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推定分野について  


名古屋大学博物館の藤原 慎一助教は、四足歩行 注 1 を行う動物の胴体が、肩甲骨から肋骨に伸びる筋肉で吊り下げられた状態でバランスをとっていることに着目して、肩甲骨の正しい位置の解明を試みました。

動物の肩甲骨は胴体と関節で接しておらず、化石に残りにくい筋肉で留め置かれています。そのため、絶滅動物の骨格復元で、胴体に対する肩甲骨の位置は最大の難関です。実際、博物館展示での恐竜やマンモスの骨格の肩甲骨の位置は、明確な根拠を示せないまま、まちまちに復元され、肩の高さや前肢の向きの復元にも影響してきました。

四足歩行中の動物の胴体は、重力で落ちようとする回転と肩からの筋肉で持ち上げられる回転の間でバランスがとれていますが、うまくバランスがとれる肩甲骨の位置は限られてくるはずです。同時に、この筋肉がつく肋骨には強い負荷がかかるため、壊れにくい形をした肋骨の真上に肩甲骨があるはずです。現生の四足歩行動物の CT 撮像データから三次元筋骨格モデルを作って解析したところ、上記の条件を満たすような肩甲骨の位置は、胴体前方の正中 注 2寄りの特定の場所にしかないことが示されました。また、この肩甲骨の位置は、現在、生きているほぼ全ての四足歩行動物にも共通していました。本研究から、これまで根拠なしに復元されてきた肩甲骨の位置に初めて根拠を示すことができ、絶滅動物のより確からしい生態復元に大きく貢献すると期待されます。

この研究成果は、科学研究費助成事業「若手研究 B(No. 25870305)」の支援のもとで行われ、平成 30 年 1 月 16 日付(英国時間)英国科学雑誌「Journal of Anatomy」オンライン版に掲載されます。


【ポイント】

  • 動物の骨は、通常、関節を介してくっついているため、関節の位置を元にして骨と骨の位置関係を知ることができます。しかし、胴体と肩甲骨の間には関節がないため、その位置を決める手掛かりが骨格には残されていません。
  • 現在、生きている四足歩行動物の肩甲骨の位置を調べてみると、胴体前方の正中寄りという特定の場所に置かれているという共通点が発見されました。肩甲骨の位置がわかっている現世のネコ、ラット、カメレオンを使って、三次元筋骨格シミュレーションを行った結果、四足歩行する動物にとって、前肢で胴体をバランスよく支え、かつ、その際に胴体の骨格に与える負担を最小限に抑えるのに最適な位置に肩甲骨が置かれていることが示されました。


【研究背景と内容】

動物の肩甲骨は、前肢の起点となる骨です。絶滅動物の復元では、胴体に対して肩甲骨の位置をどのように置くかによって、前肢の姿勢や機能の解釈が変わってくる可能性があるため、肩甲骨の正しい位置を理解することはとても重要です。動物の骨は、通常、関節を介してくっついているため、関節の位置を元にして骨と骨の位置関係を知ることができます。しかし、胴体を構成する肋骨と肩甲骨の間には関節がないため、その位置を決める手掛かりが骨格には残されていません。そのため、絶滅した動物の骨格を組み立てる際、肩甲骨が胴体に対して、どう位置していたかは大きなナゾでした。博物館の恐竜やマンモスの組み立て骨格では、肩甲骨の位置が憶測で決められているのが現状です。そのため、同じ種類の動物の骨格でも、展示によって肩甲骨の位置はまちまちに復元されてきました(図 1)。それでは、どのようにすれば、肩甲骨の正しい位置がわかるのでしょうか。


図 1.肩甲骨(赤で示した骨)の位置の違いによって動物の姿勢は大きく変わります

(恐竜トリケラトプスの骨格を例に)


本研究では、体を支えて立つことに対して、肩甲骨が果たす役割からアプローチしてみました。動物の胴体は、四本の脚、すなわち、前肢 注 3と後肢 注 3で支えられています。胴体と後肢は、股関節を介してしっかりと関節することで、胴体を持ち上げています。それでは、前肢の方ではどのように胴体を支えているのでしょうか。前肢の一番上にある骨は肩甲骨です。肩甲骨の上端から胴体の肋骨側面や

背骨の上端にかけて、腹鋸筋(ふっきょきん) 注 4 や菱形筋(りょうけいきん) 注 5などの筋肉が伸びています。これらの筋肉を使って、胴体を肩甲骨から吊り下げているのです(図 2)。


図 2.ネコの骨格において、重力の働きで胴体が下向きに回転し、肩甲骨から伸びる筋肉の働きで胴体が上向きに回転することでうまくバランスが取れている様子。青い輪郭で示したのが前肢で、その上端にある骨が肩甲骨(Fujiwara, 2018 を改変)


四足歩行をする動物の場合、胴体に重力や肩甲骨から伸びる筋肉の作用によって、股関節を中心に回転します。重力が働くと、胴体は股関節を中心に下向きに回転して頭部が地面に墜落します。肩甲骨から伸びる筋肉が働くと、胴体を肩甲骨の方向に引っ張りますが、この方向は、肩甲骨と胴体の位置関係で決まります。重力と筋肉が胴体を回転させる力の間でうまくバランスがとれていると、胴体がぶれずに、安定した歩行ができます。現在、生きているネコ、ラット、カメレオンなどの骨格を CT 撮像して作った三次元筋骨格モデルを用いて、歩行中に胴体をうまく安定させられるような肩甲骨の位置を計算してみました。すると、どの動物でも、胴体の前方かつ正中寄りのところに肩甲骨の上端がくると、うまくバランスをとって四足歩行できることが示されました(図 3)。



