脳皮質の表面を走るヒトの思考の様子を見よ
神経科学者たちは、脳のどの部分がどのようなことをしているかについての、一般的な知見は持っているものの、それらが動作している様子を捕えることは難しい命題だ。しかしカリフォルニア州立大学バークレー校の研究者たちはなんとかそれを成し遂げた。ある1つの思考の(少なくともその1つの断片の)脳内での道筋を直接計測し、その結果を視覚化したのだ。
ここでまず言って置かなければならないが、この手の技術を(ずっと昔から、そして今も)調査してきた者として、私は脳=コンピューターインターフェイスの現状に対しては、極めて懐疑的な人間だ。TechCrunchの中でも、私はこの手の話を台無しにする側である。しかし、これは本物だ。なぜならこれは見かけ倒しのものではなく、実際の生々しい手段を通して得られた結果だからだ。
思考が動作するところをともかく見たいだろうか? 下の動画を見てみよう。しかしこれが、なぜとてもクールなのかを知りたければ、この先も読んで欲しい。
通常の頭皮レベルでの脳波検査(EEG)は実施が簡単だ。しかしそれが取得できるのは表面近くの頭脳活動の、非常にぼんやりとした映像だけだ。なぜなら頭髪、頭皮、頭蓋骨といったものを通して、そうしたデータを集める必要があるからだ。
もし途中の邪魔な物を取り除き、電極を直接脳の上に置いたらどうだろうか? おそらくそれは素晴らしいことだが、一体誰がそのような侵襲性の高い実験のボランティアになってくれるだろうか? 結局、既に開頭手術を受けた何人かの人たちが、その役割を担うことになった。
発作の起点を決定するために、脳を綿密に調べる必要のあった、16人の癲癇(てんかん)患者たちがこの実験に参加した。何百もの電極が、皮質脳波記録技法のために、脳の表面に装着された。そして被験者たちは、脳を綿密にモニタリングされつつ、幾つかのタスクの1つを行うように求められた。
上の動画(およびgif画像)では、患者は聞いた単語、ここでは”humid”(湿気が多い)、を繰り返すよう依頼されている。最初に活動が起きるのが、脳の中の言葉を把握する部位であることがわかる(言語野の中の黄色い点で示される)。そのほぼ直後に皮質が(青色で)少し光るが、これは応答への計画に対応したものだ、応答がまだ完全に用意されていなくてもこの反応が起きる。一方、前頭葉の皮質はその応答を知らせるために、単語の処理を少し始めている(赤色で)。なお、ここでは全体を減速して見せている。全ては1秒以内に起きていることだ。
基本的にここで見ているものは、1つの思考プロセス――「聴いて、その単語を繰り返す」――が、形作られ実際に実行される様子だ。もちろん、これは彩色された点にすぎないが、実際のところ、ほとんどの科学は点なのである。もっと何か凄いものを期待していただろうか?例えば神経軸索上に据え付けられたカメラが捉えた稲妻映像とか?
より複雑な例(上に示したもの)では、被験者は耳にした単語の逆の意味を持つ単語を答えるように指示されている。この場合、下に見るように、単語の処理を行い回答を形成するために、より長い時間が前頭葉で使われている。おそらくは応答のために運動野に情報を送る前に、記憶を探ったりする必要があるからだろう。
「私たちは、環境で何かが起きてそれに私たちが反応する短い時間の中で、何が起きているのかを知りたいと思っています」とニュースリリースの中で説明するのは、筆頭著者であるバークレーのAvgusta Shestyukだ。「この実験は、どのように人びとが考え、そしてどのように異なる意志決定を行っているのか、人びとが基本的にどのように振る舞うのかを観察する、第一歩なのです」。
最終的には、この研究は、脳の活動の計画とコーディネートに対する、前頭葉の役割を調べようとするものだ。そしてその方向へと成果を出しているように見える。しかし脳神経に興味のある読者は既に、このことを既に直感的に感じているだろうし、より詳細を知るために論文を読みたいと思うだろう。それは本日(米国時間1月17日)Nature Human Behavior誌に掲載された。
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(翻訳:sako)