宇宙際タイヒミュラー理論 は2012年に望月新一による Inter-universal Teichmuller Theory と題された一連の論文の中で展開された理論である。ABC予想やVojta予想などの未解決問題を解決したとされるが、2014年の段階では検証は終わっていない。
2012年8月に以下の4つの論文がプリプリントとして、望月氏のホームページで公開された。 公開目的は専門家による学問的検証であり、一般社会へ向けたものではないとしている。
論文を理解するには以下の準備論文の理解が必要としている。
論文は同分野の専門家であれば半年程度で理解に達することができるとしている。 また論文の本命は、宇宙際タイヒミュラー理論によって不等式をどれだけ深く掘り下げていくことができるかということで、ABC予想の不等式はその指標にすぎないとしている。
2012年10月に Vesselin Dimitrov が、
有理数体上の楕円曲線について、を極小判別式、を導手としたとき、
を仮定して、Inter-universal Teichmuller Theory IV の定理1.10の具体例を構成すると、
と矛盾する結果が得られることを示した。これは定理1.10とABC予想が両立しないことを意味する。 これに対し望月は、
の中で、素数が2の場合に関して技術的な問題があるが、本質的な問題ではないとし、その後論文の修正を複数回行っている。
宇宙際のアイデアは宇宙をとりかえるということである。
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楕円曲線 y<sup>2</sup> = x<sup>3</sup> − x と y<sup>2</sup> = x<sup>3</sup> − x + 1 のグラフ |
古くはフェルマーによって研究されていた。 20世紀以降は判別式との不等号関係が明らかにされる。
楕円曲線の初等的な定義は以下の通りである。
a と b が実数のとき
という平面曲線。この形をした方程式はワイエルシュトラウス方程式と呼ばれる。 この方程式が重解をもたないとき、楕円曲線と呼ぶ。
ワイエルシュトラウス方程式の判別式が以下で与えられる。
この値が0のとき楕円曲線となる。
thumb|right|200px|複素数平面の部分集合上のワイエルシュトラウスのペー函数を、色彩によって視覚化したもの。極の格子と零点の格子が混合した周期をもつ。
ある種の楕円曲線はワイエルシュトラウスのペー関数から出現する。複素数 ω1, ω2 のとき、
このペー関数を微分方程式として解くと、
という楕円曲線の形になる。つまり、ペー関数と楕円曲線が1対1対応する。
ペー関数の逆関数は、
という楕円関数の一種である。楕円の周の長さを計算する関数の研究の中で生まれた。これが「楕円」曲線の名前の由来となっている。
以上をまとめると楕円曲線の研究はペー関数のような解析的な研究、もしくは複素トーラスのような幾何的な研究と連動する。
ディオファントス方程式論の代数幾何的アプローチのことをいう。類似物として大域的数論力学がある。 宇宙際タイヒミュラー理論によって不等号に関する強力な計算が可能になった。 このことで弱いABC予想や双曲線上のヴォイタ予想などが解決するとしている。 なお、宇宙際理論の計算の精密化により、フェルマーの最終定理の初等証明を与える強いABC予想も容易に証明できるという。
ABC予想
以下で定義する。
rad(n) := 正の整数 n について、n の互いに異なる素因数の積。
(a,b,c) が abc-triple: ⇔ 自然数の三つ組 (a,b,c) で、a + b = c かつ a < b かつ a と b は互いに素。
任意の実数 ε > 0 に対して定数 K が存在し、全ての abc-triple な (a,b,c) について次が成立する。
楕円曲線に関するp進タイヒミュラー理論をアナロジーとしてアラケロフの視点で幾何学を展開したものである。1999年に望月により導入された。 重要な定理として、「標数0の非特異な楕円曲線の普遍拡大における次数d以下の多項式関数空間から、d等分点でのd^2次元関数空間への自然な同型射が存在する」が知られている。