図 3.前後軸まわり、上下軸まわり、左右軸まわりに胴体がぶれないよう安定させることができる肩甲骨の位置をそれぞれ赤、緑、青の曲面で示した(左から、ネコ、ラット、カメレオン)。これらの曲面が互いに近づく場所に肩甲骨があると、胴体はあらゆる方向のぶれに対して安定する。実際の肩甲骨の位置は黄色で示す(Fujiwara, 2018 を改変)。

また、胴体は肋骨を介して、肩甲骨から伸びる筋肉(腹鋸筋)によって吊り下げられていますが、これは、すなわち、四足歩行を行う動物の肋骨には胴体全体の重量を支えられるだけの負荷がかかっていることを意味しています。肩甲骨の真下にある肋骨が、もし、折れやすい肋骨だとすると、足(手)を踏み出すたびに骨折のリスクを負ってしまいますが、肩甲骨の真下にあるのが折れにくい構造の肋骨だったとすれば、骨折のリスクは低くなるはずです。肋骨を上に引っ張り上げる力に対する壊れにくさを調べたところ、肩甲骨は壊れにくい肋骨の真上に位置していることが分かりました(図 4)。そうした肋骨は、胴体の前方に位置しており、左右に広がらない形をしています。つまり、肋骨の骨折のリスクを抑えるためには、肩甲骨は胴体の前方かつ正中寄りに位置している必要があるといえます。


図 4.肋骨の壊れやすさと肩甲骨の位置の関係(左から、ネコ、ラット、カメレオン)。

青色で示した肩甲骨が、壊れにくい肋骨の真上に位置していることがわかる(Fujiwara, 2018 を改変)。


以上のように、肩甲骨の位置について、胴体のぶれを抑制する点と、肋骨の骨折のリスクを抑制する点の二つの観点から、四足歩行を行う動物の肩甲骨は、特定の位置にあるべきだということが本研究によって示されました。

現在、生きている四足歩行動物でも、この法則は成り立つのでしょうか。現生動物は、レントゲン動画を撮ることで、生きているときにどの場所に肩甲骨があるかを知ることができます。現生動物のレントゲン動画の研究を精査したところ、四足歩行を行うほぼすべての現生動物で、胴体の前方かつ正中寄りに肩甲骨の上端が位置していることがわかり、本研究との整合がとれました。これは、アザラシやヒトのように、少しでも前肢で体重を支えることができる動物にも共通した特徴です。胴体の骨格の内側に肩甲骨が関節するカメの仲間だけが、その例外となります。一方で、前肢で体重を支えることがないクジラのような完全水生動物や、ヒクイドリなどの完全二足歩行性の動物では、肩甲骨は正中から大きくはずれた胴体の側面に位置していました。これらのことから、前肢で体重を支える動物であれば、肩甲骨は特定の場所に置かれていて、それはうまくバランスをとって歩く、あるいは、骨折のリスクを最小限にして歩くという目的とうまく合致した位置であるということが示されました。本研究によって、例えば、図1の骨格復元の場合、左側よりも右側の復元の方が、より確からしいといえるようになると期待されます。


【成果の意義】

絶滅した動物が生きていたときの姿について、その正解を確かめることはできませんが、正解により近づくためには、動物の骨格形態と生態の間にある法則をひとつひとつ探り出していく必要があります。本研究では、四足歩行をする現生動物の肩甲骨の位置は共通していること、そして、その位置が四足歩行で体重を支えるために最適な位置であることを、2 つの異なる力学的アプローチから明らかにしました。今後、この結果を考慮し、絶滅動物が生きていたときの姿をより確かな根拠に基づいて復元できるようになると期待されます。


【用語説明】

1. 四足歩行:

四本の脚を地面について歩行する様式を指します。ヒトが通常行う二足歩行とは区別されます。

2. 正中:

体を左右にわける面

3.前肢・後肢:

動物の肩から手の先までを前肢、股関節からつま先までを後肢とそれぞれ呼びます。前足・後足という呼称は手首・足首から先の構造を指すもので、厳密には置き換えられる用語ではありません。

4.腹鋸筋:

肩甲骨の上端から肋骨に伸びる筋肉です。

5.菱形筋:

肩甲骨の上端から背骨の上端に伸びる筋肉です。


【論文情報】

掲載雑誌:Journal of Anatomy (John Wiley and Sons)

URL: http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/joa.12778/full

論文名:Fitting unanchored puzzle piece in the skeleton: appropriate 3D scapular position for the quadrupedal support in tetrapods.

著者:Shin-ichi FUJIWARA 藤原 慎一(名古屋大学博物館)

公開日:2018 年 1 月 11 日 21:00PM(JST)、オンライン版の先行公開

DOI:10.1111/joa.12778

研究期間 2013年度~2015年度 (H.25~H.27) 配分総額 4,290,000 円
代表者 藤原慎一 名古屋大学・博物館・助教