【ワシントン=河浪武史、ニューヨーク=平野麻理子】2017年末に決まったトランプ米政権の大型税制改革を受け、米企業が国内投資と雇用増に一気に動き始めた。アップルは17日、300億ドル(約3兆3千億円)を米国内で投資すると表明。「トランプ減税」を契機に雇用増や賃上げを決めた企業は100社を超える。トランプ大統領は成果を強調するが、景気が過熱し、一段の金融の引き締めを招く可能性もある。
米連邦準備理事会(FRB)は17年12月、減税効果を見越し、18年の経済成長率予測を2.1%から2.5%に引き上げた。三井住友アセットマネジメントの試算によると、米国の税制改革が18~19年の成長率を0.4%分押し上げる。
与党・共和党のライアン下院議長は「賞与や賃上げ、米国内投資といった施策を公表した企業は160社を超す」と語った。賃上げなどの対象となる米労働者は既に260万人を超すという。
アップルが今回表明した投資計画は(1)米国内の人工知能(AI)などの事業に5年で300億ドル投資(2)雇用を2万人積み増し(3)先進製造業への投資基金も50億ドルに増額――が柱。低税率国に2500億ドルもため込んだ海外資金を原資とする。
米国の法人税率はこれまで35%と高く、海外で稼いだ利益も米国に戻した時点で35%を課税する仕組みだった。ただ、17年末に決まった税制改革では18年から法人税率を21%に下げ、さらに海外所得は米国に資金還流しても原則非課税とした。こうした措置が今回の巨額投資の決断を促したのは間違いない。
米国は05年にも時限立法で国内に還流する所得への税率を大幅に引き下げた。この結果、当時の米企業の海外内部留保額の3割にあたる2千億ドルが国内に戻ったとの推計もある。クレディ・アグリコル銀行の斎藤裕司外国為替部長は「数年かけて全体の1割程度の2千億ドル超が米国内に戻り、ドルを押し上げる要因になりうる」と指摘する。
減税で浮いた資金を従業員に還元する米企業も相次いでいる。米ウォルマート・ストアーズは最低賃金を時給10ドルから11ドルに引き上げ、最大1千ドルのボーナスも支給する。
日本企業ではトヨタ自動車の北米営業利益は全体の15%に相当し、減税の恩恵も大きくなりそうだ。設備投資が活発になれば産業機械の需要が増え、日本企業の業績を改善させる要因にもなる。
ただ、米経済は失業率が17年ぶりの水準となる4.1%まで下がり、完全雇用に近い。労働市場が一段と逼迫すればインフレにつながり、FRBは利上げを加速して逆に景気を冷やさなくてはならなくなる。
トランプ氏は「大型減税で成長率を3%に引き上げる」と主張する。ただ、米国に企業とカネが回帰すれば周辺国の空洞化を招き、各国との通商摩擦が激化するリスクもある。