イスラエル兵平手打ちの少女、抵抗運動の象徴か宣伝道具か
ヨランド・ネル記者、BBCニュース(ナビ・サレ村)
パレスチナ人の少女、アヘド・タミミさん(16)は一部の人にとっては現代版のジャンヌ・ダルクだ。一方、パレスチナ側が仕組んだプロパガンダの主役だとして、米ハリウッドの子役スターのシャーリー・テンプルにひっかけて「シャーリー・テンパー」と呼ぶ人もいる。
16歳にして、アヘド・タミミさんは有名なパレスチナ人勾留者となった。昨年12月、兵士に暴行し暴力を扇動した疑いで、イスラエル側に逮捕されたのだ。
イスラエルの軍事法廷の判事は17日、公判を控えるアヘドさんの勾留延長を決定した。
容疑の最大の証拠となったのは、12月に撮影されインターネットに投稿された動画だ。この動画は瞬く間に拡散され、主流メディアでも繰り返し放送され議論された。
動画の中でアヘドさんは、ヨルダン川西岸にあるナビ・サレ村の自宅前で2人のイスラエル兵に立ち向かい、「出て行け」と要求している。
アヘドさんはイスラエル兵を突き飛ばし、そのうち兵士の一人がアヘドさんを払いのけた。その後アヘドさんは兵士を平手打ちしたり、いとこのヌールさんと足で蹴ったりした。イスラエル兵は相手にせず、アヘドさんの母親ナリマンさんが割って入って止めた。
一連の様子はナリマンさんがフェイスブックでライブ配信した。
数日後、夜に家宅捜索が行われ、イスラエル軍が撮影するなか、アヘドさんは逮捕された。
娘に面会しようと警察署を訪れた母親のナリマンさんも拘束された。
アヘドさんの弁護士を務めるガビ・ラスキー氏は「非常に重要な事件になった」と話す。「多くの人が、イスラエルとパレスチナの衝突について知っていたり感じたりしていることの、すべてのエネルギーをかけている。法廷でそれが感じられる」。
ラスキー氏は、「長い間、イスラエル側は占領の事実と向き合ってこなかった。議論してこなかった」と述べ、裁判によって問いが投げかけられていると示唆した。
「占領された人たちは、占領と闘う権利はあるのか?是か非か。そして、どう闘うのが一番いい方法なのか」
「挑発的な戦略」
多くのパレスチナ人にとって、アヘドさんはデジタル時代を生きる自分たちの愛国的な闘いの英雄だ。イスラエル側の占領という現実に立ち向かい、素手で故郷を守っていると感じているのだ。
この出来事が起こったとき、アヘドさんは怒っていたという。15歳のいとこがゴム弾で顔を撃たれ、重傷を負ったばかりだったからだ。
一方、イスラエルのメディアは、この兵士たちが称賛すべき自制心を見せたのか、それとも臆病だったのかを議論している。イスラエル国防軍(IDF)によると、2人の兵士はイスラエル側が使用するナビ・サレ村の道路と部隊に対し投石するパレスチナ人に対応するため、配置されていたという。
イスラエルとパレスチナをめぐっては、米国がエルサレムをイスラエルの首都と認める決定をしたことを受け、広範囲に渡って混乱が続いている。
アヘドさんの動画が激しい議論になったのは、これが初めてではない。タミミさんの家族はこれまでも意図的に兵士を挑発し、反イスラエルのプロパガンダを仕立てたとして、イスラエル側から非難されている。イスラエルを支持する活動家たちは、このような動画をハリウッドになぞらえて「パリウッド(パレスチナ製のハリウッド)」と呼んでいる。
ある動画では、当時11歳のアヘドさんが兄を逮捕した兵士を殴ろうとしている様子が撮影された。また2年前は、弟を拘束しようとした兵士の手をかんだ。
「今は投獄され、代償を払うことになる。とても大きな代償だ」と、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相率いる与党リクード党議員のアナト・ベルコ氏はいう。「家族がこのような行為を止めなかったのはとても残念だ」
「動機は挑発のためだった。我々の勇敢な兵士はタミミ家の少女の挑発に乗らなかった」
「新たな世代」
筆者はアへドさんの父親バセム・タミミ氏を家に訪ねた。バセム氏は活動家で繰り返しイスラエルにより投獄されており、最近では違法なデモに参加し投石を扇動したとして投獄された。
長年にわたりバセム氏は、村人たちに加えて多くの場合はイスラエル人や海外で連携する活動家たちが参加する週一回の抗議デモを組織し、イスラエルの入植によって奪われた近隣の土地に向かってデモ行進することを試みてきた。
入植は国際法違反とみられているが、イスラエルは受け入れていない。
大抵の場合、デモ行進はイスラエル兵との衝突へとつながり、催涙ガスやゴム弾が使われる。しかしバセム氏は毎回4人の子供たちが参加するのを許してきた。
2012年には、子供たちのおじが鎮圧部隊との衝突で射殺された。
以前にアへドさんは、当時のレジェップ・タイイップ・エルドアン首相からトルコへ招待され、行動を称賛されたことがある。そして最近はパレスチナの活動家として南アフリカと欧州議会で演説している。
「もちろん心配しているが、自分の娘を誇りに思う。娘が新たな世代の抵抗運動の精神的な象徴かつ手本になってくれているのはうれしい」とバセム氏は話す。
娘が映っているビデオは演出だという見解を、バセム氏は一蹴する。
「映画だとか、劇場だとかいう人もいるようだが? では私はどうやってイスラエル兵を家に連れてきて演じさせるのだと問いたい」とバセム氏はいう。
軍事法廷
パレスチナ人の子供たちとイスラエル兵の衝突はヨルダン川西岸ではほぼ日常的に起きている。
IDFによると、過去3年間で約1400人の未成年が特別少年軍事法廷で起訴されているという。
パレスチナの人権団体はイスラエルの司法制度に対して批判的で、基本的権利は守られず公正な裁判が保障されていないという。
同団体はイスラエル人入植者は民間の法廷で裁かれると指摘する。しかし、ヨルダン川西岸のIDFの元主任検察官モリース・ハーシュ氏は制度を擁護する。
「基本的権利は全員に保障されている。イスラエル人だろうとパレスチナ人だろうと関係ない」と現在はエルサレムに本拠地を置き、アラブとイスラエルの対立に関連した人権侵害や国際法違反の疑いのある事例を監視するNGO、「モニター」に在籍するハーシュ氏はいう。
「アヘドさんは尋問された。尋問では黙秘して黙秘権を行使した。アヘドさんは弁護士に相談する権利を行使した」
「駆り立てられた襲撃」
ハーシュ氏は、アヘドさんにかけられている容疑の中で、より深刻なのは「世論に影響を与えようと企てた」ことと「攻撃を実行するように直接呼び掛けた」ことだという。
ネット上のビデオの最後の部分で、アヘドさんは「結果を出す唯一の方法」だとして大規模なデモを呼び掛けているが、ドナルド・トランプ米大統領は刃物や自爆攻撃によるパレスチナ人の暴力について責任を負うべきだと言っている。
アヘドさんの母親、ナリマンさんも暴行と暴力を扇動した罪を問われている。アヘドさんのいとこのヌールさんは暴行の罪に問われている。
3人の事件の展開は絶えず注目されることになり、結果がどうなろうと双方が精神的な勝利を主張することになるだろう。
(英語記事 Ahed Tamimi: Spotlight turns on Palestinian viral slap video teen)