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スキームと同様に幾何学的対象を圏として扱うが、対象を集めたものの性質に言及しようとすると2圏となってしまう。 |
圏の一種で、2008年に望月により導入された。フロベニウスとモノイドに由来する。スキームのような幾何学的対象として扱われる。
グロタンディークが構想した幾何学。遠アーベルとは可換群との関係が遠いという意味。このような幾何学が成立するかは不明で、グロタンディーク予想と呼ばれている。双曲的曲線など一部に関しては定義に成功しているが、高次元では成立しない可能性が高い。
まず、初期テータ情報が与えられる。
初期テータ情報とは、
の組のことである。
ことなる素数Lや体Fごとに初期テータ情報は無数に存在し、 特殊な添え字の理論によってラベルがつけられる。 テータ橋梁がこのラベルを参考にことなる初期テータ情報の関連付けを行う。 テータ橋梁が関連付けるのはテータ情報から出現する素数ストリップのいくつかの組で、 この射の集まりのことをホッジ舞台とよぶ。
対数テータ格子の縦向きの流れ(リンク)に該当する。
対象として有限次エタール被覆がひきおこすアナベロイド、射を有限次エタール射としてとった2圏を考える。この圏の自己同型を'id'へ制限すると1圏として扱える。この圏の終対象が核である。核は基点を1つしか持たないという特性をもつ。
Inter-universal Teichmuller Theory III の定理3.11で構成された論文の抽象的部分の中心となる手法。ガウス積分を多数の宇宙に分離して計算の精度を高め、重みの定理により集計するシステムとして宇宙際アルゴリズムが働く。
巨視的にはスキーム論的ホッジアラケロフ幾何は、テート=セミツイストのスキーム論的表現に過ぎず、 古典的なガウス積分、リーマン仮説や一般的なL関数、そして宇宙際タイヒミュラー理論さえもが重み1/2のテート=セミツイストの具体例にすぎないとしている。
グロタンディーク宇宙や種の言語と呼ばれる理論により宇宙際の議論の数学的定式化の構想をしている。
種の言語
thumb|200px|五つの要素における種の構造を視覚化したもの。
構造の種はAndre Joyalにより導入されたと考えられ、離散数学では集合・関数・圏・木・オペラッド・グラフなどと同様の基本的な組合せ論的概念と考えられている。しかし多くの数学者が同様の概念を異なる表記で研究してきた。構造とはあらゆる数学的概念が展開できるほど基本的な領域であり、この構造間の転送となる関数が種と定義される場合が多い。集合や圏なども具体例としてとることができる。 定義は以下で与えられる。
このようにきわめて基本的な数学対象であるとともに、圏論の計算を可能にもする。
グロタンディーク宇宙
公理から論理的演繹のみであらゆる数学を展開できるとされる公理的集合論ZFCのモデルとなる集合は、宇宙などと称されることが多い。圏の一般理論はZFCだけでは展開できないが、ZFCに新たに別の公理を加えたZFCGにおいては展開できるようになる。このモデルとなるのがグロタンディーク宇宙である。
グロタンディーク宇宙とは以下の定義で与えられる集合 U である:
ZFCに付け加える公理、つまり論理式によってことなるモデルであるグロタンディーク宇宙が無数に作れるようになる。このとき、ZFCで成り立つ論理式の集まりをひとつの構造とみなす。すると種の理論によって別の構造や種との理論が作られる。種の理論は決定的なアルゴリズムとして利用する。(ただし、通常の自己同型がこの理論では自己言及による非決定性問題となるという困難の解消が必要だという。)このような視点が'宇宙際'幾何という名称の由来となっているとしている。
以下の問題点が指摘されている。
これらは細部や用語上の問題ではなく、一階述語論理などの基本的な性質に関連するため、Inter-universal Teichmuller Theory IV の Section3 は集合論や数理論理学における文脈では意味をなさない主張になっており、著者が数理論理学について理解をしていない可能性があるという意見がある。(ただし論文の構成上、宇宙際タイヒミュラー理論の正当性とは関係ないとみられている。)
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