なタイトルを同時に展開していました。しかし、その2つが同時に展開されると、ハードを印象付ける宣伝は難しい。

故に、Switchではまず主力タイトルを展開し、しっかりと「自分たちはどこより優れた、奥深いゲームを作れる」ことを証明した上で、意欲的なタイトルにコアゲーマーの興味を引きつけました。

既に実力が証明されている以上、「単なる玩具」「健康グッズ」と侮りようもないからです。

 

実際にカウンターとなり得るのかは未知数

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ただし重要なことは、結局どんな中身になるかは、まだわからないということです。

確かに、『Labo』の展開に伴う任天堂の戦略は驚くほどスマートです。既存のゲーム市場、既存の任天堂自身にさえ「カウンター」を当てるような斬新さ。この話題性だけでも、既に楽しんでいるのは事実です。

たださすがに、これが社会を変えるとか、教育的にどうとか、ゲームとしてこんな変化が起きるとか、この辺まで言い切ると時期尚早なのかなと思います。

あくまで「そうなったらいいな」というだけで、実際どうなるかは発売されるまでわかりません。信頼と実績のある企業ですが、意欲的な取り組みであることは間違いないわけで。楽しみなのは事実そうだけど、発売前から周囲がありもしないことで盛り上げるのは、色々怪しいかなと。

ただ少なくとも、狙いは本当に面白いです。特に2017年の展開から、こうなるのは全く予想してませんでした。まだまだSwitch一つで遊べそうです。

 

実を言うと、私は最初Switchが発表された時、若干訝しんでいました。「持ち運んでシェアできるゲームハード」なんて実際どう活用するんだ?と。

ところが、実際これは本当に便利で。普段ゲームを遊ばない友達とシェアすることがこんなに面白いのかと。仮にソロゲーでも、友達からすれば凄く興味を持ってくれるんですよね。個人的に、宅飲みには必須アイテムになりました。

まぁそんなわけで、この『Labo』も案外ゲーマーでも楽しめるモノになるんじゃないかと、こっそり期待している次第です。